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おんみょう紅茶屋らぷさん ~この一杯に、すべてを~ [読書・ファンタジー]


おんみょう紅茶屋らぷさん ~この一杯に、すべてを~ (メディアワークス文庫)

おんみょう紅茶屋らぷさん ~この一杯に、すべてを~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

就活に失敗して失意のうちにいた女子大生・佐々木英子が
アルバイトとして働き始めた不思議な紅茶屋<らぷさん>は
現代に生き残る陰陽師・本多正朝(まさとも)が
人々の悲しみ苦しみを取り除く究極の一杯を提供する店だった・・・
というシリーズの第3作

「第1章 透きとおるキャンディ」
<らぷさん>に現れたのはサングラスに
マスクとマフラーで顔を隠した謎の男。
正朝に対してやたらと喧嘩腰な言葉使いである。
男の職場にいた庶務担当の女性。彼女が淹れるアイスティーが
絶品だったのだが残念ながら産休に入ってしまった。
そこで代わりにその男がアイスティーを淹れるようになったのだが
どうしても彼女のアイスティーを再現できない。
そこで、正朝に対して彼女のアイスティーを再現して見せろという・・・
読んでいくと、男の正体は早々と見当がついてしまうだろう。
そしてアイスティーの件は口実に過ぎず、男の目的は他にあることも。
今までのシリーズではやたら珍しい茶葉とか出てきて、
紅茶の知識が乏しい人(私だ!)なんか簡単に煙に巻かれてしまうのだが
今回は題材がアイスティーで、正朝が語る薀蓄もそれなりに理解できる。
しかしまあ、紅茶というのはなんとも奥が深いものだね。

「第2章 まごころはアッサム(上)」
「第3章 まごころはアッサム(下)」
正朝にとって父であり師であり、そして不倶戴天の仇敵でもある
陰陽師・”麿” が再び<らぷさん>に現れる。
正朝の姉を人質にとり、師弟の戦いに決着をつけるために。
そしてその方法は意外にも魔道の応酬ではなく、茶歌舞伎(闘茶)。
”麿” が淹れた5杯の紅茶。それに使われた茶葉の産地を当てる。
優雅なようだが、敗れたほうは命を失う真剣勝負である。
正朝は4杯目まではたちまちのうちに当ててみせるが、
5杯目の茶葉が何なのかがどうしても分からない・・・


以下の文章は結末の内容に触れるので、ご注意を。


主人公の父親が最強の敵、というのは
ヒーローものの王道パターンなんだが本作もまたその一つ。
そして迎える結末もまた王道パターンといえるだろう。
私の場合、読んでいて頭に浮かぶのは
星飛雄馬vs星一徹だったりする(齢がわかるね)。
もっとも、ストーリーの展開としては
ダース・ヴェイダーvsルーク・スカイウォーカーのほうが近いかな。

星の数が今一つなのは、もうちょっと
パターンから外れた物語が読みたかったなぁ、って思ったから。
”麿” がホントにとことん冷酷非情・悪逆非道に描かれてきたので
最後までその線で突っ走って、往生際悪く
ジタバタしてもらいたかったなあ、とか思ったりした。

でもまあ、本シリーズはテーマが「紅茶」なので
あんまり陰惨な話はそぐわないだろうし、
なんと言っても王道パターンで終わったほうが後味もいいので
エンタメ作品としてはこの結末が正解なんだろうけど。

”麿” との決着がついてしまったのでシリーズ完結かと思いきや、
あとがきを読むとまだ続きそう。
新たな敵が現れるのか?
それともまさかまさかの ”麿” 復活だってりして(笑)

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新鮮 theどんでん返し [読書・ミステリ]


新鮮 THE どんでん返し (双葉文庫)

新鮮 THE どんでん返し (双葉文庫)

  • 作者: 青柳 碧人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

アンソロジー「theどんでん返し」シリーズの第3弾。
既発表作品から、作家が ”自薦” した作品を集めた前2巻と異なり
今回はこのアンソロジー用に新たに書き下ろしたもの、または
雑誌発表のみで書籍化されていない作品を収録している。


「密室竜宮城」青柳碧人
海辺でいじめられていた亀を助けた浦島太郎は、
そのお礼にと竜宮城へ連れて行ってもらう。
そこは様々な魚たちが ”人間態” に変身して暮らしていた。
しかしそこで密室殺人(殺魚?)事件が起こる・・・
なんで浦島太郎?って思ったが、一種の特殊状況下ミステリで
ラストではこの物語世界でのみ可能な仕掛けが明かされる。
いやあでも、太郎君の扱いが悲惨すぎませんかこれ。

