星巡りの瞳 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
舞台は前作『星砕きの娘』と同じだが、時代は数百年遡る。ストーリー上のつながりもないので、こちらを先に読んでも一向に差し支えない。
当然ながら共通して登場する人物もいない。厳密に言えば1名だけいるのだが、それが判明するのはかなり終盤になってからだし、ストーリーに大きく関わるわけでもないので、これも問題ない。
舞台は日本の中世を思わせる敷島(しきしま)国。あちこちに〈鬼〉と呼ばれる怪物が跋扈している世界だ。
現在の都・寧治(なち)には国を統べる大王(おおきみ)がおり、まもなく春宮(はるのみや)[王太子]が指名されることになっていた。
主人公は柳宮(やなぎのみや)家の嫡子・白珠(はくじゅ)。物語開始時点で15歳。王位継承権を持つ五つの宮家の一員であり、同い年の相楽(さがら)とともに春宮の有力候補であった。
大王の長い治世を祝う〈春告鳥の舞〉の日。舞台に上がった白珠の前に、突然〈鬼〉が現れた。鬼は白珠に襲いかかって右眼を負傷させ、宴の場は大騒ぎに。
白珠は「鬼を呼び寄せた」という理不尽な罪を着せられ、全ての官職を失ってしまう。
それから5年。春宮には相楽が指名され、白珠は宮家からの放逐は免れたものの、あちこちの女性と浮名を流すなど、すっかり放蕩者になってしまった。
しかし、〈春告鳥の舞〉の日の騒ぎは記録にも全く残っておらず、さらには人々の記憶からも消えていることに白珠は気づく。これはいったい何故か。
そんなある日、宮中に仕えていた妹・小紅(こべに)が白珠のもとを訪れる。彼女に対して ”御所守(ごしょもり)” の任が打診されたという。
”御所守” とは、いまは廃墟となっている旧都・香久(かぐ)の番人とも言える役どころ。
香久から寧治への遷都が行われた後、旧都には鬼が出没するようになった。そこで大王は ”御所守” を置くことにした。
初代の ”御所守” は大王より預かった神剣を以て鬼を一掃、さらに新たな鬼が入りこまないように旧都一帯に結界を張った。以後、代々の ”御所守” は結界の維持に務めることが任務となった。
作中では明言されていないようだが、 ”御所守” はほぼ終身制らしく、いったん拝命すれば死ぬまで香久の地で暮らすことになるみたいだ。
妹の代わりに ”御所守” の役を買って出た白珠は、下働きの少女・つばめ1人だけを伴に連れ、香久の地へ向かう。
そこで明らかになったのは、旧都が鬼の巣窟となっていたこと。結界は鬼を入れないためではなく、中にいる鬼を外へ出さないためのものであったのだ。
香久の鬼たちを統べるのは、かつて人であったものが妄執に囚われ、〈羅刹〉と化した魔人・陽炎(かげろう)だった・・・
御所寮の寮頭・玄紫(げんし)の手助けを得て陽炎と接触した白珠は、かつて香久で起こった事件のことを知る。陽炎が人から鬼へと化してしまった理由、そしてその元凶となった存在のことも。
終盤では、香久の結界から出た陽炎が寧治の都に現れる。さらには大王の治世に不満を抱く者たちの暗躍もあり、それらが結びついて王都は崩壊の危機に見舞われる・・・
前作でも見られた、物語のスケールの大きさは本作でも健在なのだが、読後感はかなり異なる。星の数が前作と比べて減ってるのには、いくつか理由がある。
まずは物語の決着の仕方。前作での ”大団円” ともいえる締めくくりとは異なり、いささか苦いものが残るように思う。
白珠という主人公は、欲のない人間として描かれていて、作中でしばしば自ら貧乏くじを引くような行動をする。この物語においても、最終的に彼が全てを背負うことによって王都の大混乱が収束していく。それは何より本人が望んだことなのだけど・・・頑張った者、苦労した者は報われてほしいと思んだよなぁ。
まあ、白珠本人には不満は無さそうなのが救いか。
相楽というキャラは、その対局として描かれている。小心者で人が良いいのだけど、その裏で実はけっこう腹黒で要領がよく、結局のところ一番おいしいところを掠っていったりする。こういう二つの面が彼の中では矛盾なく両立してるんだな。本人も自分が善人ではないことを充分自覚してはいるんだが、だからといって行動を改めようとはしないというね・・・。
読んでいてこんなに嫌な奴だと感じるキャラも珍しいんだが、そう思わせるだけの筆力が作者にはあるってことだよね・・・。どこかで彼にギャフンと言わせるような描写がほしかったなあ、って思ったり。
あと、主人公の目をはじめ、身体を欠損する描写が何カ所かあって、それもちょっと受け入れにくい。物語の構成上、必要なのは分かるのだけど、やっぱり読んでいて良い気持ちはしないので。
いろいろ文句を書いてしまったが、遠い過去に端を発するスケールの大きな物語を破綻なくまとめきる作者の力量はたいしたもの。次回作はもうちょっと素直に喜べる作品になったらいいなぁ、とは思うが(笑)。