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血の色の記憶 [読書・ミステリ]


血の色の記憶 (創元推理文庫)

血の色の記憶 (創元推理文庫)

  • 作者: 岸田 るり子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/10/30
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 主人公は京都に暮らす中学3年生、生駒川菊巳(いこまがわ・きくみ)。
 彼は色が識別できない視覚障害を持っているのだが、幼少時には色が判別できた記憶がある。つまり彼は、珍しい後天的な色覚障害なのだ。

 家族は母、再婚した義父、その連れ子の義妹の4人。
 しかし菊巳には幼い頃に、自分ではない別の子どもに対して「菊巳」と呼びかける女の人を見た記憶があった。
 自分は本当に ”菊巳” なのだろうか・・・?。
 アイデンティティーに悩む菊巳は不登校状態になってしまう。

 ある日、ネットで自分の視覚障害について検索していた菊巳は、同じ障害を持つ人が運営する「ランボー・クラブ」というサイトを発見する。
 そのトップにはアルチュール・ランボーの詩が掲げられていた。フランス語で表記されていたにもかかわらず、なぜか菊巳はその詩を読み、内容を理解することができた。フランス語なんて習ったこともないのに・・・

 その頃、京都で探偵事務所を営む三井麻理美(まりみ)のもとへ、人捜しの依頼が入る。東京で病院を経営する川端という男性が、11年前に失踪した妻と息子を探してほしいというのだ。最近、その妻に似た女性を京都で見たという情報が寄せられたのだという。
 息子の名は条次(じょうじ)。今は16歳になっているはずだという。

 物語は菊巳のパートと、麻理美のパートが交互に語られていく。

 不登校の菊巳は、スクールカウンセラーの小林から、母が離婚する前の夫、すなわち実父の名が荒井鉄三だということを聞き出す。
 その直後、菊巳の前に荒井鉄三本人だと名乗る男が現れるが、数日後に死体となって見つかる。第一発見者は菊巳、そして死体はランボーの詩をなぞらえたような状態になっていた。

 このあとも菊巳の周囲では殺人が続き、川端の妻子は単純に失踪したのではなく、その裏には深い謎が潜んでいたことが明らかになっていく。
 後半に入り、母と義父が信じられなくなった菊巳は単独で、ある行動に出ることになるが・・・


 文庫で430ページほど、かなりのボリュームのある小説だ。
 失踪した母子の戸籍の問題、失踪前の川端の妻が傾倒していた占い師、暴力団とみられる男からの脅迫、ある会社で起こった未解決の毒殺事件、ランボーの詩の見立て殺人、密室の中での死体発見、そして終盤には最新の医療技術までと、実にたくさんの要素が盛り込まれている。
 この情報量の多さが事態を錯綜させ、真相への道筋を分かりづらくさせている。最後に至ると、どのピースもきちんとはまって全体の絵が見えてくるのだが。

 菊巳のパートは重苦しい雰囲気に包まれているが、探偵役となる麻理美とその助手との会話のパートは軽妙で、それがいい緩衝材になっている。

 終盤で出てくる医療関係の情報にはちょっと疑問符がつくのだけど、それは瑕瑾だろう。
 真実の自分を見つけるまでの少年の冒険行を描いた、よくできたミステリだと思う。



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