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紅蓮館の殺人 [読書・ミステリ]


紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

将来のミステリ作家を目指す高校2年生の田所信哉(しんや)。
彼の親友・葛城輝義(かつらぎ・てるよし)は類い希な推理力をもつが
他人の嘘が許せないという、いささか窮屈な性格(笑)。

進学校に通う二人は、夏休みに軽井沢の山奥で実施される
学習合宿を抜け出して、人気推理作家・財田雄山(たからだ・ゆうざん)に
会いに行くことを企てる。

雄山は5年前から新作を発表せず、どんでん返しや隠し通路がある
絡繰り仕掛け満載の洋館を山奥に建て、そこに住んでいるらしい。

合宿3日目、設定された9時間にわたる自由時間を利用し、
二人はバスで雄山が隠棲する山へと向かう。

しかし山道に入った二人の背後で、落雷による山火事が発生する。
火を逃れて登り続けるうちに、二人は小出(こいで)という
登山者の女性と出会う。彼女の行動に不審なものを感じながらも、
火事から逃れた3人は雄山の屋敷へたどり着く。

主の雄山は97歳。意識不明で寝たきりの状態にあり、
息子の貴之、孫の文男とつばさの3人と暮らしていた。

さらには近くの山荘に住む久我島敏行と、
たまたま彼を訪れていた保険調査員の飛鳥井光流(あすかい・ひかる)が
避難してきて、総勢9人となる。

田所と葛城は同世代であるつばさと親しくなるが、
翌朝、屋敷に仕込まれた絡繰りの一つである吊り天井の下で、
彼女の圧死体が発見される。
設備が老朽化していたことから事故か殺人か意見が分かれるが
結論は出ず、山火事は刻一刻と迫ってくる。

屋敷外への連絡手段はなく、携帯電話も圏外。
しかも屋敷の周辺は乱気流が渦巻き、ヘリコプターも近づけない。
山火事の勢いは一向に衰えず、このままでは
屋敷が火に包まれて焼失してしまうのも時間の問題だ。

殺人犯人が中に潜むのではないかという疑惑に怯えながら、
彼らは屋敷内に存在する(と思われる)、麓へと続く ”抜け穴” を
必死になって探し続けることになるが・・・

そんな中、田所は10年前に光流に会っていたことを思い出す。
ある毒殺事件に巻き込まれた田所は、たまたま居合わせていた
高校生の光流が、鮮やかに解決するのを目の当たりにしていたのだ。

この事件でも推理をするよう田所から乞われた光流は、それを拒絶する。
彼女の探偵行動が原因で親友を失ってしまったことがその理由だ。

葛城と光流、探偵であり続けようとする少年と
自ら探偵であることをやめた女性、この二人の対比も本書の読みどころ。


さて、本書は文庫で430ページほどあるのだけど、
なんと240ページを過ぎたあたりから徐々に謎解きが始まる。
もちろん、リアルタイムで火事が迫っている中で。

葛城の語るその真相は、殺人事件のみならず、
この場に居合わせた者たちの ”嘘” をも暴いていく。
このあたりはけっこう驚きの展開が続き、
殺人事件の犯人というメインの謎さえ、小さく見えてしまうほど。

もっと言えば、ちょっと勘のいい人なら、葛城や飛鳥井の言動をもとに
犯人を当てるのはそんなに難しくないかも知れない。
でもそれ以上に、この屋敷に集まった人物たちの ”真実” が、
ミステリ的興味をつないでいく。


作者は1994年生まれで今年26歳。なんと平成の生まれですよ。
しかも、デビュー時は23歳くらいだったらしいからたいしたもの。


山火事で孤立した山荘、ってシチュエーションは
「シャム双生児の謎」(エラリー・クイーン)にありましたね。
大学生の頃に読んだんだけど、もうすっかり内容は忘れてるなぁ。
「悲劇四部作」と「国名シリーズ」くらいは読み直してみようかなぁ。

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午前零時のサンドリヨン [読書・ミステリ]


午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)

午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第19回(2009年度)鮎川哲也賞受賞作。

高校に入学した須川は、クラスメイトの
酉乃初(とりの・はつ)に一目惚れしてしまう。

しかし彼女は、学校ではひとりぽつんと過ごし、
他人とほとんど交わらない孤高の雰囲気を漂わせていた。

そんなある日、須川は大学生である姉に
レストラン・バー『サンドリヨン』に連れられていく。

そこでは初がアルバイトとして働いていた。
しかも、客を相手に鮮やかなマジックを披露していたのだ。
昼間の彼女とはうって変わり、明るく朗らかにカードを操る初。

縮まりそうで縮まらない須川と初の関係、
そんな二人の前で展開する学校内の ”事件” を描いた連作短編集だ。

ちなみに「サンドリヨン」とは「シンデレラ」のフランス語表記。
そして「午前零時」はシンデレラにかけられた魔法が解けてしまう時刻。
”マジック” と ”魔法”、似て非なるこの2つの言葉は
作品中で何度も現れることになる。


