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扉の影の女 [読書・ミステリ]


扉の影の女 (角川文庫)

扉の影の女 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 長編「扉の影の女」と中編「鏡が浦の殺人」を収録している。


「扉の影の女」

 金田一耕助のもとにやってきたのは、西銀座のバー・モンパルナスで働く夏目加代子。深夜に勤め先から徒歩で帰る途中、曳舟稲荷の路地から飛び出してきた男とぶつかってしまう。男が立ち去った後に落ちていたのは、血塗れのハット・ピンだった。

 ちなみにハット・ピンとは、主に婦人用の帽子に用いられる装身具で、落ちたり風で飛ばされないように帽子を留めておくものらしい。

 さらに、路地の奥に入った加代子が見つけたのは女性の死体。しかもそれは彼女の知人である江崎タマキで、若きプロボクサー・臼井銀哉(うすい・ぎんや)を挟んでの恋敵でもあった。

 加代子はそのまま現場から逃げてしまったが、新聞にはタマキの死体が築地の川で発見されたという記事が。何者かが死体を移動させたのだ・・・

 読んでいてちょっと驚いたのは、金田一耕助というキャラのイメージがかなり変わって感じられること。
 映画やドラマでの金田一耕助は、あまり押しが強くなく、人がいい、どちらかというと控えめなイメージで描かれることが多かったように記憶しているが、本書ではいささか異なる。

 もちろん依頼人の秘密は守るわけだから、警察から夏目加代子について聞かれても、あくまでトボけたままで協力をする。もちろん等々力警部もそのあたりはわかってて、”阿吽の呼吸” だ。
 事件の関係者から情報を得るときも、なかなか真実を話さない相手に対して押したり引いたりと、けっこう手練手管を駆使する。

 捜査の中で、終戦のどさくさで私腹を肥やし、財界への影響力を持つ ”戦後派の怪物”(いわゆる ”フィクサー” みたいな?) とも呼ばれる男とも出くわすのだが、金田一耕助は怯むことなく、堂々のタフ・ネゴシエイターだ。

 あまりこういう金田一耕助は記憶にないのだけど、映像での姿が本来のものではなかった、というか、彼のキャラクターの一面しか描いてこなかった、ということなのだろうか。

 もちろん終盤の謎解きシーンでも名探偵ぶりを見せつける。それまでに明らかになった状況や証拠に対して、別方向から光を当てることで事件の様相を一変させてしまうあたり、流石としか言い様がない。


「鏡が浦の殺人」

 鏡が浦海水浴場のホテルにやってきた金田一耕助。

 彼はホテルの屋上で、大学教授・江川が双眼鏡で沖のヨットを眺めているところに出くわす。読唇術(どくしんじゅつ)を体得している教授は、ヨット上の男女が交わしている不穏な会話を読み取っているようだ。

 しかし翌日行われた ”ネプチューン祭” で、美人コンクール審査員を終えた江川教授が原因不明の急死を遂げるという事態が起こる。
 教授に同行していた助手の加藤達子は「これは殺人だ」と主張する。なぜなら、教授が前日読み取った男女の会話は、何者かを毒殺する計画について語ったものだったのだ・・・

 例によって終盤には金田一耕助による謎解きが行われる。これもちょっと異色なのは、耕助がハッタリをかますこと。犯人によるさらなる犯行を防ぐためとはいえ、こんな行動もあまり記憶にない。


 本書は、金田一耕助のちょっと変わった一面が感じられる作品集、ということで収録作を決めたのかもしれない。



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