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コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 [読書・ミステリ]


コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)

コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 主人公・藤村京(ふじむら・みさと)は、いわゆる ”コミュ障”。
 他人と話すことはおろか目を合わせるのさえ苦手な彼だったが、大学には無事合格し、法学部の学生となった。

 ちなみに、彼の通う大学のモデルは千葉大学と思われる。最寄り駅が西千葉みたいだし。

 同期生の中に、たまたま小学校の時の同級生・里中がいたものの、彼は藤村くんとは真逆の対外交渉能力の塊のような男。その差の大きさに落ち込んでしまう藤村くんであった。

 そんな彼が学生生活の中でいくつかの謎に遭遇、それを解決していくことで、彼の周囲に、そして彼自身に起こっていく変化を描く連作ミステリ。


「第一話 論理の傘は差しても濡れる」
 入学後のガイダンスが終わり、各自の自己紹介が始まった。九死に一生の思いでそれを乗り切った藤村くんだったが、そのために精根尽き果ててしまい、気がつけば同期生たちはみな、教室を出て行ってしまっていた。
 そして教室の片隅には高級な傘の忘れ物が。同期生たちの自己紹介の内容を思い出しながら持ち主を突き止めようと推理を巡らせる藤村くんだが・・・
 言葉の断片や些細な事実から複雑な推理を組み立てていく様子は、短編ミステリの名作「九マイルは遠すぎる」(ハリィ・ケメルマン)をちょっと思い出してしまった。

「第二話 西千葉のフランス」
 里中に連れられて、服を買いに西千葉のセレクトショップを訪れた藤村くん。店を出た2人は同じ法学部の女子学生と出くわし、さらに彼女から不思議な噂を聞く。このセレクトショップではしばしば ”人が消える” らしい。実際、一週間前に知人が試着室に入ったまま消えてしまったのだという。
 藤村くんは里中、そして ”傘事件” で知り合った加越(かごし)さんとともに調べ始めるのだが・・・
 分かってみれば ”コロンブスの卵” だけど、それをきっちりミステリに仕立てるのは流石。

「第三話 カラオケで魔王を歌う」
 里中、加越さん、”人間消失事件” で知り合った皆木(みなき)さんらとともに総勢6人でのカラオケに参加することになった藤村くん。
 例によって歌の順番が回ってくるのを戦々恐々の思いで過ごす藤村くんだったが、そんな中、気持ちよく歌っていた加越さんが酔い潰れてしまう。誰かが、彼女が飲んでいたソフトドリンクをカクテルにすり替えていたのだ。
 加越さんを介抱しながら推理する藤村くん。6人しかいないカラオケボックスの中で、どうやってすり替えたのか、そして犯人の目的は・・・
 ”毒殺”(死んでないけど)ミステリとしてもよくできてる。ストーリーも面白いが、それよりも加越さんの選曲のセンスがスゴすぎる(笑)。

「第四話 団扇の中に消えた人」
 加越さん、皆木さん、そして里中が連れてきた経済学部の学生2人を加え、総勢6人で地元のお祭りに出かけることになった藤村くん。
 そのさなか、経済学部の学生の財布が掏(す)られてしまう。現場は狭い路地で、芋を洗うように混雑していることから、犯人はまだ現場から立ち去っていないと思われた。
 里中と加越さんは現場の人流をいったん止めてもらい、犯人探しを行うことになった。そこで藤村くんが一計を案じ、見事犯人を ”あぶり出す” ことに成功するのだが・・・
 いわゆる ”見えない人” のバリエーションなのだろうけど、こういうパターンを思いつき、それを堂々と使ってしまうのがスゴいと思う。
 さらに、皆木さんの意外な特技が炸裂する。読んでいて思わず目が点に。

「第五話 目を見て推理を話せない」
 法学部棟4階にはかつて「喫煙室」があった。しかし建物内が全面喫煙となったため、そこは簡易的な休憩室&カフェスペースになっていた。
 その「元喫煙室」に設置してあったデスクトップパソコンが盗まれてしまう。もともと利用者はほとんどなく、藤村くんが ”ラウンジ組” と呼んでいる少人数のグループが使うのみ。そしてその ”ラウンジ組” のメンバーたちは、仲間の一人である姫田を犯人と決めつけようとしていた。
 しかし犯行時の「元喫」は、カードキーが破損していて誰も入れない状態であった。それを知った加越さんは姫田犯人説に異を唱え、”ラウンジ組” のメンバーたちと激しく対立することに。
 里中から救援要請を受けた藤村くんは、密室からの盗難事件に挑むことになるが、事態は意外な方向に進展していく・・・


 本書の単行本時のタイトルは『目を見て話せない』だった。まさにタイトル通りの ”コミュ障” 青年だった藤村くんは、友人ゼロからのスタート。
 しかし ”事件” を解決するごとに仲間が増えていき、後半では藤村くんを中心とした ”探偵団” の様相を呈していく。

 探偵活動には関係者からの情報収集が欠かせないが、そこのところは里中が一手に引き受けてくれる。ワトソン役以上の貴重な相棒だ。
 それに加えて、元気溌剌を絵に描いたような加越さん、無口でクールな皆木さんと、タイプの違う二人の美女とお近づきになれて、けっこう羨ましい学生時代を送っている藤村くん(笑)。もっとも、”コミュ障” ゆえにまともに会話できないのはご愛敬だが(おいおい)。

 彼ら彼女らの後押しを受け、少しずつ藤村くんも変わっていく。そしてクライマックスとなる「第五話」終盤の謎解きシーンはまさに圧巻の一語。
 いままでの鬱憤を一気に晴らすかのような藤村くんの大活躍には、感動で胸が熱くなる。

 よくできた話を読んだ後はいつも思うことだけど、もう少しこの4人組の話が読みたかったなぁ・・・いつか書いてくれないかなぁ・・・



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