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消滅 VANISHING POINT [読書・冒険/サスペンス]


消滅 VANISHING POINT (上) (幻冬舎文庫)

消滅 VANISHING POINT (上) (幻冬舎文庫)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/01/23
消滅 VANISHING POINT (下) (幻冬舎文庫)

消滅 VANISHING POINT (下) (幻冬舎文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: 文庫

評価:★★

 舞台は国際空港。
 作中に明言されてないけど、たぶん東京国際空港(羽田空港)だと思われる。

 そこに到着し、入国管理を待つ乗客たち。しかしそこで突然、空港内に非常ベルが鳴り渡る。
 同時に大規模な通信障害が発生し、携帯電話をはじめとする通信機器が使用不能に陥る。

 そんな中、入管の列から引き離され、別室へ連行されてしまう乗客たちが。
 その数、全部で11人。年齢も職業もまちまちだ。連行される前の乗客たちの様子を、小さいエピソードを重ねながら紹介していくのが上巻の前半部だ。

 彼らが連れ込まれた部屋には若い女性がいた。しかし彼女は人間ではなかった。高性能なAIを搭載したヒューマノイド(人間型ロボット)だったのだ。

 彼女は ”キャサリン” と名乗り、こう言う。
「この中にテロリストがいます。皆さんは協力し合って、自分にかけられた嫌疑を晴らし、テロリストを見つけだしていただきたい」
 要するに自分たちの手でテロリストを見つけろというわけだ。当然ながら乗客たちは「何だって!?」と怒り出すわけだが、見つかるまでは入国させないと言われてしまう。どう転んでも国家権力には逆らえないわけで、しぶしぶ話し合いを始めることになる。

 ・・・となるのが上巻の半ば。
 以後、たまに食堂に移動したりするシーンとかはあるけれど、基本的には一つの部屋の中での会話劇として進行していく。
 本書は文庫で上下巻、計680ページほどだが、その大部分の500ページ近くがこの部屋の中で起こることだ。読んでいて思ったが、舞台劇みたいになってる。

 場面の変化もないし、(終盤を除いて)新たなキャラが登場することもなく、アクションシーンもなく、ひたすら登場人物同士の会話だけが続く。
 じゃあ退屈か?というとそんなこともないんだな。直木賞作家という肩書きはダテじゃない。会話だけでも十分読み手の興味をつなぎ、ページをめくらせるのは、巧の技といえるだろう。

 だけど星の数が少ないのは、読み終わったときにあまり満足感が得られなかったから。たしかに ”テロリスト” の正体は判明するし、彼らの目的もわかるのだけど、その ”オチ” に至るまでに、これだけのページ数が必要だったのかなぁ、とも思う。

 とはいえ、読んでしばらく経ってからつらつら思いついたことはある。あまり書くとネタバレになるのだけど、本書のテーマのひとつには「コミュニケーション」があると思う。

 間にロボットが入ることで、乗客たちと、彼らを隔離した政府との間のコミュニケーションには断絶が生じる。つまり政府には、彼らと直接接触しようという意思はないことが示されるわけだ。アンドロイドを持ち出してきた理由については、後ほどそれらしいものが明かされるのだけど。

 乗客たちからの対外的なコミュニケーションを司るはずのキャサリンだが、完璧なAIなど存在しないから、当然ながら彼女と乗客たちとの間の意思疎通はうまくいかないこともしばしば。
 人間同士の会話だって、言葉だけでお互いのことを知るには限界がある。しかし、長い時間話し合っていくうちに、彼らの間にはある種の仲間意識も生まれていく。

 そういうコミュニケーションの有り様を描くために、この長大な会話劇が必要だったのかもしれない。

 でもね、本書を読了した直後は「ああ、長かったなぁ~」くらいしか思わなかったんだけどね(笑)・・・。



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