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メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官 [読書・ミステリ]


メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「法医昆虫学」とは、死体を摂食するハエなどの昆虫が、
人間の死体の上に形成する生物群集の構成や、
構成種の発育段階、摂食活動が行われている部位などから、
死後の経過時間や死因などを推定する学問のこと。  (by wiki)

しかし日本ではまだまだ発展途上の分野らしい。
本シリーズの主人公・赤堀涼子は、日本で法医昆虫学を確立させるべく、
日夜捕虫網を振り回して研究に没頭する博士号を持つ昆虫学者。
ちなみに36歳独身、小柄で童顔(笑)。

彼女が捜査一課の岩楯祐也警部補とコンビを組んで、
難事件に取り組むシリーズの第4作


東京都の西多摩にある仙石(せんごく)村で、
バラバラにされた男性の両腕が発見される。
しかも指はすべて切断され、掌の皮膚もはがされるなど
身元につながる情報は徹底的に損壊されていた。

法医解剖医が、遺体の腐敗状態から死後10日との所見を出すが
赤堀は遺体に付着しているハエやアブの状況から
死後20日以上との見解を示す。

法医昆虫学に懐疑的な伏見管理官をはじめ
捜査本部は赤堀の意見を無視するが、岩楯は赤堀を信じて、
所轄署で山岳救助隊員を兼務する牛久弘之巡査長とともに捜査を始める。

人口の少ない高齢化した村でもあり、捜査は自ずと
近年住み着いてきた者たちに向けられる。

都心部から引っ越してきて畑仕事をしている一ノ瀬、
その息子・俊太郎はイケメン高校生だが、
親子共々に村人からの評判はすこぶる悪い。
高齢の中丸夫婦の息子・聡(さとし)は40を超えて定職に就かず、
村人との間でたびたびトラブルを起こしている変人だ。
そして、アロマセラピーを通して村人の尊敬を集めている
”村の巫女” こと元調香師の綿貫ちずる。

移住してきた彼らにも、それぞれの抱えた秘密があり、
物語が進んでいくうちに明らかになっていく。

やがて、赤堀の唱える死亡時期の頃、
村に品川ナンバーのタクシーが来ていたことが明らかになり、
それに乗ってきた男が事件の関係者と思われた。

両腕の発見現場は広大な山林の中であり、
遺体の他の部分の捜索は困難を極めるが
赤堀は昆虫学の知見をもとにその発見に成功する。

彼女の協力の下、岩楯は情報を着々と集めていくが
どうにも犯人につながる決定的な手がかりがつかめない・・・


死体にたかるウジやハエを見ると嬉々としてしまう、
赤堀の昆虫ヲタクぶりは健在。
しかし彼女の周囲にいる凡人はたまらない。
山歩きに慣れている牛久くんでさえ、遺体捜索のさなかに
ウジの大群に遭遇し、悲鳴を上げてしまう。
いや、読んでる方もなかなかショッキングではある。

今回の事件では、遺体の身元が終盤になるまで明らかにならない。
それでもミステリとしての興味を終盤まで途切れずに読ませる。
それは、赤堀と岩楯の捜査の過程が丁寧に描かれていて、
容疑者として登場する者たちの背負うサブストーリーがよくできていて、
彼らを血肉の通ったキャラとして感じられるからだろう。

そして特筆すべきは犯行の動機。これは正直驚いた。
私もいろんなミステリを読んできたけど、これは初めてかな。

いやはや、ミステリは奥が深い。

岩楯は既婚だが、結婚生活は破綻していることが描かれてきた。
本書で、妻との離婚が成立しそうな描写があるので、
次巻以降、赤堀との関係が変わっていったりするのかな?
そのへんもちょっと気になったりする。

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