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三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 [読書・ミステリ]


三題噺 示現流幽霊 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

三題噺 示現流幽霊 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

二つ目の噺家・寿笑亭(じゅしょうてい)福の助とその妻・亮子を
主人公とした、落語絡みの ”日常の謎” 系ミステリ連作。
本書で4巻目となる。

福の助の元師匠・山桜亭馬春(さんおうてい・ばしゅん)は
脳溢血を患い、高座を去って千葉県館山で療養に専念している。

福の助は、そんな馬春のもとをしばしば訪れ、
寄席界隈で起こった出来事を語っていく。
すると馬春はその中から,意外な解釈を引き出してみせる。
という、いわゆる安楽椅子探偵ものである。

「多賀谷」
亮子が勤務する高校の女子生徒・安田琴乃から落語の依頼が舞い込む。
場所は浅草発の屋形船の上、題目は『たがや』で、という条件付きで。
琴乃を通して依頼してきたのは、産廃業者の菅原。
離婚して現在独身である琴乃の母・美月に懸想しているらしいが、
美月は大阪出身の経営コンサルタントと付き合っているようだ。
当日、準備のために浅草の船宿を訪れた亮子は、
胡散臭い男性と出会うが、それが美月の交際相手。
そしてその男の名が ”多賀谷” だった・・・

「三題噺 示現流幽霊」
福の助と亮子は、大学教授・池山に呼ばれて彼の家を訪れる。
実は池山の異母兄は噺家・松葉家文吉だという。
文吉は8年前、客から出された三題噺を作るのに失敗し、
それがショックで高座へ上がれなくなってしまった、らしい。
池山によると、実は他にも理由があったのだが
8年間の引きこもり生活をしているうちに
当人がアルツハイマー型の認知症になってしまった。しかし
2年ほど前から、しきりと高座へ上がりたがるようになったという。
二人は池山から、文吉の寄席でのサポートを頼まれる。
文吉の身の回りの世話は、池山の義理の甥・青山光太郎がしているのだが
福の助と亮子は、青山の態度に不審なものを感じる・・・

「鍋屋敷の怪」
脳溢血で療養していた馬春は、復帰独演会へむけて
稽古に専念すべく、福の助と亮子を連れて南会津にある温泉宿を訪れる。
そこは雪に閉ざされた山中にあり、元噺家で馬春の兄弟子だった
山桜亭馬三(うまぞう)が、ある事情で廃業した後に経営していたという。
馬三は既に亡くなり、妻の久万子(くまこ)と娘のひな子が継いでいた。
しかし久万子は近ごろ認知症を患って、ひな子との間で
たびたびトラブルを起こしているという。
そして宿泊した翌朝、その親子が姿を消してしまう。
亮子は、玄関に落ちていた糸切りばさみを見つけるが
それにはべっとりと血が付着して・・・


連作短編のシリーズではあるのだが、
サザエさん時空ではなく、作品内では時間は着実に流れていて
「鍋屋敷の怪」では、ついに馬春の復帰独演会を迎えることになる。

まずは山奥の温泉宿に閉じ込められてしまった一行が、
着々と迫る独演会の開演時間に間に合うのか、という
タイムリミットなシチュエーションに追い込まれ、
”事件” の背景となった馬春と馬三との過去の因縁が明かされる。

辛うじて間に合った独演会の場では、さらに驚きの展開が待っており
物語は二転三転どころか四転五転して、感動の大団円へと収束する。

いやはや、たいしたもの。
作者の掌の上で翻弄される、という感覚を久しぶりに味わいました。


本書以降、このシリーズは発表されていないみたいだけど
「鍋屋敷-」で物語的にも一区切りついているし、
ひとまずここで完結なのだろう。


最後に置かれた「特別編(過去)」は、ボーナストラック。

馬春の復帰独演会での演目『海の幸』は、
どんな話なのかは本編中では描かれなかったのだけど
ここでその内容が明かされる。
合わせて、落語界ならではの絡繰りが仕込まれていて
ミステリとしても意外なオチが待っている。

”(過去)” とあるように、シリーズの開始以前の
”ある時期” のエピソードなのだけど
福の助の将来をも、それとなく示しているようにも受け取れる。

いつの日か、福の助・亮子・馬春の活躍する
”新作” が読みたいものだ。

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