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メルカトル悪人狩り [読書・ミステリ]


メルカトル悪人狩り (講談社文庫)

メルカトル悪人狩り (講談社文庫)

  • 作者: 麻耶雄嵩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/10/13

評価:★★★☆


 シルクハットのタキシード姿の悪徳 "銘探偵"・メルカトル鮎(あゆ)が、ミステリ作家・美袋三条(みなぎ・さんじょう)を相棒に活躍する短編集。
 文庫でわずか3ページのものから80ページまで、長さも内容もバラエティに富んだ8編を収録。

* * * * * * * * * *

※( )内は文庫におけるページ数。

「愛護精神」(26)
 美袋の住むアパートの大家・多美(たみ)の飼い犬が死んだ。家の庭に死骸を埋めながら、多美は語る。犬は毒殺されたのだと。そして犯人は夫の先妻の子・徹(とおる)なのだと。
 2年前に家を飛び出した徹は、多美を殺して夫の遺産を手に入れようとしているらしい。
 美袋から事情を聞いたメルカトルは、意外な推論を展開してみせる。


「水曜日と金曜日が嫌い」(62)
 アンソロジー『7人の名探偵』(講談社文庫)で既読。
  山中で道に迷った美袋(みなぎ)は、一軒家の洋館に辿り着く。そこは高名な脳科学者・大鏡博士の屋敷で、彼が養子にした4人の男女が逗留していた。博士は既に亡くなり、遺産はその4人が分割相続する。しかし屋敷の離れで大量の血痕が見つかり、やがて死体が・・・
 長編なみのネタが仕込んであるけど文庫で60ページほど。
 メルカトル鮎は語る。「私は長編には向かない探偵なんだよ」
 まさにその通りのスピード解決(笑)。


「不要不急」(3)
 コロナ禍の元、ホームステイする探偵たちについてメルカトルが言及する掌編。ラスト3行の意味がよく分からないんだが・・・


「名探偵の自筆調書」(5)
 なぜ屋敷で人殺しが起こるのか。メタ的に云えば "ミステリ作家の都合" なのだろうが、メルカトルが語るとそれも面白く読める。ラストの切れ味もいい。


「囁くもの」(62)
 メルカトルと美袋は鳥取市にある貿易会社・若桜(わかさ)商事へやってきた。社長の若桜利一(としかず)の自宅に泊まった二人だが、その夜、社長秘書の郡家浩(こおげ・ひろし)が殺される・・・
 今回のメルカトルはミステリの神がかり的にキレッキレ。言い換えれば不自然なくらい先が見える行動をとってる。でもまあ「メルカトルだからねぇ・・・」で済んでしまうあたり、さすが "銘探偵"?


「メルカトル・ナイト」(47)
 女性作家・鵠沼美崎(くげぬま・みさき)はホテル暮らし。その彼女のもとへ不審なトランプのカードが届き始める。まずダイヤのK(キング)が送られてきて、翌日にはQ(クイーン)、その次はJ(ジャック)、10、9、・・・そしてA(エース)まできたら、その翌日からはハートのK、Q、J・・。いまはハートの4まできた。
 ハートのAが届いた日の夜、メルカトルの指示で、美袋は美崎の寝室の前で寝ずの番をすることになったのだが・・・
 すべてを見通していたメルカトルの行動にあっと驚く一編。


「天女五衰(てんにょのごすい)」(58)
 丹後の観光地、真名井瑚へやってきたメルカトルと美袋。天気が崩れ、二人は天女堂の中で雨宿り。そこで死体が入りそうな大きいトランクを見つける。
 劇団『皿洗い』の一行とともに知人の別荘に泊まった二人だが、翌朝、劇団所属の俳優・牧一政(まき・かずまさ)が死体で発見される・・・
 メルカトルの推理で、二人が前日にトランクを見つけたことが、事件の様相に大きな影響を与えていたことが明らかに。


「メルカトル式捜査法」(80)
 体調を崩したメルカトルは、静養を兼ねて美袋と共に乗鞍高原へやってきた。過去の事件で知りあった神岡翔太郎(かみおか・しょうたろう)の別荘に泊まることに。
 神岡は5年前に妹の美涼(みすず)を病で亡くしていた。いま別荘には美涼の大学時代の友人たちが滞在しているという。
 その翌日の夕刻、美凉の友人たちの一人の猪谷拓真(いのたに・たくま)が金属バットで撲殺されているのが発見される・・・
 メルカトルの組み立てる推理は意外な犯人を指摘する。このラストシーンには大抵の読者は驚かされるだろう。


 メルカトルは探偵だから事件を解決するのはもちろんなのだが、彼の場合はそれだけで終わってない疑惑がある。
 事件の様相や犯人の目論見に、周囲の人間よりも早く気づいてしまうがゆえに、裏で何かしてるんじゃないか・・・って疑われるのだ。犯人の邪魔をしたり、逆に煽って事件を大きくしてしまうとか。何らかの形で事件に関わって、その進む方向をねじ曲げていそうな。
 たぶん「そのほうが面白そうだ」って考えてるからだろう。全く始末が悪い(おいおい)。
 まあ、そのとばっちりを真っ先に浴びるのが美袋くんで、毎回苦労が絶えないことについては、同情を禁じ得ないが(笑)。



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