「居場所」天祢涼
若い女性の脚に異様な執着を示す八木は
援助交際で知り合った女子高生を殺してしまい、逮捕される。
刑務所を出てからも、その前科ゆえに仕事を転転としている。
そして今、彼の関心の対象は女子高生・マナ。
悶々とした思いを抱えて彼女の後を追い回している八木の前に
謎の男が現れ、こう提案する。
「いっそのこと、彼女のスカートの中を盗撮しませんか?
 そしてあなたが警察に捕まるまでの一部始終を撮影させてください」
男なら誰でも(程度の差はあるが)、
性的な衝動を隠し持っているものだろうが、八木がとにかく哀れ。
意表を突く展開で、ミステリ的にはよくできてるとは思うが。

「事件を巡る三つの対話」大山誠一郎
路上で発見された男の撲殺死体。氏名は峰岸洋平、そして無職。
しかし毎月定期的な入金があることから、
峰岸は何者かを恐喝していた疑いが浮上する。
事件の捜査を巡り、三つの対話が綴られる。
まずは所轄署の捜査員・水原とその上司・小野寺係長、
翌朝の水原と春日捜査一課長、そしてもうひとつ。
これも会話劇ならではの仕掛けが施されている。
作者は密室ものが得意と思っていたが、こういうものも達者なんですね。

「夜半」のちぎり」岡崎琢磨
”俺” と妻・茜は新婚旅行でシンガポールを訪れる。
しかし4日目の夜、宿泊中のホテルで ”俺” は
かつての恋人・紗季と再会する。
彼女は ”俺” の同期だった川島と結婚し、
彼らもまた新婚旅行に訪れていたのだ。
その夜、”俺” は紗季と密会するが、
部屋に帰ってきたとき茜の姿は消えており、
翌朝、浜辺で扼死体となって発見される・・・
うーん、幕切れは一種のイヤミスですねえ。
それに加えて男女の間のドロドロな話は苦手だなあ・・・

「筋肉事件/四人目の」似鳥鶏
雪に閉ざされた山荘で起こった殺人事件。
警察の到着まで時間がかかるとのことで、
現場にいる人たちによる犯人探索の様子が綴られるのだが・・・
これは紹介が難しいなあ。
読み進んでいくほどにだんだんと不可解さが増していくのだが
これ、”どんでん返し” って言えるんですかねえ・・・?

「使い勝手のいい女」水生大海
28歳・独身の葉月は勤めていた会社が倒産してフリーター暮らし。
ある日彼女のアパートに、かつての恋人・智哉が押しかけてくる。
強引に金の無心をする智哉と激しく押し問答をする葉月。
そしてその夜、葉月の友人・加奈が訪ねてくる。
彼女こそ智哉がかつて浮気をした相手であり、それが別れた理由だった。
長々と居座る加奈に対し、じりじりと焦る葉月。
彼女には、はやく加奈に帰ってほしい理由があったのだ・・・
葉月が黒い想いを秘めながら包丁をシャクシャクと研ぐ描写が
随所に入って恐怖感を盛り上げるのだけど、
テーマが ”どんでん返し” なのを忘れてはいけない。

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玉依姫 [読書・ファンタジー]


玉依姫 八咫烏シリーズ5 (文春文庫)

玉依姫 八咫烏シリーズ5 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
「黄金(きん)の烏」「空棺(くうかん)の烏」と続く、
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の第5巻。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。
第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

そして「黄金」「空棺」では、その「八咫烏」たちを
喰らい尽くそうとする凶悪な "大猿" が登場し、
両者の抗争、そして烏たちによる戦いの準備が描かれてきた。

この流れなら、次巻ではいよいよ "大猿" たちとの
決戦が描かれるものとばかり思っていたのだが・・・

ところが今作はかなり予想外の物語となっている。
以前の4作は、異世界『山内』で展開されてきたのだが
なんと今回は1995年の日本が舞台となっているのだ。


主人公は女子高生・志帆。
交通事故で両親を失い、祖母・久乃と暮らしている。

ある日、彼女の前に修一という男が現れる。
彼は亡くなった志帆の母・裕美子の兄、つまり伯父だった。

37年前、久乃は夫と修一を残し、裕美子だけを連れて
嫁ぎ先だった「山内村」を飛び出していたのだ。

志帆は久乃に息子(修一)を捨てた理由を問うが、
祖母は頑なにその理由を語ろうとはしない。

真実を確かめようと思った志帆は
修一の招きに応じて山内村を訪れるのだが、
そこで待っていたのは山神を祀るための恐ろしい儀式だった。

唐櫃(からびつ)に押し込められ、山神へ捧げる人身御供とされた志帆は
村の中心にある龍ヶ沼の社へ連れてこられる。

そこへ現れたのは身の丈3m近い大猿の群れ。
彼らによって村を見下ろす山の上に運ばれた志帆は、山神と対面する。
それは赤ん坊の体格ほどしかない異形の怪物であった・・・