「空回りトライアンフ」
放課後、図書室へ行くという初についていった須川。
二人はそこで、本棚の本が一段だけ、
すべて裏返し(背表紙が奥側)になっているのを発見する。
しかも真ん中にある本だけ、通常の向きに入っている。
初はその理由を解き明かすのだが・・・

「胸中カード・スタップ」
初は図書委員の慶永から上級生・柏の誕生祝いのために、
マジックを披露するように頼まれる。
初は、音大を目指す柏が練習している音楽室でマジックを終えるが
須川と共に帰宅する途中、マジックで使用したナイフを
音楽室に置き忘れたことに気づき、学校へと引き返す。
そこで二人が見たものは、誰もいない音楽室の机に突き立てられたナイフ。
そして机の表面には ”f” を3つ連ねたような傷が刻まれていた。
しかし音楽室の前の廊下で映画を撮影していた映研部員によると、
音楽室に出入りした者はいないという・・・

「あてにならないプレディクタ」
手帳を落としてしまった須川は、学校へ落とし物として届けられて
保管されている手帳を確認させてもらうことに。
その中には、生徒5人の名前と数字がメモ書きされていた。
そこに現れた飯倉静香が「それ、私のです」と申し出る。
よく当たる占いをするとして有名な女子生徒だ。
翌日、英語試験の成績上位5名が発表されるが
それは飯倉の手帳にメモされていた生徒であり、数字は得点だった。
しかしその手帳は、試験前から落とし物として
専用ケースの中に保管されていたもの。
須川に尋ねられた飯倉は「藤井彩香が教えてくれた」と答える。
藤井彩香とは、須川たちが入学する前年に
校舎の屋上から投身自殺した女性生徒の名前だった・・・

「あなたのためのワイルド・カード」
学校が管理する公式サイトの掲示板に、
”藤井彩香” の名で投稿があった。
文面は「もちろん。わたしはあなたをゆるさない」
当然ながら、彩香本人のIDとパスワードを知らなければ
書き込みをすることはできない。
折しも、「校舎の屋上に佇む女子生徒」の目撃談が流布しており、
ほかならぬ須川までもが ”幽霊” らしき姿を目撃する・・・


第2話「胸中ー」から、メインのストーリーと並行して
藤井彩香に関する ”噂話” が語られてきて、
最終話に至ってその謎が解明される。そのための伏線が
「空回りー」から「あてにー」までの間に散りばめられており、
4つの連作短編で1つの長編を形成していたことも明らかになる。


実は第3話を読み終わった時点で私の評価は「星2つ半」だった。
その理由は、どうにも主役二人に馴染めなかったから。

まずヒロインの初が一筋縄ではいかないお嬢さんなのだ。
彼女が得意とするマジック、それはもちろん素晴らしいものなのだが
それが彼女を幸福にしたか、といえば一概にそうとは言い切れない、
そんな事情が明かされていく。さらには中学校時代の出来事もあり、
彼女の内面は実に複雑に屈折していて、
こんなに情緒不安定な探偵役も珍しいだろう。
だから、そう簡単に須川くんに心を開けるわけもない。

その須川くんだが、優柔不断で意気地がなく不器用そのもの。
もちろん女の子の扱いなんて不得手の極致(ひどい言われようだね)。
初に対しても、彼女の抱える ”地雷” を踏みまくりで
「それを言っちゃあ、おしまいよ」な台詞を連発していまい、
読んでいる方が頭を抱えてしまう(笑)。

それだけ作者のキャラ造形が上手いということなんだけど
”上手い” と ”好きになれる” はイコールではない。

 だけど、考えてみれば二人は高校1年生。
 まだまだ ”子どもの要素” を残している年頃だからねぇ。

さらに、いかにもライトノベルな語り口なのだけど
初が ”謎” を解いても ”事件” は解決しない。
そもそも人間関係や家庭の事情に根ざした問題には ”解” は存在しない。
そういうダークな部分に、初も須川も打ちのめされてしまう。
「スカッと爽やかな学園ミステリ」を期待するとアテが外れる。


さて、「星2つ半」だった評価は、最終話を読んでいるうちに
「星3つ」へと昇格した。それはもちろん、
全体を貫く仕掛けが明らかになって、それまでに登場してきた
キャラたちの裏にあったドラマを知ることができたから。

そしてラストの十数ページを読んでいるうちに、
さらに「星3つ半」へと昇格した。

4つの ”事件” を通じて、
須川は少し大人になり、初は少し素直になった。
そんな二人の成長が描かれて本書は終わる。

 いままでダメダメだった二人がシャンとするのが
 ちょっと唐突な気もするが、そこは目をつぶりましょう(笑)。

本書の惹句にもあるが「ボーイ・ミーツ・ガール」で始まった物語は
ここに至って「ラブ・ストーリー」に変化していきそうな兆しを見せる。

本書には続巻「ロートケプシェン、こっちにおいで」があって
これも手元にあるので、近々読む予定。

ちなみに「ロートケプシェン」とは「赤ずきん」の意味らしい。

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キャプテンサンダーボルト [読書・冒険/サスペンス]


