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西巷説百物語 [読書・ミステリ]

西巷説百物語 (角川文庫)

西巷説百物語 (角川文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

「巷説百物語」シリーズもこれで5冊目なんだね。

「西」とあるように、主な舞台は大阪を中心とした関西である。
本作で活躍する "裏の仕事" チームは、
靄船の林蔵、献残屋の柳次、祭文語りの文作、紅一点のお龍。

大阪屈指の版元にして裏の元締めである
一文字屋仁蔵のもとに持ち込まれる様々な依頼で、
彼らはターゲットの人物に対して "仕掛け" ていく。

各作品ごとに一つ(一匹?)の妖怪がモチーフとなっている。
登場する人々は、事件の中で起こる怪異な出来事や
不思議な巡り合わせをも、その妖怪の仕業と思い込むが、
林蔵たちは、その妖怪のイメージすらも取り込んで、
目的を達するための仕掛けの "一部" としているのだ。

心の奥底まで踏みいっていくような巧妙なからくりにはめられ、
胸に秘めていた記憶、感情、真実、そして時には
本人すら忘れていたような所業までもがえぐり出されていく。
林蔵たちによって明らかにされるのは、凄まじいまでの愛憎の情念だ。


「桂男(かつらおとこ)」
 一代で身代を大きくした杵之字屋剛右衛門。
 順風満帆な人生に満足していた彼だが、娘に縁談が持ちあがる。
 しかし、相手の男には良からぬ噂があった・・・
 噂の真偽が問題かと思ったのだが、意外な展開と結末が。

「遺言幽霊 水乞幽霊」
 小津屋貫兵衛の次男・貫蔵が意識を取り戻した時、
 彼は一年近い月日の記憶を失っており、自らの境遇の激変に驚く。
 勘当されたはずの自分が、それを解かれて家に戻り、
 死んだ兄に代わって小津屋の主人となっている。
 そして父・貫兵衛もまた世を去っていた。

「鍛冶が嬶(かか)」
 好き合って一緒になり、心底大事にしてきた。
 見るからに幸福そのものだった妻・八重が
 最近、人が変わったようにふさぎ込み、暗い目をするようになった。
 「ひょっとして狼の妖怪が成り代わっているのではないか」
 鍛冶師の助四郎が大文字屋に持ち込んだのは、そういう悩みだった。
 読んでいくうちにじわじわ恐くなっていく作品。

「夜楽屋(よるのがくや)」
 人形浄瑠璃の名人・二世藤本豊二郞。
 米倉巳之吉との二枚看板で、仮名手本忠臣蔵の公演が迫っていた。
 しかしその直前、塩谷判官の首が割れてしまう。
 豊二郞は「あの首がなくては演じられない」と言い張るのだが・・・

「溝出(みぞいだし)」
 ヤクザの跡目争いに敗れた寛三郎が帰ってきた故郷は、
 高致死率の流行り病に冒されていた。
 彼は生き残った人々を救い、死体を始末して病の拡がりを防いだ。
 以来10年。庄屋を上回る尊敬を人望を集める寛三郎のもとに
 寺の住職が訪れ、死者の供養を提案するが・・・
 結末がかなり意外な展開で驚く。

「豆狸」
 孤児として育った与兵衛は、酒蔵の娘・さだに見初められ、婿となった。
 やがて息子・与吉も授かり、幸せな日々を送っていた。
 しかし義兄夫婦と出かけた川遊びで運命は暗転する。
 突然の豪雨による増水に巻き込まれて船が転覆、
 義兄夫婦は溺死、さだと与吉も失い、与兵衛一人だけが生き残る・・・
 本書の中では珍しく救いのある話。読み終わってほっとする。

「野狐」
 一文字屋仁蔵のもとを訪れた女は、
 かつて妹を林蔵に殺されたと告げ、意外な依頼をする。
 いままでのシリーズでレギュラーだった山岡百介や
 御行の又市も登場する、オールスターキャストでのエンディング。


闇の仕事をチームで行うのは "必殺" シリーズのパターンだが、
本作でのチームは殺しはしない。
(殺しの依頼を受けないというわけではないが、
 本作ではそういう部分は描かれない。)
むしろ殺さずに、ターゲットが自ら過去を告白するように
仕向けるあたりは、"必殺" シリーズの現代版として製作された
"ハングマン" シリーズの展開に近いと言えるだろう。

前作「前巷説百物語」でもう完結したと思っていたので、
またこのシリーズが読めたのは素直に嬉しい。
ぜひ、続けていって欲しいなあ。


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