SSブログ

パンツァークラウン フェイセズ [読書・SF]


パンツァークラウン フェイセズI (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズI (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/05/24
  • メディア: 文庫




パンツァークラウン フェイセズII (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズII (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫




パンツァークラウン フェイセズIII (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズIII (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

西暦2021年、東京は大震災によって壊滅した。
しかし20年後、高度に電脳化されて甦る。
その名は新東京特別商業実験地区・イーヘヴン。

全住民の行動履歴は集積・保管・分析され、
人々はUI(ユニバーサル・インターフェイス)と呼ばれる
ウェアラブル端末を装着して外界を視る。
人間を含めて、すべてのものにはICタグが付与されており、
視界に映るものすべてに付加情報が表示される。

都市の選択する未来は、全住民の行動履歴解析により最適化される。
<co-HAL>と呼ばれるそのシステムによって、
イーヘヴンは高度な自治を達成していた。

そして西暦2045年。主人公・広江乗(ひろえ・じょう)は、
3年ぶりにイーヘヴンに戻ってきた。
民間保安企業オルタナティブ・ハガナー社の
機甲実験小隊DT(Dark Tuorist)のメンバーとして。

彼の装備は<黒花>(ブラックダリア)と呼ばれる
漆黒の強化外骨格(パワードスーツ)。

乗に与えられた最初の任務は、列車事故によって
車内に取り残された二人の乗客の救出だった。

その一人、社美弥(やしろ・みや)は、3年前まで乗とともに
兄妹のように養父母の元で暮らしていた少女だった。
そしてもう一人は美弥の親友、識常末那(しきじょう・まな)。
彼女の養父はイーヘヴン創設者の一人であり、
3年前に乗が "追放処分" となった原因である
謎の爆発事故に深く関わっていた。

事故の真相を追う乗とDT小隊の前に、
イーヘヴンの壊滅を目論むテロリストが出現する。
その一人、ピーターと名乗る男は
乗の目前で純白の強化外骨格を "着装" する。
それはかつて "情報自衛隊" 士官・周藤速人とともに
行方不明になっていた<白奏>(ホワイトジャズ)だった・・・


物語は、DT小隊とテロリストたちとの壮絶な戦いをメインに、
3年前の爆発事故に秘められた真実、<黒花>と<白奏>の開発経緯、
そしてイーヘヴン創設にまつわる秘密が徐々に明かされていく。


分類すればサイバーパンクSF、だろう。

本書は文庫で全3巻になっているが、
1巻目を読んでいる時に感じたのは、
さまざまなアニメや特撮ものの影響だ。

攻殻機動隊の世界で繰り広げられるパワードスーツ同士の戦い。
いや、闇の中を黒いコスチュームに身を包んで戦う乗の姿には
ゴッサムシティの夜を走るバットマンをも彷彿とさせる。
そして、彼らの戦いは都市中に設置された、あるいは
空中を自由に舞うカメラが捉え、全住民に実況中継されるという
TIGER&BUNNYのような設定。

中盤で主人公がパワーアップした敵に敗れ、
新型(いわゆるMk.IIメカ)に乗り換えるのも
ロボットアニメならば王道展開だろう。

そして、ともに18歳のダブルヒロイン。


著者は1989年生まれというから、執筆時は23歳くらいか。
ならばそういうものの影響があって当たり前なのだ、が。
その気になれば、いくらでもライトノベル的に描けるのだろうけど
雰囲気はひたすらにダークでハードボイルドである。
作者は40代といわれても違和感がないくらい。


2巻の終盤から3巻のエピローグ前までは、一晩の出来事である。
イーヘヴン壊滅のために最後の大攻勢をかけるテロリストと
その阻止に全力を挙げるDT小隊の凄絶な戦いが
400ページにわたって繰り広げられる。


DT小隊にもテロリスト側にも、そしてイーヘヴンにも
魅力的なキャラが数多く登場する。
一人一人に詳細な背景が設定され、誰一人とっても
スピンオフの短編が成立するくらい書き込まれているのだが
いちいち紹介していると、この倍くらいの記事になってしまうので
残念ながら割愛することにしよう。


エピローグは10ページに満たないが、
凄まじいまでの戦闘描写で終始した本編を乗り越えて
生き残ったキャラたちのその後が坦々かつ穏やかに語られ、
そしてひたむきに一途だった少年と少女との
ラブ・ストーリーとして完結する。
読者もまた、面白い物語を読み終わった心地よい余韻に浸りながら
本を閉じることが出来るだろう。


最後に余計なことを一つ。

上述したように、とても面白く読ませてもらったんだが
一つ不満を言わせてもらうなら、装丁が地味すぎる。
なんせ1巻なんて、ほとんど真っ黒の表紙の上に
タイトルが記されてるだけなんだもの。
ビジュアル的に映えそうな要素はたっぷりあるのに
それを使わないのはもったいない。

黒髪ロングの正統派美少女・末那と、可愛い系の美弥、
状況に合わせて様々な形態を取れる強化外骨格<黒花>。
この3者を華麗なイラストで表紙にしたら、
それだけで売れ行きは何割か違ってくると思うんだがなあ。

まあ、あまり "萌え" を強調してしまうと
逆に敬遠してしまう人もいるから、加減が難しいだろうけど。
ちなみに本編には "萌え" 要素は希薄で、"燃え" 要素は満載。

とても面白い本なのに、装丁で損をしているように思えてねえ。