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アリスとテレスのまぼろし工場 [アニメーション]


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 まずはあらすじから。


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 主人公・菊入正宗は14歳。製鉄所の企業城下町である見伏(みふせ)で暮らしている。
 彼は仲間達と、その日もいつものように過ごしていた。すると窓から見える製鉄所が突然爆発し、空にひび割れができ、しばらくすると何事もなかったように元に戻った。しかし、元通りではなかった。この町から外に出る道は全て塞がれ、さらに時までも止まり、永遠の冬に閉じ込められてしまったのだった。

 町の住人たちは、「このまま何も変えなければいつか元に戻れる」と信じ、今の自分を忘れないように〈自分確認票〉の提出を義務とする。そこには、住所、氏名、年齢だけでなく、髪型、趣味、好きな人、嫌いな人までもが明記されていた。正宗は、将来の夢も捨て、恋する気持ちにも蓋をし、退屈な日常を過ごすようになる。

 ある日、自分確認票の〝嫌いな人〟の欄に書き込んでいる同級生の佐上睦実から、「退屈、根こそぎ吹っ飛んでっちゃうようなの、見せてあげようか?」と持ち掛けられる。

 正宗が連れて行かれたのは、製鉄所の内部にある立ち入り禁止の第五高炉。そこにいたのは、言葉も話せず、感情剥き出しの野生の狼のような謎の少女。
 この少女は、時の止まったこの世界でただ一人だけ成長し、特別な存在として、長い間、閉じ込められていた。
 睦実から彼女の世話をする手伝いを命じられる正宗。「五実」と名付けた少女と接しながら、同級生たちとの生活を続けていくが、父はある日を境に家に戻らず、同級生が不思議な煙によって消える場面にも遭遇する。やがて正宗は自分たちのいる世界と五実についての手がかりを得る。

 二人の少女とのこの出会いは、世界の均衡が崩れるはじまりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは?
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 感想を書こうと思ったのだが、私にとってこの映画はとても難物で、まとまったものは書けそうにない。以下は、映画を観て頭に思い浮かんだことを断片的に並べたものである。


 人間、生きていれば、辛いこと苦しいこと悲しいことに遭遇する。しかし時間の流れとともに、すこしずつそれらの感情は薄らいでいくものだ。振り返ってみれば「いい思い出」だって言えるようにもなっていく。
 逆に、いま幸福ならば「このまま時間が止まったらいいのに」なんて思ったりもする。人間というのは我が儘なものだ(笑)。

 この映画の中では、主人公とその仲間たちは「14歳」の時点で時間が止まってしまう。14歳と言えば「思春期」だ。心の成長と体の成長がアンバランスで不安定な時期だろう。

 冒頭、製鉄所が爆発して時間が止まったとき、主人公たちはこたつに入って受験勉強をしているので、中学3年の冬、入試が迫った時期だったのだろう。
 ならば、彼らは「受験生」というこれまたストレスのかかる状態のまま、時の止まった世界に閉じ込められてしまったことになる。

 「思春期」だって「受験生」だって、時間が経てばいつかは終わる。終わりが来る。しかし時が止まった世界では、永遠にそれが続くことになる。これはなかなかに辛い状況だろう。

 この映画全体を覆っている陰鬱な雰囲気は、そんな閉塞感と無関係ではないだろう。


 この映画は、端的に言えば正宗と睦実のラブ・ストーリーなのだろうが、思春期の少年少女らしく、不器用極まりない。感情的なぶつかり合いから始まり、それは終盤まで続く。まあ自分で自分の感情が制御できず、持て余してしまうのもこの年頃ならではかもしれないが。


 エンタメ的には、最終的に元の状態に戻り、人々が時の止まった世界から解放されるのが王道展開なのだろうが、中盤で明かされる ”この世界の秘密” は、それを許さない。
 同時に「五実」の正体もまた明らかになる。これはちょっと意外だが、それによって事態が好転しないのもまた意外。

 この世界にいる人間に残された選択は二つ。この世界に留まることを受け入れるか、拒否して消滅するか。
 どちらを選んでも幸福になれそうもないし、予定調和的なエンディングは否定する。こんな設定を用意した監督(製作陣)の意図は何なのだろう?

 でもこれは、現実の世界でも同じこととも言える。この世界の有り様を受け入れて、その中で生きていくか。それが出来なければ、社会からドロップアウトして消えていくか。
 そういう意味では、この「時の止まった世界」は異世界でありながら現実世界を映したものでもあるのだろう。

 映画の終盤で、主役の二人も選択をする。この結末にも考えてしまう。これにはどんなメッセージが込められているのだろう。

 幸福かどうかは他者が決めるものではなく、本人たちが決めるもの。本人たちが幸福と思えばそれでいいではないか。
 そして、完全な幸福などは存在しないのだから、苦しい世界の中でそれに耐えて生きていくべきではないのか。

 私はそんなふうに受け止めたのだが、全くの見当違いをしているのかもしれない。

 見る人にいろんなことを考えさせる映画ではあると思う。幅広い層に届いて大衆受けするような作品ではないかもしれないが、その代わり、波長が合う人にはとことん ”刺さる” んじゃないかと思う。

 私も、十代か二十代の頃に見たらまた違う感想を持っただろう。思春期の葛藤を忘れてしまったオッサンには、少々敷居が高い映画だったかな、と。


 映画を見た後、近くの書店に入ったら監督自身によるノベライズがあったので購入した。内容はほとんど映画と同一なのだけど、エピローグについて、ささやかながら追加情報があったのはよかった。ちょっと安心したよ。まあ映像を見れば想像できることではあったんだけど。


 最後に余計なことを。
 この映画はタイトルで損をしているような気がしてならない。作中の台詞でちょっと言及されてるんだけど、それだけでは分かりにくいと思う。
 もうちょっとウケが良い題名にしたら、とも思うんだけど、たぶんそんなことは百も承知で製作陣はこの題名を選んだのだろうな。


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