短編ミステリの二百年3 [読書・ミステリ]
評価:★★★
短編ミステリの歴史を俯瞰するアンソロジー、全6巻の3巻目。
本書には11編を収録。
「ナボテの葡萄園」(メルヴィル・デイヴィスン・ポースト)[1912]
一人暮らしの老人マーシュが銃で殺される。彼に雇われていた男・テイラーが逮捕されるが、近所に住む娘が自ら犯人だと名乗り出る。しかし、裁判を傍聴していた ”わたし” の伯父アブナーは、意外な真犯人を指摘してみせる・・・
ミステリとしてのフェアさに難があるけど、作者が語りたかったのは法廷でのドラマチックな展開だったのだろう。
「良心の問題」(トマス・フラナガン)[1952]
舞台は軍事政権に支配されたヨーロッパの小国。ユダヤ人の収容所から生き延びた男・ブレマンが死亡する。ナチスの逃亡犯による殺人を疑う憲兵少佐テナントは、コートン医師から事情を聞こうとするが・・・
「ふたつの影」(ヘレン・マクロイ)[1952]
ルーシーの母親は、階段から転落して亡くなっていた。父テッドは幼い娘のために保育士を雇ったがまもなく解雇、二人目の保育士としてやってきたのが本作の主人公エマだ。しかし今度はテッドの叔母が、階段からの転落死を遂げる。
空想癖があり、しばしばイマジナリーフレンド(架空の友達)のことを語るルーシー。しかしエマは、その言葉の中に幾ばくかの真実と、犯人の正体についてのヒントが含まれているのではないか、と考え始める・・・
「姿を消した少年」(Q・パトリック)[1947]
フォスター夫妻は女学校を経営していた。しかし夫が亡くなり、経営を引き継いだミセス・フォスターのもとに、夫の親族の女性たちが押しかけて居候となってしまう。彼女たちの横暴なふるまいで夫妻の一人息子ブランソンの生活は一変してしまう。なんとかおばたちを追い払おうとして一計を案じるのだが・・・
母親への異常なまでの執着を示すブライアンが不気味。
「女たらし」(ウィルバー・ダニエル・スティール)[1950]
女性をたらし込むことにかけては人後に落ちないビー・ジェイ。狩りに出かけて道に迷い、やっとの事で一軒の農家に辿り着く。そこの夫婦に宿を借りるが、妻の方にさっそく粉をかけ始めるビー・ジェイ(笑)。呆れると同時に感心もした。女性にもてようと思ったら機会を逃さず努力を惜しまず、なのだね(おいおい)。
「敵」(シャーロット・アームストロング)[1951]
若手弁護士ラッセルがキッティンガー判事の家を訪れた時、戸外で騒ぎが持ち上がる。近所に住む少年フレディと、マトリンという中年男が言い合いをしていたのだ。子どもたちが可愛がっていた犬をマトリンが殺したのだとフレディは言い張るのだが・・・
「決断の時」(スタンリイ・エリン)[1955]
過剰なまでの自信家のヒュー。彼の家の隣に引っ越してきたのは奇術師のレイモーン。二人の気性は水と油で、ことごとく衝突を繰り返し、ついにはある ”賭け” をすることに・・・
「わが家のホープ」(A・H・Z・カー)[1969]
成績優秀で学生新聞の編集長を務めるティムは、マークル家のホープだ。しかしティムは父親から頼み事をされる。自分の務める会社の社長の息子・デニーを学生新聞のカメラマンとして使ってやってほしいと。
デニーは女遊びと車を飛ばすことにしか興味のないどら息子だった。しぶしぶ受け入れたティムだが、その矢先、町でひき逃げ事件が起こる。犯人はデニーではないかと疑うティムだったが・・・
「ひとり歩き」(ミリアム・アレン・ディフォード)[1957]
仕事にも家庭にも倦んでしまったラーセン。ある日、仕事をサボって郊外の町へ出かけてきた。そこで彼は、十代の少女が男に拉致される場面を目撃してしまう。少女は死体で発見され、やがて容疑者が逮捕されるが、それはラーセンが目撃した男とは別人だった。
冤罪事件であることを知りながら、それを言い出せずに悶々とするラーセン。その間にも裁判は進み、やがて死刑判決が・・・
「最終列車」(フレドリック・ブラウン)[1950]
男が酒場で最終列車まで時間を潰している。時刻は迫ってくるが、男はなかなか腰を上げない・・・。昔、何かのアンソロジーで読んだなぁ。ちょっと幻想的で、一種のファンタジーに属する話かと思う。
「子供たちが消えた日」(ヒュー・ペンティコースト)[1958]
9人の子どもたちを乗せたスクールバスが、子どもたちとともに姿を消してしまう。場所は一本道。片側は崖、反対側は湖。どこからもバスは発見されず、一本道の両端にいた人間たちは、どちらからもバスは出てこなかったと証言する。
なかなか壮大な不可能犯罪なのだけど、このトリック、誰か気づきそうなものだけどね。とはいっても、消失トリックがメインではなく、”バスを消してみせた” 理由のほうが本作のキモだが。
ミステリとしてよくできてるな、って思ったのは
「良心の問題」「ふたつの影」「敵」「子供たちが消えた日」。
「ナボテの葡萄園」はなぁ・・・探偵役だけが知ってる情報が多すぎて、人によったら怒り出すかも(まさかね)。
サスペンスまたはクライムストーリーなのは
「姿を消した少年」「わが家のホープ」「ひとり歩き」かな。
「姿をー」は、私に言わせればホラーだけど。
いわゆる ”奇妙な味”(分類が難しい)なのは
「女たらし」「決断の時」「最終列車」
巻を追うにつれて、ミステリ度がちょっとずつ上がってるとは思うけど、「女たらし」や「最終列車」を選ぶところなど、相変わらず選者の方のミステリを計る尺度は謎(笑)。
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