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白霧学舎 探偵小説倶楽部 [読書・ミステリ]


白霧学舎 探偵小説倶楽部 (光文社文庫 お 35-10)

白霧学舎 探偵小説倶楽部 (光文社文庫 お 35-10)

  • 作者: 岡田秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/01/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 時代は昭和20年。太平洋戦争の敗色も濃くなってきている頃。

 主人公・美作宗八郎(みまさか・そうはちろう)は18歳。病気で2年留年したので未だ旧制中学4年生だ。空襲に見舞われる東京から疎開し、山間の集落にある白霧(しろぎり)学舎へ編入することになった。

 しかし全寮制の名門校であるはずの白霧学舎は、地元ではいささか評判が悪いらしい。生徒たちが周囲の畑から農作物をかっぱらっているかららしいのだが、当時の食糧事情を考えたら責められないかなぁ(笑)。

 転入そうそう、同年齢(彼らも留年してる)の滝幸治と斎藤順平に誘われ、探偵小説倶楽部に入ることに。
 実はもう一人メンバーがいるのだけど、とんでもなくぶっとんでるキャラなので興味があったら読んでください。いわゆる探偵役に当たる人物なんだが、ここまで奇矯なのも珍しいと思う。

 倶楽部の活動は探偵小説を読むことなのだが、戦時下で本が容易に手に入るわけもない。現在の活動は、地元で起こっている連続殺人事件の真相解明に移っていた。
 ここ5年の間に4人の青年が殺され、うち3人は局部が切り取られるという猟奇的な事件が起こっていたのだ。しかし犯人は捕まらず、未解決のままだった。

 そんなとき、村に米軍の爆撃機が墜落し、米兵が1名逃亡しているらしい。白霧学舎の用務助手の若者・林屋健太は、独自に米兵捜しを始める。

 学舎の講堂で講演会が開かれた日、宗八郎たち3人は早々に講演会を抜けだしたが、学舎近くの鐘撞(かねつき)塔の傍らで健太の死体と、凶器と見られる斧を発見してしまう。
 しかし大人たちに通報して3人が戻ってきたとき、死体は移動されて位置が変わっており、しかも斧は消え失せていた・・・


 そしてこれから、3人の探偵活動が始まるのだが、そこに加わったのが地元の女学校に通う16歳の早坂薫。いささか気が強いが美少女だ。
 彼女の家は料亭を経営しており、彼女の家に集まって事件についての会議をすると料理のおこぼれに預かれるわけで、まことに都合がよろしい(笑)。

 健太の事件はそれだけに収まらず、連続殺人へと発展していくのだが、それと並行して宗八郎君の心穏やかならざる日々も描かれていく。

 お約束の展開ながら、宗八郎は薫に対して惚れてしまう。なんとか幸治と順平を牽制しようとしたりと涙ぐましい(笑)努力を巡らすのだが、いささか空回りの観もある。
 それでも薫は一人娘なので、両親は彼女に婿を取らせて料亭を継がせるつもりだとか聞くと心が騒ぎ、もう縁談が持ち上がっているという噂を聞くと心が千々に乱れてしまう。
 読んでる分には楽しいが宗八郎君は気が気ではないだろうなぁ・・・(笑)。

 さて、旧制中学生(年齢的には現代の高校生)が殺人事件に関わるには敷居が高い。なかなか倶楽部メンバーたちの捜査は進展せず、隔靴掻痒な感じは否めないのだけど、終盤にはちゃんと真相にたどり着く。

 まず、動機が予想外。この時代ならではというか、この時代でしか成立しない動機とは言えるだろう。
 そして肝心の犯人。これも意外というか、読んでて「えーっ」と思ったんだが、あちこち読み返してみるとちゃんと伏線は張ってあった。これは完敗でした。

 物語の終盤では8月15日がやってくる。事件が終わって、宗八郎、幸治、順平、そして薫が、これから生きていくのは戦後の世界。
 日本の復興を担うことになる彼らの前途が楽なものではないのは分かってるのだけど、それでも彼らのその後が知りたくなる。
 短編でもいいから書いてくれないかなぁ。



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