キャプテンサンダーボルト 上 (文春文庫)

キャプテンサンダーボルト 上 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 文庫
キャプテンサンダーボルト 下 (文春文庫)

キャプテンサンダーボルト 下 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

物語の舞台となるのは山形県山形市と宮城県仙台市、
そして両者にまたがる蔵王連山だ。

相葉時之(あいば・ときゆき)は、30歳を前に未だ定職にも就かず、
胡散臭い儲け話に首を突っ込みながら浮き草のような生活を送っている。
後輩の起こした金銭トラブルに巻き込まれた相葉は、
母の暮らす実家の店と土地まで差し押さえされてしまう。
そんなとき、友人が天然水販売の詐欺に引っかかったのを受け、
そのペテン師を懲らしめるべく、仲間と共に山形のホテルにやってきたが
ドアマンの手違いで、目的の部屋の隣室へと入ってしまう。

そこにいた髭面の男との会話がかみ合わないことから
部屋を間違えたことに気づいた相葉たちだが、
そこへ隣室から謎の外国人3人組が襲いに来る。
辛うじて窮地を脱した相葉は髭面男のスマートフォンを奪って逃走する。

相葉の小学校時代からの旧友である井ノ原悠(いのはら・ゆう)は、
コピー機リースの営業担当をしている。
一人息子の健剛(けんごう)は持病の皮膚炎に悩まされていて
その高額の治療費で家計は借金に塗れ、火の車。
妻の沙弥子もすっかりノイローゼになってしまった。

喉から手が出るほど金がほしい相葉と井ノ原は
仙台の映画館で偶然に再会するが、
そこへ奪われたスマートフォン奪還するべく、追っ手が現れる。

それは巨体をトレンチコートに包んだ銀髪の外国人。
死と破壊をまき散らしながらあらゆる障害を突破して追ってくる、
このターミネーターみたいな怪人から二人が逃げ回るのが前半の物語だ。

ストーリーの進展に伴い、怪人はテロリストの一員で
”ゴシキヌマの水” なるものを入手しようとしていたことが明らかに。
相葉と井ノ原は怪人から逃げ回るうちに、
この ”水” を使って一儲けできるのではないか、と思い始める・・・


タイトルの「キャプテンサンダーボルト」には、いくつかの意味がある。

相葉や井ノ原が小学生だった頃、TVで放映されていた戦隊ヒーロー、
『鳴神(めいじん)戦隊サンダーボルト』は大人気を博し、
相葉も井ノ原もこの作品の大ファンだった。

その年、『鳴神戦隊ー』は映画版まで制作されたが、
公開直前に上映中止になってしまった。
主役のレッドを演じていた俳優が幼女わいせつ事件を起こしたためだ。

相葉たちファンにとって ”幻の作品” となってしまった映画版だが
なぜかその映画についての情報を集めている
謎の女性・桃沢瞳(ももさわ・ひとみ)も冒頭から登場していて
ストーリーは相葉・井ノ原・桃沢の3人を中心に進行していく。


さらに、蔵王山中にある不忘(ふぼう)山には
太平洋戦争末期に3機のB29が墜落したとの伝説があり、
終戦から3年後には、不忘山近くにある
”御釜(おかま)” という火口湖付近で謎の疫病「村上病」が発生、
以来60年以上の間、周辺地域は立ち入り禁止区域となっていた。


B29、謎の感染症、テロリスト、戦隊ヒーロー、etc・・・
さらには相葉と井ノ原の小学生時代からの因縁、現在の苦境まで織り込み、
三題噺どころか四題五題くらいありそうなキーワードを放り込んで
具だくさんに盛り付けられた物語なのだけど・・・

どうにも見通しが良くないように思うんだよねえ。
ストーリーを織りなす糸が多すぎて、どこがどうつながるのか。
中盤以降はそれぞれのつながりが明かされていくんだけど
そこに至るまでの相葉と井ノ原の行動が行き当たりばったり過ぎて
ついていくのに疲れてしまう(笑)。

テロリストたちの陰謀は、実は世界的な規模で広がっているのだけど
相葉たち二人の前に現れるのは銀髪の男ひとりだけ。しかも視点も
二人に固定されているので、いまひとつ危機感が盛り上がらない。

だから読者としての私は、世界がどうなってしまうのかよりも
主役二人の抱えた経済的苦境がどうなるのかの方が心配だったりする。

もちろんエンタメであるから、最終的には
テロリストたちの野望は阻まれ、世界も二人も救われるのだけど、
肝心の二人の救われ方がねえ・・・
なんか終盤になって突然出てきた、異常に便利なおっさん(笑)が・・・
こういう展開は如何なものかと思う。


客観的に見れば面白い要素はたくさんあるので
楽しめる人も多いとは思うが、
うーん、私とは相性が悪かったということで・・・


伊坂幸太郎は初期の作品は何作か読んだんだけど
どうにも合わないなあと思って離れてしまった。
本作でもそれを改めて感じました。

ちなみに阿部和重さんは一冊も読んでません。スミマセン。

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AI崩壊 [映画]


