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ヨハネスブルグの天使たち [読書・SF]

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫


評価:★★☆

”未来” という言葉に、無条件で明るいイメージを抱けたのは
もうかなり昔のことのような気がする。
今から思えば、せいぜい小学生の頃くらいか。

”未来” になれば目の前の諸々の問題は全て解決する、とまでは
思わなくても、少なくとも解決の糸口くらいは見えるのではないか。
そんな期待があったのだが・・・

中学生の頃には公害問題、高校から大学にかけては石油ショック、
職に就いて何年かしたら日航機が墜落し、そしてバブル。
ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わり、
世界が平和になるかと思いきや、逆に混乱は増すばかり。
それは今に至るも引きずっていて、世界はテロと内戦が溢れている。
終わるどころか焦臭さを増しているようで、”未来” という言葉に
安心感はほとんど感じられない時代になってしまった。

閑話休題。

本書は、近未来を舞台に世界各所の風景を切り取った物語。

「ヨハネスブルクの天使たち」では南アフリカの最大都市、
「ロワーサイドの幽霊たち」では、9.11で崩壊した
ニューヨークの世界貿易センター、
「ジャララバードの兵士たち」はアフガニスタン東部の都市、
「ハドラマウトの道化たち」は世界遺産にもなっているイエメンの都市、
「北東京の子供たち」は巻末の解説によると高島平団地がモデルらしい。

最終話以外は物語の背景に内戦/テロがある。
戦災で孤児となった子供たち、テロで大事な人を喪った者たち、
兵士として戦闘に参加している者たちなどにスポットが当たる。
東京は戦争こそ出てこないが、少子化によって活力を失い
閉塞感に満ちた子供たちの日常生活が描かれる。

そして全作に共通しているのがDX9というロボットが登場すること。
DX9はホビーロボットという位置づけで、大きさは子供くらい。
AIも高度なものを搭載しているわけではなく
一番大きな機能は ”歌を歌うこと”。
ボーカロイドに機械の体を与えたようなものだ。

しかし各短篇でのDX9の行動は様々だ。
ひたすら与えられた命令をくり返し実行し続けるものがいる一方、
AIをプログラムし直せば、様々な用途に使えるので
安価な兵士として戦闘に加わったり、テロの道具になるものもいる。
中には、本来の機能のままにひたすら街角で歌い続けるものもいるが。

DX9というSFガジェットを用いて近未来の風景を描きつつ
争いから逃れられない人間の愚かさを語る。
こう書いてくると、”明るい希望に満ちた未来” なんてものは
欠片も無さそう。まあ、作者もそれでは救われないと感じたのか、
希望の萌芽らしきものもちょっぴりあるんだが・・・

本書は第34回日本SF大賞特別賞をもらったとのことなのだが
読んでいて、楽しい気持ちになれる本ではないなあ。
私はやっぱり、もう少し気楽に楽しめる本がいい。


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