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いつかの岸辺に跳ねていく [読書・青春小説]


いつかの岸辺に跳ねていく (幻冬舎文庫)

いつかの岸辺に跳ねていく (幻冬舎文庫)

  • 作者: 加納朋子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2021/08/05
評価:★★★★☆

 森野護(もりの・まもる)と工藤徹子(くどう・てつこ)は幼馴染み。2人の幼少時から青年期までの物語。友人以上恋人未満、ラブ・ストーリーになりそうでならない、2人の微妙な関係が綴られる。
 後半に入ると予想外かつ怒濤の展開にハラハラドキドキ。けれども2人が迎えるこの結末は、多くの読者を納得させるだろう。


 本書のジャンルは「青春小説」としたんだけど、実は他のジャンルの要素を多分に含んでいる。
 ただそれを示すと、ネタバレにつながりそうなので・・・


 本書は二部構成。主人公の男女それぞれの側からみた物語が展開する。


第一部「フラット」は森野護の一人称で描かれる。

 森野護からみた工藤徹子は、ものすごい ”変わり者” だ。

 例えば、いきなり道端で見知らぬおばあちゃんに抱きつく。理由を聞くと「あのおばあちゃんに取り憑いていた悪霊をあたしが浄化した」のだと言う。
 例えば、護が交通事故で足を骨折して入院した時、病室に現れて「ごめんね」と言いながら涙を流す。
 例えば、模試の結果で ”合格間違い無し” と出た高校に落ちても、ケロリとしてにっこり笑ってる・・・

 護にとって徹子は幼馴染みではあったが、”変わり者” 過ぎて全く恋愛対象ではなかった。けれど、なぜか気になる、放ってはおけない、そんな存在だった。

 2人は別々の高校に通うが、徹子は高校で林恵美(はやし・めぐみ)という親友を得る。そして徹子は恵美の ”ある困りごと” を護に相談する。その裏には、どうやら護と恵美をくっつけようという思惑があるようだ。結局、それはうまくいかないのだが。

 その後も護と徹子はつかず離れず、友人以上だが恋愛にまでは至らないまま、成人式を過ぎ、社会人となっていく。家が近いのでたまに2人で酒を飲みにいくくらいの関係を保ちながら。

 しかし27歳を迎えた頃、ついに護はこう切り出す。
「もし、お互い30歳になっても相手がいなかったら、俺たち、つきあってみてもいいんじゃないか・・・?」
 徹子の方も満更ではなさそうなリアクションを返すのだが・・・

 ここまでだったら、不器用な男女の ”長すぎた春” を描いた青春ラブ・ストーリーになりそうなんだが、次のページの一行でぶっ飛んでしまう。
 なんと徹子は結婚が決まったのだという。相手はスゴいエリートらしい。


第二部「レリーフ」は工藤徹子の一人称で描かれる。

 ただ、この第二部はネタバレなしに紹介するのが難しい。
 でもそれでは記事にならないので、ここまではいいかな・・・というところまでを書いてみると・・・

 時系列的には、第一部と重複するところから始まる。つまり彼女の幼少期から描かれる。彼女の数々の ”奇行” にも、実は理由があったことも語られる。

 そして時間軸が進行するにつれて、どんどん不穏の度が増していく。第一部のような平和でほのぼのとした雰囲気は欠片もなく、やがて陰鬱なサスペンスが物語全体を覆っていくようになる。正直言って、読み進むのが躊躇われる気分にさえなってしまった。

 だけど、そこで思った。この本を書いてるのは加納朋子だ。
 彼女がそんな×××・××××××な物語を描くはずがない。
 ただその一点を信じて読み進んでいったのだが・・・

 冒頭に掲げた、本書の星の数を見てほしい。
 信じて良かった、とだけ書いておこう。



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