近年、AIと聞くとあまり良いイメージがない。
人間から仕事が奪われてしまうんじゃないかとか
暴走して人間の手に負えなくなってしまうんじゃないかとか。

特に後者は、古くからSFのテーマになっていて
AIという言葉は使われていなくても
「進化した機械知性」や「超コンピュータ」なるものが
人間に悪さを仕掛けてくる作品には枚挙にいとまがないだろう。

そんな中、製作されたこの映画。
いったいどんな ”悪さ” が描かれるんだろうと観にいってみた。

見終わって思ったのは、「邦画としては頑張ってるなぁ」。
いま、この時代に制作・公開されたことに意味があるとも思ったし。

ネットの評価の中には厳しいものも多いみたいで、私も観ていて
「おいおい」ってツッコミを入れたくなる場面も少なからずあったけど
130分ほどの上映時間中、とりあえず退屈はしませんでした。

AIhoukai.jpg
AI研究者である桐生浩介(大沢たかお)は、創薬AIを開発するが
国の認可が下りず、妻・望(のぞみ:松嶋菜々子)の癌を治療するための
新薬製造ができず、彼女は亡くなってしまう。

妻の遺志を継いだ浩介は、医療用AI「のぞみ」を完成させる。
国の認可も下り、「のぞみ」の正式稼働を見届けた浩介は
後事を義弟の西村悟(賀来賢人)に託し、研究開発の現場から離れて
一人娘の心(こころ:田牧そら)とともにシンガポールへ移住する。

そして5年の月日が流れ、2030年を迎える。

その間、「のぞみ」は広く利用されるようになり、
全国民の8割近くの医療情報を一元集約し、
健康を管理するライフラインにまで成長した。

その功績によって政府から表彰されることになった浩介は、
心とともに日本の土を踏むが、それと時を同じくするように
突如として「のぞみ」が暴走を始める。

すべての医療機器が活動に異常を来して、
多くの人間が死亡する事態が発生、社会は大混乱に陥ってしまう。

警視庁のサイバー犯罪対策課の理事官・桜庭(岩田剛典)は
AIを暴走させたテロリストとして浩介の追跡を命じるが
身の覚えのない浩介は、必死の逃亡を開始する。

なかなか身柄を拘束できない浩介に対して、
超法規的な措置を次々に発動し、実弾発砲さえも命じる桜庭の
強硬な態度に反発するベテラン刑事の合田(三浦友和)は、
捜査一課の新米・奥瀬久未(広瀬アリス)とともに独自の行動を起こす。

一方、浩介の娘・心もまた「のぞみ」の暴走に巻き込まれ、
「のぞみ」のサーバールームに一人閉じ込められてしまう。
テロリストの攻撃を想定したサーバールームの扉は
鉄壁の堅牢ぶりを示し、外部からの救出を拒む。
さらに「のぞみ」はルーム内の急速冷却を開始し
氷点下の冷気によって心に凍死の危機が迫る。

そして「のぞみ」は、ついに ”人間の選別” に取りかかる。
集約した情報を元に人間の ”有用性” を算出し、
その基準に満たない者の命を奪うことを決めたのだ。
選別開始までのタイムリミットは6時間・・・


なぜAIが暴走するのか。私の第一の興味はそこだった。
観る前は、AIが自らの知性で推論した結果、
人間への反抗を始めたのかと思ってたんだが
この映画でのAIの暴走は、悪意ある人間のハッキングによるもの。
つまり ”原因は人間” なわけだ。

 まあ、AIのシンギュラリティは2045年って言われてるから
 2030年のこの時点ではまだそこまでいってないのだろうね。

医療用AIの異常によって社会が大混乱に陥る描写は、
細かいところまでよく描かれているように思う。
観ていて「なるほど」って思うところもあったし。

逃亡する浩介を追う桜庭の側も、捜査用AIを駆使して追い詰めていく。
あらゆる防犯カメラ、車載のドライブレコーダーのカメラ、
スマートフォン搭載のカメラなど、およそ
ネット接続されているカメラを総動員して浩介の行動を追い続ける。

そこには、当然個人所有のものも含まれるわけで、
桜庭には「個人情報保護」とか「基本的人権の尊重」とかの理念はなく
ただただ ”凶悪犯” を追い詰めるには法の逸脱も辞せず、という思想が。

権力者がこういうITインフラの悪用を始めたら
とんでもない世界になってしまう、ということも描かれてるんだが
昨今の風潮を考えたらあながち夢物語でもなさそうな。

人間の価値は「生産性」だけで決まるものではもちろんないけれど
それで格付けしようとする人もいないわけではないし。

 定年でセミリタイアした私なんて真っ先に粛正されてしまうだろう。

いろいろ考えさせられることの多い映画ではある、と思う。


そんな映画ではあるけれど、ツッコミどころも多い(笑)。

浩介が当局に対して無実を訴える前に、
まず逃亡を決めてしまうというのは、考えてみればちょっと唐突だ。
まあ、桜庭の行動を見てれば、それが通るはずもないのだけどね。

