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白い僧院の殺人 [読書・ミステリ]


白い僧院の殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

白い僧院の殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

女優マーシャ・テイトはロンドンで演劇の舞台を踏むが
劇評家たちから酷評され、アメリカへ渡る。

半年後、ハリウッドで人気女優となったマーシャは
かつて自分を酷評した者たちを見返すべく、
イギリスへ戻ってロンドンでの演劇へ出演を決める。

製作担当ジョン・ブーン、脚本はその兄モーリス・ブーン。
相手役は人気男優のジャーヴィス・ウィラードとスタッフも決まり、
新聞業界の大立者カニフェスト卿もマーシャ支援に乗り出す。

しかしそこへハリウッドから映画監督カール・レンジャー、
広報担当のティム・エメリーがマーシャを連れ戻しにやってくる。
彼女はまだハリウッドでの契約が残っていたのだ。

そんな中、マーシャへ届いたチョコレートを食べたティムが
ストリキニーネ中毒で倒れるという事件が起こる。

不穏な雰囲気に包まれたまま、公演準備のために一行は
モーリスが所有する〈白い僧院〉と呼ばれる屋敷に向かう。

しかしその夜、〈白い僧院〉の別館でマーシャが殺害される。
現場は夜間に降った雪が周囲100フィート(約30m)にわたって積もり、
発見者以外の足跡はない。さらに、犯行推定時刻は
雪がやんだ後の時間帯であることが判明する。

マーシャたち一行と共に〈白い僧院〉に招かれていた
外交官ジェームズ・ベネットは、伯父である
ヘンリ・メリヴェール卿に助けを求めるのだが・・・


〈不可能犯罪の巨匠〉の描く ”足跡のない殺人” の古典的名作だ。
トリック自体は、ミステリを読み慣れた人なら
見当がついてしまうかもしれないが、本書の発行が
1934年だということを忘れてはいけない。

今でこそ、本書のトリックはいろんなバリエーションとともに
あちこちの作品で使われているけれど、
おそらく ”一番乗り” の栄誉は本書にある。

それくらい(当時としては)インパクトのあるトリックだったから
後発の作品にも手を変え品を変えて ”応用” されてきたのだろう。
だから、現代の読者がこれを読んでもさほど驚かない
(そういう人もいるだろう)のは、
それだけこのトリックが ”有名” になっってしまった、
ってことじゃないかな。

本書のスゴいところは、トリックが分かったからといって
ミステリとしての興味が少しも薄れないことだ。

「どうやって不可能状況をつくったか」よりも
「なぜわざわざ不可能状況をつくりだしたのか」または
「不可能状況になってしまったのはなぜか」のほうに重点がある。

メリヴェール卿は、当日夜の容疑者各人の行動を緻密に解明し、
不可能犯罪の出現に至る経過をきれいに説明してみせる。
結果として指名される真犯人の名は意外だが、
その根拠も明かされてみれば納得のいくもの。

密室や不可能状況に目がいきがちだけど,
事件に関係する者たちの心理状態への深い洞察こそが
メリヴェール卿の推理の根幹にある。

やっぱりカーター・ディクスン(ディクスン・カー)はたいしたものだ。

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