このあたりまでなら、伝奇ホラーにありがちな展開ではある。
実際、これに似たような作品も過去に読んだことがあるが
さすがは阿部智里というべきか、ここからの展開が意表を突く。


志帆はここで山神の"母親役"となり、
彼が"神成(かみな)る"まで養育しなければならないという。
拒否したり、手を抜いたり、里心をだしたりすれば
山神の怒りに触れ、たちまち殺されてしまう・・・


志帆は現代(とはいっても20年前だが)の女子高生であり
素直に運命を受け入れることはできず、さまざまな抵抗を試みる。
しかしそれがなかなかうまくいかないのはまあお約束だが
彼女のことを何とか救い出そうとする者も現れる。
それが八咫烏の長、奈月彦である。

ここで読者は、本作と八咫烏シリーズが地続きであることに安心する(笑)。

とはいっても、そう簡単にことは進まない。
どうやら、大猿も八咫烏も、
この山神に仕える神使(しんし)であるという。

つまりこの山神は彼らにとって共通の "上位の存在" であるわけで、
大猿と八咫烏の抗争の原因もまたこの山神にあることがわかってくる。
そして奈月彦たちの住まう『山内』の存在理由まで。

さらに、志帆の行動はある時点を境に大きな変化を遂げるのだが
その理由もまた後ほど明らかになる。
物語の序盤からしばしば登場する謎の少年といい、
あちこちに張られた伏線が終盤できれいに収束していくのは
よくできたミステリを思わせる。

 もっとも、第1作「烏に単は似合わない」も立派な本格ミステリだった。
 一度、彼女にはミステリがメインの話を書いてもらいたいなあ。
 舞台は現代でもいいし時代物でもいいけど。

そして、様々な謎がきれいに解かれたその後に、
もう一段のサプライズが待っている。
いやはや達者なものである。
本書の発表時はまだ25歳だったはずで、
その年齢でここまで書けるとは。


・・・と思っていたら、巻末に収録された「自著を語る」によると、
時系列的には本書(の原型)が最初に執筆されたという。
そしてそれはなんと高校生(!)の時だったそうな。
「栴檀は双葉より芳し」というけれど、すごいにも程があるよねぇ。

そのとき脇役だった八咫烏をメインに据えて書いた番外編
(「烏に単は-」)がデビュー作となってしまったとのこと。

シリーズは次巻「弥栄の烏」で第1期が完結するのだけど、
その前に大猿や烏たちの設定を説明しておく必要があって
本作の発表となった(もちろん内容はリライトされている)らしい。

「弥栄-」の文庫化は来年の初夏あたりですかね。
楽しみに待ちましょう。

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バチカン奇跡調査官 ジェヴォーダンの鐘 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 ジェヴォーダンの鐘 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 ジェヴォーダンの鐘 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する天才科学者の平賀と、
その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。
「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第17弾。
長編としては14作目になる。


今回の奇跡申請はフランスの小村・セレからもたらされた。

山の洞窟に建立された聖マリー教会に村人たちが集まり、
春の訪れを祝う祭りが行われていたそのとき、
突如として聖母マリアの像がまばゆい輝きを放ち、教会の鐘が鳴り響く。
しかし鐘を鳴らした者は誰もおらず、
しかもその鐘にはそもそも舌(ぜつ)がついていなかったのだ。

 ちなみに「舌」とは、鐘の内側にぶら下がった棒状のものを指す言葉で、
 これが鐘本体にぶつかることで音を出すわけだ。
 うーん、この齢になるまでアレを ”舌” というとは知りませんでした。

さらに、祭りに参加していた全盲の少女ファンターヌの
視力もまた回復してしまう。

さっそくフランスへ飛んだ平賀とロベルトは、今回の ”奇跡” の地に
かつて「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる怪物が
跳梁していたとの伝説を耳にする。

 怪物が出現したのは250年前。それは雄牛ほどもある巨体を持ち、
 人間を捕えては徹底的に肉体を蹂躙し尽くすという残虐さを示した。
 3年ほどの間に200回近い襲撃があり、死者は100人を超えたという。