一人で逃げ回る浩介がなかなか捕まらないのも考えてみれば不思議。
情報も人員も物量も圧倒的に警察側が勝っているのに。

特に、フェリーから冬の太平洋に飛び込んでも無事に生きてたりして
浩介の不死身の超人ぶりに驚かされる。

まあ、途中で捕まったり死んじゃったりしたらそこで「終」だからね。

さらに、浩介の ”天才ぶり” も半端ではない。
開発の現場を離れて5年も経つのに、ノートパソコン1台で
警察の追跡システムをハッキングしたり。
(だいたい彼の専門はハッキングやセキュリティではなかろうに)
「のぞみ」のプロトタイプのデータが残っていたからとはいえ
暴走したAIを ”正気に戻す” プログラムをあんなに短時間で書いたり。

極めつきはラストシーンかな。
”真犯人” が犯行動機と、社会のあり方についての自らの持論を
浩介に対して滔滔と語ってみせるのだが、
「おいおい、こんなところでそんなこと言っていいのか?」
あまりにも周囲が見えてなさ過ぎる・・・

シナリオというかストーリーについては、いろいろ無理が多いというか
穴が多いというか・・・このあたりで評価を下げる人が多いのだろう。


俳優陣は熱演してると思う。

大沢たかおは全編走りっぱなしでごくろうさんです。

松嶋菜々子さんは相変わらず美しいのですが、美しすぎて
病人という感じがあまりしないのはいかがなものかと(笑)。

冷徹な捜査官役の岩田剛典、浩介の義弟で
「のぞみ」の管理運営会社の社長を演じた賀来賢人もいい案配です。

三浦友和はいつのまにか渋い俳優になりました。
まもなく古希ですね。走るのが辛そうで(笑)いい味出してます。
広瀬アリスも頑張ってるので、もっと目立たせてあげたらいいのに。

特筆すべきは心役の田牧そらちゃんですね。
正統派の美少女で、まだ13歳なのに堂々と演じてます。
主人公は大沢たかおだけど、ヒロインは間違いなく彼女です。
ラスト近く、母の名をもつAI「のぞみ」を救ったのは
間違いなく心ちゃんですからね。

あと3年もすれば、グラビアを賑わせるようになるのでしょうな。


最後にどうでも良いことを。
映画の主題歌を歌ってるのがAI(人間の歌手のほう)というのは
分かってやってるんでしょうなぁ、もちろん。

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三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 [読書・ミステリ]


三題噺 示現流幽霊 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

三題噺 示現流幽霊 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

二つ目の噺家・寿笑亭(じゅしょうてい)福の助とその妻・亮子を
主人公とした、落語絡みの ”日常の謎” 系ミステリ連作。
本書で4巻目となる。

福の助の元師匠・山桜亭馬春(さんおうてい・ばしゅん)は
脳溢血を患い、高座を去って千葉県館山で療養に専念している。

福の助は、そんな馬春のもとをしばしば訪れ、
寄席界隈で起こった出来事を語っていく。
すると馬春はその中から,意外な解釈を引き出してみせる。
という、いわゆる安楽椅子探偵ものである。

「多賀谷」
亮子が勤務する高校の女子生徒・安田琴乃から落語の依頼が舞い込む。
場所は浅草発の屋形船の上、題目は『たがや』で、という条件付きで。
琴乃を通して依頼してきたのは、産廃業者の菅原。
離婚して現在独身である琴乃の母・美月に懸想しているらしいが、
美月は大阪出身の経営コンサルタントと付き合っているようだ。
当日、準備のために浅草の船宿を訪れた亮子は、
胡散臭い男性と出会うが、それが美月の交際相手。
そしてその男の名が ”多賀谷” だった・・・

「三題噺 示現流幽霊」
福の助と亮子は、大学教授・池山に呼ばれて彼の家を訪れる。
実は池山の異母兄は噺家・松葉家文吉だという。
文吉は8年前、客から出された三題噺を作るのに失敗し、
それがショックで高座へ上がれなくなってしまった、らしい。
池山によると、実は他にも理由があったのだが
8年間の引きこもり生活をしているうちに
当人がアルツハイマー型の認知症になってしまった。しかし
2年ほど前から、しきりと高座へ上がりたがるようになったという。
二人は池山から、文吉の寄席でのサポートを頼まれる。
文吉の身の回りの世話は、池山の義理の甥・青山光太郎がしているのだが
福の助と亮子は、青山の態度に不審なものを感じる・・・

「鍋屋敷の怪」
脳溢血で療養していた馬春は、復帰独演会へむけて
稽古に専念すべく、福の助と亮子を連れて南会津にある温泉宿を訪れる。
そこは雪に閉ざされた山中にあり、元噺家で馬春の兄弟子だった
山桜亭馬三(うまぞう)が、ある事情で廃業した後に経営していたという。
馬三は既に亡くなり、妻の久万子(くまこ)と娘のひな子が継いでいた。
しかし久万子は近ごろ認知症を患って、ひな子との間で
たびたびトラブルを起こしているという。
そして宿泊した翌朝、その親子が姿を消してしまう。
亮子は、玄関に落ちていた糸切りばさみを見つけるが
それにはべっとりと血が付着して・・・


