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世界が終わる街 戦力外捜査官 [読書・ミステリ]


世界が終わる街:戦力外捜査官 (河出文庫)

世界が終わる街:戦力外捜査官 (河出文庫)

  • 作者: 似鳥鶏
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

小柄で童顔、女子高生にも間違えられそうな風貌、
しかし実はキャリア組の警察官にして
警視庁捜査一課の警部、海月千波(うみづき・ちなみ)。
彼女の相棒にしてお守り役(笑)なのが
同じく警視庁捜査一課の巡査・設楽恭介(したら・きょうすけ)。
このコンビの活躍するシリーズの第4作。

毎回、序盤で千波がへまをしでかし、そのために
二人は捜査の一戦から外されてしまうのだが、
それが故に行動の自由度が上がり、事件の真相にいち早く近づいていく。

今回も冒頭で、混雑したJR品川駅で大騒ぎをやらかしてしまい、
そのせいで列車ダイヤは大混乱。
上司の逆鱗に触れた二人は、東京近郊の高尾山近くで起こった
ニワトリ小屋放火事件の捜査に追いやられてしまう。

しかしそこには、かつて無差別テロを引き起こしたカルト教団
『宇宙神瞠(しんどう)会』の残党が潜むアジトと思われる小屋があった。

表向きは ”使えない連中” として外されているように見えるが
(実際、第1巻の頃はそうだったはずだが)
巻が進むにつれてテロ専門の遊撃捜査班的な扱いになってきた。

二人の捜査と並行して、ニートの青年、仲本丈弘が
『宇宙神瞠会』(の残党組織)に取り込まれていくさまが描かれていく。
社会に、家庭に、人間関係に鬱屈したものを抱える彼は
カルト宗教に救いを見いだし、のめり込んでいく。

ここまでが前半で、後半に入ると
千波と恭介が『神瞠会』残党が引き起こす無差別テロと対決する
パニック・アクションへと一気に変貌する。
まるで別の話になったみたいに。

しかも分・秒単位で状況が変転していくので
各章の終わりには現在時刻のタイムスタンプが記されるという
タイムリミット・サスペンスぶり。

警視庁が全力を挙げてテロ鎮圧へと動くあたりの描写は
重量感と臨場感たっぷりで読ませる。

無差別テロに巻き込まれた人々の描写も見事。
その中でも、人々の生命を守るべく
自らの職務に奮闘する者たちの姿は胸を熱くさせる。

ミステリ作家としても素晴らしい作家さんだと思うのだけど
パニックものでも素晴らしい筆力を示す。
いっぺん、徹底的にこの路線に振り切った
一大巨編を読んでみたいなあ、って切実に思った。


それにしても、巻を重ねるにつれて
千波さんの正体が分からなくなっていく。
推理力に優れたドジっ娘なだけかと思っていたら
本書で見せた顔はまた意外なもの。

実は凄腕の捜査官なのだけど、それを卓越した演技力で隠しているのか、
単にON/OFFの落差が大きいだけなのか、
それとも二重人格なのか(笑)。

いずれにしても、恭介君はこのまま彼女とバディを組んでいると
命がいくつあっても足りないだろうねぇ。
今回もいままでになく満身創痍になってるし、
ここままいったら次巻あたりで殉職してしまいそう(笑)。

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