平賀は早速、教会の調査に向かい、
ロベルトはファンターヌが視力を失ったきっかけを聞かされる。

3年前、彼女は森の奥深くに分け入り、
そこで大ガラスの化け物・バズブに遭遇して
視力を奪われてしまったのだという。
そして同じ日、マティアスという少年もまた行方不明となっていた。

セレ村を治めていたかつての領主・ジェヴォーダン伯爵は
精霊を使役する力を持ち、逆らう村人を攫ったり、
石に変えてしまったという。

ロベルトは、ジェヴォーダン伯の末裔であり
今も森の奥に住むシュヴィニ家の屋敷を訪れるが・・・


奇跡のように見える(思える)不思議な現象に、
合理的な解釈を施してみせるこのシリーズ。

さらに、今回は中盤以降にも新たな謎が提示される。
視力を失う前のファンターヌが、森の中で出会った "精霊" のこと、
そして彼が連れて行ってくれた "精霊の国"・・・

毎回、どんな説明(こじつけ?)を持ち出してくるか楽しみで
なかにはかなり苦しいものもあったりするが、それもまたご愛嬌。
今回の "鳴るはずがない鐘" や "精霊" がらみの謎解きも
予想を超える大がかりなもの。
「なるほど」よりも「えーっ、そうなのぉ?」って感じだが
それを楽しめるのがこのシリーズの読者なのだろう。

終盤で平賀とロベルトは3年前のファンターヌの身に起こった真実、
そして "精霊" が秘めていた愛と哀しみの物語をも解き明かす。
真相を知ってみると、その切なさもまたひとしおである。

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HEARTBEAT [読書・ミステリ]


HEARTBEAT (創元推理文庫)

HEARTBEAT (創元推理文庫)

  • 作者: 小路 幸也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/08/26
  • メディア: 文庫
評価:★★

本作は、二つのストーリーが交互に語られながら進行していく。

一つは28歳の ”僕” が語り手となるパート。

10年前、高校生だった ”僕” は
クラスの委員長を務め、医師を目指している優等生だった。

そして同級生の中には、いつ退学になっても
おかしくないような不良少女・ヤオがいた。

そんな二人を結びつけたのは高校の修学旅行だった。
旅行班から離れて一人で行動していた ”僕” は、
こちらも一人になっていたヤオと出くわす。

そして二人は、見学していた寺の裏山で
1億円の現金(!)を発見してしまう。
密かにそれを持ち出し、隠匿に成功した二人は、
その日から大きな秘密を共有する仲になった。

そして卒業式の日、 ”僕” はヤオに約束する。
「10年後、君が自力で人生を立て直すことができていたら、
 この1億円をすべて君にあげよう」と。

卒業後、”僕” は医学部に入り、やがてアメリカへ留学する。
そして10年後、彼女との約束を果たすために帰国する。

しかし約束の日、約束の場所へ現れたのは彼女ではなく
ヤオの夫を自称する男・植松だった。
彼によると、ヤオは3年前から行方不明になったままなのだという。

”僕” は高校の同級生・巡矢(めぐりや)とともにヤオを探し始めるが・・・


そしてもう一つは、小学5年生(10歳)の ”ぼく” が語り手となるパート。

”ぼく” は旧家の御曹司らしく、家族は巨大な屋敷に暮らしている。
多くの使用人に囲まれているのでかなりの資産家らしい。
そしてどうやら、”ぼく” は(将来、当主が亡くなれば)
かなりの遺産を相続する立場にあるらしいことも分かってくる。

”ぼく” の母・弥生は3年前に家を出てしまった。
その後亡くなったと家族からは聞かされてきたが
最近、その弥生の幽霊が屋敷の中に現れたのだという。

母は本当はどうなっているのか?  ひょっとしたら生きているのか?
”ぼく” は、クラスメイトたちと協力して
母のことを探り出しはじめるのだが・・・


この二つの物語は終盤で合流し、その関係性が明らかになる。


それに加えて、”僕” のパートには
アメリカ時代のエピソードがかなり長めに挿入されている。

”僕” がアメリカで暮らした日々は決して順風満帆なものではなく、
とくに後半はかなり過酷な日々を送っていたことが明かされていく。
そんな中で、”僕” はある ”能力” を身につけていくのだが
それがタイトルの「HEARTBEAT」にも関わってくる。


問題はラストである。
冒頭に書いた星の数でおわかりかと思うが、
私が本書に与えた評価はあまり高くない。

ミステリであるから、結末に至るまで読者は多かれ少なかれ
作者によって騙されているわけだ。それでも、
読み終わったとき「やられたぁ~」って快く思えるのが
(私にとって)いいミステリなのだが・・・