連作短編のシリーズではあるのだが、
サザエさん時空ではなく、作品内では時間は着実に流れていて
「鍋屋敷の怪」では、ついに馬春の復帰独演会を迎えることになる。

まずは山奥の温泉宿に閉じ込められてしまった一行が、
着々と迫る独演会の開演時間に間に合うのか、という
タイムリミットなシチュエーションに追い込まれ、
”事件” の背景となった馬春と馬三との過去の因縁が明かされる。

辛うじて間に合った独演会の場では、さらに驚きの展開が待っており
物語は二転三転どころか四転五転して、感動の大団円へと収束する。

いやはや、たいしたもの。
作者の掌の上で翻弄される、という感覚を久しぶりに味わいました。


本書以降、このシリーズは発表されていないみたいだけど
「鍋屋敷-」で物語的にも一区切りついているし、
ひとまずここで完結なのだろう。


最後に置かれた「特別編(過去)」は、ボーナストラック。

馬春の復帰独演会での演目『海の幸』は、
どんな話なのかは本編中では描かれなかったのだけど
ここでその内容が明かされる。
合わせて、落語界ならではの絡繰りが仕込まれていて
ミステリとしても意外なオチが待っている。

”(過去)” とあるように、シリーズの開始以前の
”ある時期” のエピソードなのだけど
福の助の将来をも、それとなく示しているようにも受け取れる。

いつの日か、福の助・亮子・馬春の活躍する
”新作” が読みたいものだ。

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前田建設ファンタジー営業部 [映画]


アニメ「マジンガーZ」の地下格納庫兼プールを
アニメ界からの発注を受けた(という設定のもと)、
実在の企業である前田建設が立ち上げた
「ファンタジー営業部」のメンバーが、
「現在の技術および材料で建設するとしたらどうなるのか?」と、
実現を目指して検討し、さらに工事開始から完成までの工期、
最終的には総工費まで積算してしまおうという物語だ。
なんと、実際に社員の方々が立案検討を行った実話なのだという。

2003年に同社のwebコンテンツとして発表されて、
書籍化・舞台化を経て今回は映画化となった。
ここのサイトは、一時期よく見てましたよ。

正直なところ、実際に作るわけでもないこういう架空の設定のテーマで
2時間弱の尺が持つのかなあ・・・という心配があったのだけど
それはいい意味で裏切られました。
クスッと笑わせ、ちょっぴり泣かせ、途中で寝落ちすることもなく(笑)、
最後まで楽しく観られました。

maeda2.jpg
舞台は2003年、バブル崩壊後の建設業界。
ある日、前田建設の広報グループ長アサガワは、
あるweb連載の企画を提案する。

それは、アニメ「マジンガーZ」の出撃シーンで目にする
地下格納庫兼プール。その建設を、
マジンガーZを管理する光子力研究所の所長・弓教授から
発注を受けた、という設定で゙検証しようというものだった。

新たに「ファンタジー営業部」が立ち上げられるが、
特別な手当等は出ず、各社員のボランティアに頼るというものだった。
(いまならブラック企業と言われてしまうね)

集められたのは若手のドイ、ベッショ、チカダ、紅一点のエモト。
しかしアニメオタクのチカダ以外の3人は全くやる気がない。
それでもアサガワの大号令のもと、チカダの用意した私物の(笑)
「マジンガーZ」のDVD映像を見ながら検討を開始する。

アサガワに巻き込まれた形のドイたちは、
最初はいやいやながらプロジェクトに携わっていたが、
掘削オタクで土質担当のヤマダ、
クセの強いベテラン機械グループ担当部長のフワなど
社内外の技術者の熱意、そしてたとえ架空のものであっても
真摯に向き合う姿勢を見ているうちに
いつしか本気で取り組むようになっていく。

しかしプロジェクトの進行は順調ではない。
マジンガーZを収納する空間となる縦坑の掘削、
その上にあるプール(実は汚水処理施設らしいが)の底面を兼ね、
かつ300トンの水圧に耐える格納庫上部ハッチの開閉ギミック、
さらには地下から地上まで、マジンガーZを
わずか10秒でジャッキアップすることを可能にする油圧駆動システム。
そして(現代で作るなら)もちろん、周辺環境への配慮も。

ファンの気持ちも考えて、アニメ版に忠実に作ることを
掲げたのはいいが、放映回ごとに異なる格納庫の設定の曖昧さ、
つじつまの合わない描写に彼らは翻弄されられていく。

 当時は、いちいちそんなところにツッコミを入れるような
 無粋な(笑)ファンはいなかったんだろうね。
 それだけおおらかな時代だったということか。

特に、中盤過ぎで明らかになる ”大きな問題” によって
今までの努力がすべて水泡に帰しかねないような危機を迎える。

ここで、計画続行を訴えて感動的な台詞を叫ぶのが、
最後までプロジェクトに批判的だったドイなのがまた熱い。

 いや、その前にDVDを全話観てから立案しろよ・・・とも思ったが
 それは言ってはいけないお約束なのでしょう(笑)。

こういう架空のことに大のおとなたちが夢中になって取り組む。
その姿は滑稽だけど羨ましくもある。
中盤からは何度か目頭が熱くなってしまった。

最後はどう締めるのかな・・・と思っていたら、意外な展開が
まあオチは容易に予想が付くんだけど。

ラストシーンでアサガワは次のプロジェクトを ”受注” する。
でもこれは、いったい何を作ることになるんでしょうかねぇ・・・?


