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造花の蜜 [読書・ミステリ]

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 文庫




造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

歯科医の夫・山路将彦と離婚した香奈子は、
一人息子の圭太を連れて町工場を営む実家へ戻ってきた。

物心つく前に父親と離れた圭太は父・将彦の顔を知らなかった。
その圭太がある日「父親」を名乗る男に連れ去られそうになる。
しかし男の不審な態度から、辛うじて逃げ出すことに成功する。
将彦の関与が疑われたが、その日彼には確かなアリバイがあった。

そして1ヶ月後、今度は幼稚園から圭太が連れ去られる。
しかも実に不可思議な状況下で。
それは前代未聞の誘拐事件の幕開けであった・・・


ミステリ好きな人なら、誘拐を扱った様々な作品を読んだことと思う。
パターンもあらかた出尽くしたかと思われたジャンルだが、
この作品の犯人像は前例がなく、とびっきり独創的で、ユニーク。
まずこのことを断言しておこう。

誘拐事件のあらましをちょっと紹介しようかと思ったのだけど
これはまず予備知識無しで読んでもらった方が絶対面白いので
書くのはやめる。
とにかく意表を突く展開の連続で全く先が読めない。
犯人に翻弄される警察のように、
読者もまた作者の手のひらで転がされてしまう。
でも、それが面白いんだよねえ・・・

ミステリを読んでいるというより、魔術を見ているような気分。
上巻の "誘拐事件の部" は魔術師・連城三紀彦の独壇場だ。


下巻に入ると雰囲気は一変して、
「花葬」シリーズにも通じる濃厚な愛憎のドラマへと変貌する。
叙情ミステリ作家・連城三紀彦の登場だ。
誘拐事件に隠されたさまざまな背景が明らかになり、
読者はきっと、「あっ」と驚くことだろう。
(少なくとも私は驚いたよ!)


しかしまだ物語は終わらない。
最終章「最後で最大の事件」まで来ても、
物語の着地点が全く予想が出来ないのだ。

そしてラスト数ページに至って、読者は本当の意味での
この作品の凄さに気がつくことになる。


まさに "連城マジック" 。
読者は魔法を見せられたような気持ちで本を閉じるだろう。

考えたら連城三紀彦の長編を読んだのは始めてかも知れない。
短編の鋭い切れ味は十分に知っていたけど、長編も凄い。

作者はもう故人になっているのだけど、
旧作の再刊も続いているようなので
これからもできる限り追いかけていきたいと思う。