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波の鼓動と風の歌 [読書・ファンタジー]


波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)

波の鼓動と風の歌 (集英社文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/09/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 女子高生・来島凪(くるしま・なぎ)は、校外学習での登山中に湖に転落してしまう。目覚めたとき、そこは異世界。そして彼女は人と獣の混じり合ったような異形の姿へと変わってしまっていた。
 囚われの身となっていたナギ(凪)を救ったのは、サージェという少年。彼と共に都を目指す旅に出るが、やがてこの世界の過酷な "定め" を知っていく・・・

* * * * * * * * * *

 高校3年生の来島凪は、運動も勉強も普通の生徒。真面目で努力家だが変わり者と見られていて友人もいない。そんな自分に存在意義や生きる価値を見いだせない日々を送っていた。
 高校最後の行事である校外学習での登山中、クラスメイトの北村なぎさと共に湖に転落してしまう。

 目覚めたとき、そこは何処とも知れぬ異世界。ナギの身体は人と獣の混じり合ったような異形の姿へと変わっていた。左手は太くて毛むくじゃらで、鋭い爪を持つ指が。両脚には恐竜か爬虫類のような鉤爪が。
 この世界では、ナギのような存在は "まじりもの" と呼ばれ、激しい差別を受けていた。ナギもまた囚われの身となり、鉱山で強制労働をさせられていた。

 ナギを救ったのは、紺碧の瞳を持つ12歳の少年・サージェだった。鉱山から逃れた二人は都を目指して旅に出る。やがてナギは、この世界の異様さを知っていく。

 この世界は、"星の海" と呼ばれる、すべての物体を溶かしてしまう液体で覆われている。陸地は無数の巨大な柱に支えられて、"星の海" のはるか上方に存在している。かつては四つの大陸があったが、柱の崩壊とともに砕けていき、いまは島がいくつか残るのみ。ナギが漂着したのはその島国の一つ、サライだった。

 島を支える柱が崩落を続ければ、いずれはサライも "星の海" に飲み込まれてしまう。それを防ぐため、王は自らを "王柱"(おうちゅう)と呼ばれる柱に変えて、島を支える存在になるのだという。
 そしてサージェは、自らを "聖王シュレンの喜生(きっしょう)" だと名乗る。シュレンはかつてサライを収めていた仁王であり、"喜生" とはいわゆる「生まれ変わり」のことだ。彼の望みは、サライの王族に "聖王の喜生" と認められ、王柱へとその身を変えることだった。

 年端もいかない少年の身で、自らの身体を犠牲にしようとするサージェの目的に疑問を持ちつつも、共に都に向かうナギ。しかし都では、王位を巡る争いが勃発していた・・・


 いわゆる異世界転生ものだ。転生に伴ってナギは異形の姿へとなってしまい、衝撃を受けてしまう。まあ年頃のお嬢さんとしては無理もない。
 だが、ナギたちを襲う数々の危機を逃れるとき、彼女の身体が得た "獣の力" は大いに役に立つことになる。

 また、この世界における "まじりもの" の生態はどちらかというと獣寄りで、ナギのように人間と意思疎通ができる者はいないらしい。そういう意味では彼女はこの世界に於ける唯一無二の存在でもある。

 自分が生きる意味を見いだせなかったナギの前に現れたサージェは、自らの身を犠牲にして王柱となることに自分の存在意義を見いだしている。
 そんなサージェと行動を共にしていくうち、ナギの意識は少しずつ変化していく。本書はナギの精神的な成長の物語でもある。

 物語は、本書でいちおうの区切りを迎えるが、ナギ自身の "元の世界" への帰還までは描かれない。
 とはいっても作中では帰還の可能性自体は否定されていないので、続編があるのかも知れないし、この一巻で完結で以後の展開は読者の想像に任せているのかも知れない。
 私としては、数々の試練をくぐり抜けたナギが、成長した ”来島凪” として元の世界へ帰って行った後の話が読みたいので、続編を期待してる。



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