チーフでプロジェクトを立ち上げたアサガワを演じるのは
漫才コンビ「おぎやはぎ」の小木博明。
のっけからハイテンションかつ大仰な演技で周囲から浮きまくり。
見ている側が引いてしまうような異様な存在感を示すのだが
こういう奇想天外な企画を実現するには
これくらいエキセントリックな人でないと
無理なのかもしれない、とは思ったよ。

若手社員のドイとエモトも、今風の若者らしい。
エモトを演じたのは岸井ゆきのさん。
知らない女優さんだったんだけど、美人過ぎないのがいいね(失礼)。
いや、世間一般から見れば十分きれいなのだけど、
映画の中では普通のOL感が出ていていい案配。
掘削オタクのヤマダに惹かれていくところは
男ばかりのむさ苦しい(笑)この映画の中で一服の清涼剤。

そしてこのヤマダくん、エモト嬢の前で
専門用語が98%くらいを占める(笑)長台詞を延々とまくし立て、
エモト嬢を ”宇宙の彼方” へ連れ去ってしまう(笑)。
このシーンは YouTube に宣伝として上がっている。

ちなみに、「マジンガーZ」の原作者の永井豪も
ワンカットだけカメオ出演してる。

さて、アニメ「マジンガーZ」製作の東映の作品なので
映画の中にも随所でアニメのシーンが挿入されるのも楽しい。
まあ、それがトラブルの元にもなるのだが(笑)。

特筆すべきは映画の冒頭。
登場人物の紹介シーンがあるのだけど、これがやたらとカッコいい。
スーパー戦隊か仮面ライダーのオープニングみたいなSFX満載のつくり。

考えてみたら戦隊もライダーも東映だったね。

これも YouTube に上がっている。これは一見の価値がある。
本編とは全く関係ないシーンばかりなのだけどね(笑)。



もともとは建設業界のイメージアップのために始められた
webコンテンツだったらしいのだけど、映画版でも
建設業界で働く技術者、社員たちの矜持と熱い心意気が描かれていく。

終盤ではプロジェクトの危機を救うべく、助っ人となる会社まで現れ、
いち企業の枠を超えた業界の連帯感まで見せてくれる。

ここまでファンタジー営業部を持ち上げてしまうと、映画自体が
「前田建設」や「建設業界」のプロモーションビデオみたいに
見えてくるのだが、それは私の心が曲がっているせいでしょう(笑)。


GAFAみたいなIT大企業が幅をきかせ、
子どものなりたい職業に YouTuber が上位に来る時代だけど、
そんな華やかな世界を下から支えて地道に頑張っている人々がいる。

土木業界に限らず、生活に欠かせない「ものづくり」や
「インフラ整備」に黙々と取り組んでいる人々がいる。

そんなことをちょっと考えてみてもいいんじゃないかな、
って思わせるような映画でした。

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その絆は対角線 日曜は憧れの国 [読書・ミステリ]


その絆は対角線 (日曜は憧れの国) (創元推理文庫)

その絆は対角線 (日曜は憧れの国) (創元推理文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/21
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

引っ込み思案な暮志田千鶴(くれしだ・ちづる)、
明るいムードメーカーの先崎桃(せんざき・もも)、
要領良く生きることが身上の神原真紀(かんばら・まき)、
読書家で博識だが堅物の三方公子(みかた・きみこ)

性格も学校も家庭環境も異なる中学2年生の女子4人組が
知り合う切っ掛けとなった四谷のカルチャーセンターを舞台に、
そこで出会う ”事件” を描く ”日常の謎” 系ミステリ連作集の2巻めだ。

今作では、あらたにエリカ・ハウスマンというキャラが
サブレギュラーとして登場する。
日英のハーフでケンブリッジ大卒、外資系企業勤務を経て
カルチャーセンターの講師になったが、
最近マスコミへの露出も増えているという才人だ。

「その絆は対角線」
エリカの講座を受講した千鶴は、彼女のポジティブさに影響され
最近姿を見せない桃の家まで誘いに行くが・・・

「愛しき仲にも礼儀あり?」
講師・糸数慶子のマナー講座を受講した桃。
その講座の直後、質問しに行った女子高生に対し、
慶子は突然激高してしまう・・・

「胎土の時期を過ぎても」
美術ライター・羽生潔から、不思議な話を聞いた真紀。
骨董コレクター・大東が脳溢血で死ぬ直前、
コレクションの中で最も高価な銀漢天目茶碗を自ら割っていたという。
4人はその理由を推理するのだが・・・
”本物” と ”贋物” の違いについて考えさせられる話ではある。

