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櫛の文字 銭形平次 ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]


櫛の文字 (銭形平次ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

櫛の文字 (銭形平次ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/01/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 私と同世代かちょっと上の人からすれば「銭形平次」= ”大川橋蔵” だろう。
 彼を主演俳優として迎え、TVドラマとして1966年から1984年まで18年間、総計888回が放映された。これはギネス記録になっているそうで、日本のTV史上屈指のドラマだったことは間違いない。

 原作小説も、長短編あわせて383編ほど執筆されているようで、こちらも結構スゴいシリーズだ。
 本書には、その中からミステリに特化した17編が収録されている。

「振袖源太」「人肌地蔵」「人魚の死」「平次女難」「花見の仇討」「がらっ八手柄話」「女の足跡」「雪の夜」「槍の折れ」「生き葬(とむら)い」「櫛の文字」「小便組貞女」「罠に落ちた女」「風呂場の秘密」「鼬(いたち)小僧の正体」「三つの菓子」「猫の首輪」


 いくつかの作品にコメントを。

「振袖源太」
 衆人環視の中からの人間消失。しかもこれが連続して起こるのだからスゴい。この時代でなら成立するトリックかな?

「人肌地蔵」
 地蔵の表面が人間の肌のように暖かくなり、しかも霊験あらたかになったとの噂がたつ。犯人のものすごい計画性(笑)に驚く。

「人魚の死」
 衆人環視の中の殺人、しかも凶器も見つからないという二重の不可能犯罪。ディクスン・カーにも負けてない?

「平次女難」
 平次に2人の美女が迫り、女房のお静は実家に帰ってしまう(笑)。遺体を検分した平次が事件の真相を喝破するシーンは本書の中で一番の名探偵ぶり!

「女の足跡」
 殺人事件が起こった家で、家族のみならず使用人までみな「自分が犯人だ」と名乗り出るという異様なシチュエーションに。

「雪の夜」
 文字通り ”雪の密室”。トリックもなかなかの力業。これもこの時代だからこそ違和感なく読めるのだろう。

「櫛の文字」
 櫛に刻まれた謎の文字の意味を探ることになった平次。ありそうであまりない暗号ものミステリ。まして捕物帖で見るとは。

「小便組貞女」
 2年前に妻を亡くした圭三郎は、お扇という女を妾に迎えるが。事件の解決より関係者の幸福を重んじる平次の人情が沁みる。読後感は本書で一番いい。

「三つの菓子」
 善兵衛の家で妻と妾と娘の3人による茶会が開かれ、菓子に仕込まれた毒で妾が死亡する。しかし、毒を仕込んだのは妾だったと判明し・・・


 全般的に、平次の捜査ぶりは ”名探偵” という感じではない。遺体と現場を見てピンとくる、ってキャラではないみたい。
 「見当がつかない」って言いながらラストまでいってしまうこともしばしば。もちろん、分かっていても「分からない」って触れ回ってる場合もあるけど。

 それよりは、人情味あふれる親分、という部分に重きを置いてるようだ。
 下手人が分かっても、犯行に至る動機や過程に同情すべき点があれば、罪が軽減されるように自首を促したり、場合によっては見逃してしまったり。
 おかげで、事件を解決に導いても自分の手柄にはならないことも多い。まあそれが人気の理由の一つなのだろうけど。



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