名探偵の証明 蜜柑花子の栄光 [読書・ミステリ]
名探偵の証明 蜜柑花子の栄光 (創元推理文庫 M い 10-5)
- 作者: 市川 哲也
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2021/10/19
- メディア: 文庫
評価:★★★
前作『密室館』の事件を終え、探偵事務所を開いた蜜柑花子。時間がある限りどんな事件でも引き受けるので多忙を極めている。
語り手は前作に続いて日戸涼。前作では花子を敵視する役回りだったが、いろいろあって現在は花子の助手を務めている。
その事務所を訪れたのは、これも前作に登場した女子大生・祇園寺恋(ぎおんじ・れん)。彼女の母親が花子を狂信的に信奉する団体に囚われているという。
この祇園寺恋というキャラクター。ある意味、前作と今作は彼女が主役といっていいくらい重要なポジションを占めている。
どう大事なのかはネタバレになるが、本書を読む場合は、前作『密室館殺人事件』を読んでおくことをオススメする。
彼らの要求は、花子に4つの未解決事件を再調査させ、真相を突き止めさせること。与えられたタイムリミットは144時間(6日間)。それができなければ恋の母親は殺されるのだという。
事件の現場は4カ所。移動は車のみ。しかも順番が指定されている。東京を出発し、大阪→熊本→埼玉→高知と回らなければならない。
花子は涼と恋とともに、4つの事件解決のために全国を走り回ることになる。
大阪では人体発火現象、熊本ではカルト教団の建物で起こった人体消失、埼玉では足跡の無い殺人現場に残されたダイイングメッセージ、高知では猟奇殺人犯への復讐を果たした犯人がもつ鉄壁のアリバイ。
それぞれの事件を解決しては次の場所へ向かう花子。しかし休息もろくにとれない強行スケジュールゆえに、時間がたつごとに疲労困憊、憔悴の度を深めていくことに・・・
4つの事件のうち、高知の事件はかなりエグい真相が出てくる。こちらもかなり猟奇的。復讐のためには手段を選ばないというのはわかるが、これは究極の方法だね。
もちろん、4つの事件を解決するだけでは終わらず、このあとさらにもうひと捻り、ふた捻りが待っているのだが・・・
ミステリとしては、かなり密度の高い作品。注ぎ込まれたトリックの数も種類も豊富だし、力作なのは間違いない。
だけど、星の数が今ひとつなのは、やっぱり祇園寺恋というキャラが好きになれないことが大きい。
まあ、およそ読者からの感情移入を受け付けないような言動を繰り返しているので、そういう感想を持つのは作者の筆力の賜物なのだろうが・・・
”シリーズ完結” と銘打ってあるのだけど、これは「”名探偵の証明” シリーズの完結」という意味だとも解釈できる。ならば今後も花子さんの登場は続くのかもしれない。全く新しいシリーズを立ち上げるのかもしれないけど。
私は、どちらかというと前者であってほしいかな。中葉悠介の出番ももっと見たいしね。
ただその場合は、祇園寺恋さんの扱いが難しいかな。○○○○○○○○みたいな登場になるのか、それとも一切出さないのか。