沈黙の狂詩曲 精華編 Vol.1 & Vol.2 [読書・ミステリ]
沈黙の狂詩曲 精華編Vol.1 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)
- 作者: 日本推理作家協会
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2021/05/11
- メディア: 文庫
沈黙の狂詩曲 精華編Vol.2 (日本最旬ミステリー「ザ・ベスト」)
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2021/06/16
- メディア: 文庫
評価:★★★
2016年~2018年の3年間に発表されたミステリ短編から、30作を選んで編まれたアンソロジー。『沈黙の狂詩曲』にはそのうち半分の15編を収める。
残りの15編は『喧噪の夜想曲』に収録されており、こちらも文庫化されている。
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《Vol.1》
「三月四日、午前二時半の密室」(青崎有吾)
作者の短編集で既読。
女子高校の卒業式があった日の午後、クラス委員の草間は卒業式を休んだクラスメイト・煤木戸(すすきど)の家へ卒業証書を届けにやってきたのだが・・・
「奇術師の鏡」(秋吉理香子)
敗戦直後の東京。傷病兵の栄作は戦災孤児の正志を拾い、奇術を仕込み始める。そして正志の実家にあった高価そうな鏡を手に入れるのだが・・・
ミステリと云うよりは、いわゆる "奇妙な味" の作品か。
「竹迷宮」(有栖川有栖)
ミステリ作家・松丸は、実家に戻って小説を書いている昔の仲間・冴木のもとを訪れるのだが・・・
ミステリと云うよりはホラー。
「銀の指輪」(石持浅海)
作者の短編集で既読。
ヒロインは殺し屋。請け負った対象の男を尾行中に奇妙なことに気づく。既婚者なのに浮気をしており、しかも相手に会うときに限って結婚指輪をしていることに・・・
指輪一つから導き出される推理が秀逸。
「妻の忘れ物」(乾ルカ)
ヒロインの女子大生はショッピングビルの忘れ物センターでアルバイト中。ある日、年配の女性が亡夫の形見でもある「くつべら」を探しに来るが・・・
日常の謎系ミステリ。人によってモノの価値は大きく変わる。歳をとればなおさらか。
「事件をめぐる三つの対話」(大山誠一郎)
作者の短編集で既読。
殺人事件を巡る警察署内で交わされる会話が三つ。終わってみると真犯人が捕まっているという、一風変わった構成だが、ミステリとしてはきっちり。
「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」(織守きょうや)
亡父の遺産を相続する三兄妹だが、実は異母兄がいたことが発覚。若手弁護士・木村は行方不明になっている異母兄を探し始めるが・・・
シリーズものの一編。なんとなくオチは見当がついたよ。
《Vol.2》
「署長・田中健一の執念」(川崎草志)
キャリア組なのにやる気ゼロの署長・田中が、何にもしないのに事件を解決してしまうというユーモア・ミステリ。
往年のコンビ芸人・アンジャッシュの "勘違いコント" を思い出したよ(笑)。
「不屈」(今野敏)
女性刑事・水野と女性新聞記者・山口が、水野の同期の刑事・須田について語る話。行動が鈍重なのでバカにされがちだった須田の、意外な一面が明らかになる。
「などらきの首」(澤村伊智)
新之助の田舎には、「"などらきさん"が棲んでいる」という不思議な言い伝えがある。洞窟にはその白骨化した "首" まであった。だがある日、その "首" が忽然と消えてしまう。
ミステリ的に解決される部分もあるが、最後はホラーに着地。
「迷蝶」(柴田よしき)
還暦を過ぎ、カメラで蝶の写真を撮りはじめた孝太郎。趣味を通じて杉江という男と知りあうのだが・・・。二人の過去が明らかになるにつれて高まるサスペンス、たっぷりとひねりの効いた幕切れ。上手い。
「蟻塚」(真藤順丈)
シドとアサカ、二人の警官がパトロールする行く先に、次々と事件が巻き起こる。うーん、どうもこの人の文章とは相性が悪いようです。どこが面白いのかよく分からないのは私のアタマが悪いから?
「美しき余命」(似鳥鶏)
作者の短編集で既読。
2年半前、家族は事故死して僕はひとりになった。いまは秋葉家に引き取られ、なに不自由なく暮らしている。だけど僕は不治の難病にかかっていて、3年以内に死ぬことが確定していた・・・
終盤の展開は、若い頃の筒井康隆が書いてた不条理小説を彷彿とさせる。
「三角文書」(葉真中顕)
遙かな未来、超古代文明の遺跡から見つかった謎の文書(実は将棋の棋譜)の解釈を巡り、研究者たちの討論が始まる・・・
これ、ミステリじゃなくてSFだよねえ。
「ホテル・アースポート」(宮内悠介)
宇宙エレベーターが設置された島にあるホテルで、密室殺人が起こる。
動機もトリックもこの舞台ならではのもので、よくできたSFミステリ。