「巨人の標本」
小説家・奥石衣の創作講座に参加している公子。
奥石は、参加者の中でも熱心な者を集めて合評会を開いていた。
各自が持ち寄った創作を批評し合う会なのだが、
その日奥石は体調不良で参加できず、代わりに
ゲストで来ていた編集者・信楽が批評をすることになった。
信楽は公子を含めた参加者たちの作品に厳しい評を下していくが
「巨人の標本」という、作者名がない作品だけは激賞する。
公子はその作品の作者を探し始めるのだが・・・
いちおう最後に作者は明らかになるんだけど、
こんなので傑作を書かれたらプロの作家さんはたまらんだろうなぁ。

「かくも長き別れ」
マスコミの寵児となったエリカは、
カルチャーセンターを ”卒業” することになり、最後の講演会を開く。
しかしそこで彼女のタブレット端末が盗難に遭ってしまう。
4人組の活躍で犯人は見つかったものの、
なぜかエリカは警察に連絡せずに犯人を許してしまう・・・
これまで4編で随所に顔を出し、4人の中学生たちに
いろいろな影響を与えてきたエリカ。
彼女の抱えていたある ”秘密” が明らかになる。


評価がちょっと辛いのは、前作よりは
ミステリ要素が薄いかな・・・と思ったから。
いちばんミステリらしい出来なのは最後に置かれた「かくもー」かな。

それぞれ個性は違えど、みな基本的には
真面目なお嬢さんばかりなので好感が持てる。
中学生時代特有の葛藤を描いた青春小説としてはとても面白いと思う。

できれば、続きが読みたいな。
彼女らが高校生になった時の話もいいんじゃないかと思う。

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世界が終わる街 戦力外捜査官 [読書・ミステリ]


世界が終わる街:戦力外捜査官 (河出文庫)

世界が終わる街:戦力外捜査官 (河出文庫)

  • 作者: 似鳥鶏
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

小柄で童顔、女子高生にも間違えられそうな風貌、
しかし実はキャリア組の警察官にして
警視庁捜査一課の警部、海月千波(うみづき・ちなみ)。
彼女の相棒にしてお守り役(笑)なのが
同じく警視庁捜査一課の巡査・設楽恭介(したら・きょうすけ)。
このコンビの活躍するシリーズの第4作。

毎回、序盤で千波がへまをしでかし、そのために
二人は捜査の一戦から外されてしまうのだが、
それが故に行動の自由度が上がり、事件の真相にいち早く近づいていく。

今回も冒頭で、混雑したJR品川駅で大騒ぎをやらかしてしまい、
そのせいで列車ダイヤは大混乱。
上司の逆鱗に触れた二人は、東京近郊の高尾山近くで起こった
ニワトリ小屋放火事件の捜査に追いやられてしまう。

しかしそこには、かつて無差別テロを引き起こしたカルト教団
『宇宙神瞠(しんどう)会』の残党が潜むアジトと思われる小屋があった。

表向きは ”使えない連中” として外されているように見えるが
(実際、第1巻の頃はそうだったはずだが)
巻が進むにつれてテロ専門の遊撃捜査班的な扱いになってきた。

二人の捜査と並行して、ニートの青年、仲本丈弘が
『宇宙神瞠会』(の残党組織)に取り込まれていくさまが描かれていく。
社会に、家庭に、人間関係に鬱屈したものを抱える彼は
カルト宗教に救いを見いだし、のめり込んでいく。

ここまでが前半で、後半に入ると
千波と恭介が『神瞠会』残党が引き起こす無差別テロと対決する
パニック・アクションへと一気に変貌する。
まるで別の話になったみたいに。

しかも分・秒単位で状況が変転していくので
各章の終わりには現在時刻のタイムスタンプが記されるという
タイムリミット・サスペンスぶり。

警視庁が全力を挙げてテロ鎮圧へと動くあたりの描写は
重量感と臨場感たっぷりで読ませる。

無差別テロに巻き込まれた人々の描写も見事。
その中でも、人々の生命を守るべく
自らの職務に奮闘する者たちの姿は胸を熱くさせる。

ミステリ作家としても素晴らしい作家さんだと思うのだけど
パニックものでも素晴らしい筆力を示す。
いっぺん、徹底的にこの路線に振り切った
一大巨編を読んでみたいなあ、って切実に思った。


それにしても、巻を重ねるにつれて
千波さんの正体が分からなくなっていく。
推理力に優れたドジっ娘なだけかと思っていたら
本書で見せた顔はまた意外なもの。

実は凄腕の捜査官なのだけど、それを卓越した演技力で隠しているのか、
単にON/OFFの落差が大きいだけなのか、
それとも二重人格なのか(笑)。

いずれにしても、恭介君はこのまま彼女とバディを組んでいると
命がいくつあっても足りないだろうねぇ。
今回もいままでになく満身創痍になってるし、
ここままいったら次巻あたりで殉職してしまいそう(笑)。

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