錆びた太陽 [読書・SF]
評価:★★★☆
舞台は近未来の日本。
21世紀の半ばに、エコテロリズムによっていくつもの原発が破壊され、国土の2割近くが立入禁止区域になってしまっている。
その後、およそ100年を経ても土地の除染・改良作業は遅々として進んでいない。そして汚染地域の管理は、人間型のロボットたちに任されていた。
立入禁止区域のひとつ、北関東エリア(筑波山周辺がモデルと思われる)に、人間の女性がやってくるところから物語は始まる。
国税庁からやってきたという彼女の名は財護徳子(ざいご・とくこ)。ある目的のために、汚染地域の実態調査にやってきたのだという。そのために地域を管理するロボットたちに協力を求めてきた。
かくして、地域に常駐する7人(7体?)のロボットたちは、3日間にわたって徳子と行動を共にすることになるのだが・・・
放射能にまみれた国土、5000万人を割り込んだ人口、経済も低迷を続けている。日本の将来は真っ暗じゃないか・・・って設定なのだけど、雰囲気は不思議と明るめ。それというのも、全編にわたってそこはかとないユーモアに包まれているからだろう。
まず、登場する7人のロボットにはそれぞれ名がある。
「ボス」「マカロニ」「ジーパン」「デンカ」「ヤマ」「ゴリ」「チョー」・・・
分かる人には分かる、昭和の大ヒットTVドラマ「太陽にほえろ!」だ。
そして彼ら7人は ”ウルトラエイト” と呼ばれている。
「7人なんだから ”ウルトラセブン” じゃないのか」
という徳子のツッコミに「登録商標に引っかかるからダメ」って返すボス(笑)。
もっとも、”ウルトラエイト” にはまた別の意味があったりするのだが、それはストーリーが進むにつれておいおい明らかに。
さらには、ロボットたちが飼っているネズミに ”アルジャーノン” って名前がついてたりと、とにかくサブカル系のネタ(それも昭和時代のものが多い)があちこちに。読んでいて思わずニヤリとしてしまう。
もちろん、本編のストーリーもしっかりと描かれる。
長年にわたる放射能汚染と放置で、独自の生態系というか独特の進化を遂げた異形の動物・植物たちが跋扈する世界で、徳子と7人のロボットたちの冒険行が綴られていく。
とくに、”マルピー” と呼ばれる存在が物語の中で大きなウエイトを占めているのだけど、この正体は読んでのお楽しみとしておこう。
そしてこれは、徳子が汚染地域を訪れた理由にも絡んでくる。
物語の後半では、汚染地域を利用した政府・企業による ”陰謀” が明らかになり、その阻止に奔走する徳子とロボットたちの活躍が描かれる。
その中で、徳子の抱えていた秘密をはじめ、ストーリーのあちこちに撒かれていた謎の真相もまた明らかになっていく。
SFに登場するロボットたちは、たいていは ”人間の幸福のために働く” ように設定されている。本書でもそうだ。
しかし「何を以て人間の幸福とするのか」「そのためにロボットはどう行動すべきなのか」は難しい問題だ。7人のロボットたちは、徳子とともに悩み(?)ながらこの問題を乗り越えていく。
そこが本書の一番の読みどころだろう。