SSブログ

誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 [読書・ファンタジー]


誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 (講談社文庫)

誰が千姫を殺したか 蛇身探偵豊臣秀頼 (講談社文庫)

  • 作者: 田中啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/05/16

評価:★★★


 大坂夏の陣から45年、大阪城が落雷によって損害を受ける。その修復中に見つかったのは、地下深くへと続く石段。そしてその奥には異形の怪物がいた。
 自らを豊臣秀頼と名乗るその怪物は告げる。「千姫は大阪城で殺された」のだと・・・

* * * * * * * * * *

 慶長20年(1615年)5月6日。大坂夏の陣。
 大阪城を大軍勢で取り囲む徳川家康のもとに、悲報がもたらされる。孫の千姫が大阪城内で命を落としたのだという。
 怒りに燃える家康は決戦を決意、翌日の戦いで大阪城は落城する。しかしなぜか、城から落ち延びてきた女たちの中には千姫の姿があった。

 そして45年後の万治元年(1660年)。大阪城の弾薬庫に落雷があり、大爆発を起こして城の一部が破損してしまう。その修復中に見つかったのは、城の地下深くへと向かう石段だった。そしてその奥には、異形の怪物が棲んでいた。
 二十歳ほどの若い男の顔の下に、大蛇の胴体をもつその怪物は、自らを豊臣秀頼であると名乗った。

 その怪物が云うには、大阪城落城のとき、外部への抜け穴であると地下へと案内されてそのまま閉じ込められてしまったのだという。そして洞窟内に生えていたコケを食らって命を繋いでいるうちに、いつしか体が蛇身へと変わっていってしまった。

 そして "蛇身秀頼" は云う。「千姫は大阪城内で殺された」のだと。
 「千姫は生きて大阪城から落ち延びてきた」と告げると、
 「その千姫は偽物だ」と断言する。

 落城後の千姫は、三代将軍・家光の姉として権勢を振るい、現将軍・四代家綱のもとでも、大きな影響力を保持していた。


 前半は、落城直前の大阪城内の様子と、千姫殺害の詳細について語られる。そして後半では、"蛇身秀頼" が東海道を下って、江戸にいる千姫と対決するまでが描かれる。

 柳生宗矩とか坂崎出羽守とか実在の人物も出てくるのだが、メインとして活躍するのは、いわゆる「真田十勇士」たち。猿飛佐助や霧隠才蔵など有名なキャラたちが続々登場する。
 大阪の陣では若き日の彼らが描かれる。何人かはそこで討ち死にしてしまうのだが、生き残った者たちが45年後にも姿を見せ、最後の戦いを演じてゆく。

 タイトルに「蛇身探偵」とあり、文庫裏の惹句にも「時代本格ミステリ」とあるのだが、あまりミステリ成分を感じない。
 まあ忍者みたいな常人離れした運動能力を持つ者が普通に存在する世界、という "特殊設定もの" と考えられなくもないが。

 それよりは、蛇身の秀頼や千姫を騙る者の正体など、伝奇ファンタジーの要素の方が強いかな。それに加えて作者の持ち味であるユーモアも随所に織り込まれる。
 歴史考証がうんたらとか史実がかんたらとかムズカシイことは考えず、頭を空っぽにして読めば、楽しい時間が過ごせると思う。



nice!(5)  コメント(0)