しかし本書の場合、残念ながらそうは思えなかったんだよねぇ。
まず頭に浮かんだのは「え???」という疑問符の山。
そして「いくらなんでもそれはないだろう」という思い。
怒るまではいかなかったけど、がっかりはしたかなぁ


これはあくまで私の価値観によるものなので
これを気の利いたエンディングだと思う人もいるだろうし、
そういう感覚の人を否定する気もないが
少なくとも私はこのオチは好きになれないなぁ・・・

どうも最近この種のオチ、もしくはこれに近いオチの作品に
当たる率が高いような気がする。
たまたまなのか、それともこういう話が流行ってるのでしょうか。

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ステルス潜水艦を奪還せよ・上下 [読書・冒険/サスペンス]


ステルス潜水艦を奪還せよ(上) (新潮文庫)

ステルス潜水艦を奪還せよ(上) (新潮文庫)

  • 作者: クライブ カッスラー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 文庫
ステルス潜水艦を奪還せよ(下) (新潮文庫)

ステルス潜水艦を奪還せよ(下) (新潮文庫)

  • 作者: クライブ カッスラー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

NUMA(アメリカ国立海中海洋機関)の長官という地位にありながら
ひとたび事件が起これば自分から渦中に飛び込んで
様々な世界的陰謀を阻止してきた主人公ダーク・ピット。

息子ジュニアと娘サマーも、ピットの右腕である
アル・ジョルディーノとともにNUMAで働き、
嫁さんであるローレン・スミスは下院議員、
かつての上司サンデッカー提督は副大統領と
<ダーク・ピット・ファミリー>も健在。

シリーズも本作を以て第22作目となる。


アメリカ海軍は、今後20年間の海洋戦術面での優位を確立する
画期的な攻撃型ステルス潜水艦を完成させようとしていた。

既に船体の組み立ては終了し、あとは新駆動システム
(作中の描写から察するに電磁推進の改良型か?)を使ったモーターを
搭載すれば、従来の潜水艦の数倍の水中速度を実現できるという。

しかし時を同じくしてモーター開発担当の科学者ハイランドと
その助手が行方不明となってしまう。

一方、チリの沖合でバカンスを楽しんでいたピット夫妻だったが
二人のモーターボートに向かって巨大な貨物船が突っ込んできた。
辛うじて難を逃れた二人だが、貨物船に乗り込んだピットが見たのは
乗組員たちの異様な変死体だった。

サンデッカー副大統領に呼び出されたピットは、
ハイランドの探索を依頼され、NCIS(海洋犯罪捜査局)の
捜査官アン・ベネットとともに調査を開始するが、
完成したモーター本体や潜水艦の設計図もまた何者かに奪われてしまう。


今回の黒幕はオーストリア人実業家エドゥアルド・ボルク。
世界中のレアアースの流通を牛耳るため、精錬工場をテロで破壊したり
鉱石を積載した輸送船を襲っていた(ピットが遭遇した輸送船もこれ)。

 ちなみにボルクは、対人制圧用に ”謎の新兵器” を繰り出してくるんだが
 その正体は「ガンダムSEED」を観ていた人ならすぐ分かる(笑)。

レアアースは情報通信機器の電子材料として、
そして電池・モーター・合金等の素材としても重要。
つまりハイテク産業には欠かせない資源なのだが、本書に登場する
新駆動システムのモーターの心臓部にも使われている、という設定。

そして今回のボルクの標的は新型潜水艦。
手に入れたモーターの試作品と船体の設計図を、
中国人民解放軍に高く売りつけようと画策するのだが・・・


毎度のことながらストーリーの運びは手慣れたもの。
大海でのアクションのみならず、陸上ではカー・チェイス、
孤島の収容所に捕らわれたピットが強制労働をさせられたり
さらにクライマックスではパナマ運河を舞台にするなど
活劇の目先を変えて飽きさせない工夫はさすが。

払った値段分だけは十分に楽しませてくれるとは思うのだけど
ちょっとだけ苦言を呈させてもらうなら、このタイトルだろう。

「ステルス潜水艦を奪還せよ」なんて掲げられたら
試験航海中の最新鋭潜水艦が何者かに
ハイジャック(シージャック?)されて・・・
なぁんて展開をまず予想してしまうのだけど
実際に奪われたのは部品の一部と設計図なわけで
”看板に偽りあり” とまでは言わないが
ちょっとイメージが違うんじゃないかなぁ・・・

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