SSブログ

二十面相 暁に死す [読書・ミステリ]


二十面相 暁に死す (光文社文庫 つ 1-48)

二十面相 暁に死す (光文社文庫 つ 1-48)

  • 作者: 辻真先
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/09/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 1946年、春。二十面相の暗躍は続いていた。復員してきた明智とともに新たな戦いを始めた小林少年だったが、捕縛には一歩及ばない状態が続く、
 そんな中、"口笛を吹く二宮金次郎の石像" を調べに向かった小林少年は、その意外な正体を知る・・・
 辻真先版『怪人二十面相』シリーズ第二弾、『焼跡の二十面相』続編。

* * * * * * * * * *

 1946年、春。軍に招集されて暗号業務に携わっていた明智探偵が復員して来たが、二十面相の暗躍は止むことはなかった。
 資産家の羽柴壮太郎の屋敷には明智探偵と小林少年の偽物が現れ、秘蔵されていた黄金の厨子を騙し取っていったのだ。

 さらに銀座の太田垣美術店では、二十面相からの予告状の通り、衆人環視の中から魔道書が盗み出されてしまった。
 時を置かず、続けて名古屋でも二十面相の犯行予告が。明智と小林少年は東海道線で名古屋に向かうが、こちらも二十面相に先を越されてしまう。

 東京へ戻ってきた小林少年は、中学校の同級生・白石くんから不思議な話を聞く。小中一貫の女子校・綾鳥(あやとり)学園の校庭に設置されている二宮金次郎の石像が、夜中に口笛を吹くのだという。
 折しも、綾鳥学園の理事長を務める四谷春江(よつや・はるえ)に対して、二十面相から所蔵する神像を盗むという予告状が届いていた。

 その夜、綾鳥学園の校庭を見張っていた小林少年は、春江理事長と数名のアメリカ兵が、校庭の地下へと入り込んでいくのを目撃する。
 さらに二宮金次郎の像まで動き出した。その正体は人間、しかも小林少年と同じ歳くらいの少女だったのだ。春江たちを追って地下の通路に潜り込んだ二人だったが、発見されて逆に追われる羽目になる。

 少女の名は柚木(ゆずき)ミツル。戦災孤児だったところを二十面相に拾われ、手下として働いているのだという。羽柴家に現れた偽物の小林少年に化けていたのも彼女だったのだ。危機に陥った二人は協力して脱出を試みるのだが・・・


 物語の中盤は、この二人の冒険行が描かれる。本来の素質に加えて二十面相の教育よろしく、ミツルは頭の回転が速く度胸も満点。明智探偵の薫陶を受けてきた小林少年を相手に互角の、時にはそれ以上の大活躍を見せる。

 四谷家は軍需企業を経営していて戦争で大儲けをし、さらに終戦のどさくさに紛れて大量の物資・美術品を横領、私腹を肥やしてきた。そしていま、奥多摩地区に綾鳥学園の新校舎を建設しているが、そこには大量の美術品等が隠匿されているらしい。
 終盤ではその奥多摩を舞台に、四谷家、明智&小林少年、二十面相&ミツルの三つ巴の大混戦が描かれていく。


 前半を読んでいて印象に残るのは、終戦直後の東京や名古屋の風景。このあたりの描写は、やはり当時の雰囲気を知る著者ならではのものだろう。
 二十面相とミツルが東京から名古屋へ移動したのも、この時代だからこそ可能だった手段を用いている。

 そしてなんと言っても本作の目玉は、ヒロインとなるミツルさんだろう。中国系アメリカ人の父と日本人の母に生まれた少女で、悪事の片棒を担いでいるのだが性格はあくまで明朗快活。口を開くと威勢の良い言葉が飛び出す、元気いっぱいのお嬢さんだ。
 共に危機をくぐり抜けていく中、(吊り橋効果だろうが)小林少年との絆も深まっていく。途中、二人が手を繋いで銀座の町を闊歩するというデート(?)シーンまであって、思わず口元が緩んでしまう。小林少年のロマンスは(たぶん)原典にはなかったものだろう。

 しかしながら初恋は実らぬもの。ラストシーンで二人には別れの時が訪れる。とは云っても、お互いに思いを残しての別離なので、再会の目は充分にありそうだ。

 タイトルで『二十面相 暁に死す』とあるように、クライマックスでは生死不明の状況になってしまうのだが、そう簡単に死ぬはずはないので(笑)、明智探偵&小林少年の戦いはこれからも続くだろう。
 本シリーズはいまのところ二作目の本書までしか刊行されていないのだが、ぜひ、続きが読みたいなあ。もちろん、ミツルさんの再登場も期待してます。



nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ: