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死神さん [読書・ミステリ]

死神さん (幻冬舎文庫)

死神さん (幻冬舎文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2021/03/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

日本で逮捕・起訴されると、有罪判決が出る率は約99.9%。
無罪判決が出るのはわずか0.14%なのだという。

主人公・儀藤堅忍(ぎどう・けんにん)警部補は、
その希な無罪判決が出た事件を再捜査するという、
一風変わった、しかも特殊な任務を負って行動している。

無罪なのに有罪となってしまった「冤罪事件」をひっくり返す、
という作品は数多いが、本作はその真逆をいく。

彼の決め台詞は「逃げ得は許さない」。
罪を負うことなく逃げおおせようとする真犯人を
追い詰めていくのが儀藤警部補の仕事だ。

しかしそれは、警察当局から見れば「真犯人を見つけられなかった」、
あるいは「有罪に持ち込めるだけの証拠を挙げられなかった」わけで
いわば ”捜査における失態” をほじくり返されることでもある。
だから儀藤はどこに行っても邪魔者扱い、冷遇されることになる。

彼は再捜査に当たって、事件の初動捜査にあたった警官から一人、
”助手” として指名してバディを組む。
しかし指名された方からは大迷惑だ。仲間の失敗を暴くことになるわけで
同僚からは怨まれるし、上司からは睨まれる。
結果として警官人生における出世は望めなくなってしまう。
だから儀藤は警官仲間からこう呼ばれる。「死神」と。

本書は、その儀藤警部補が再捜査することになった
4つの事件を収めた、連作ミステリ短篇集になっている。

「死神の目」
資産家・星乃洋太郎が殺された。犯人として逮捕されたのは
被害者の甥・星乃礼人(あやひと)。賭事好きで多額の借金を抱えていた。
当初は犯行を自供していたが後にそれを翻し、
加えてアリバイが証明されたことによって無罪となった。
儀藤は大塚東署の刑事・大邊(おおべ)を指名、
事件の関係者を訪ね始めるが・・・。

「死神の手」
ギャンブルで借金を抱え、加えて勤務先が倒産して無職となった
波多野一(はじめ)が轢き逃げにあって死亡する。
犯人として逮捕されたのは妻の百合恵だったが無罪となる。
儀藤は交通課の田岡美鈴巡査を指名し、
百合恵の担当弁護士・三宅慶太に会いに行くが・・・

「死神の顔」
朝の通勤電車内で女子高生に痴漢を働いた容疑で
逮捕された正岡柳次郎には、かつて暴力事件を起こした前科があった。
しかし彼に下ったのは無罪判決。
女子高生が虚偽の証言をしたのか、それとも他に真犯人がいるのか。
逮捕に立ち会った榎田巡査を指名した儀藤は
正岡の弁護士・東晃(あずま・あきら)から
事件発生時の状況を詳しく聞き出すのだが・・・

「死神の背中」
25年前、児童誘拐事件の犯人として逮捕されたのは
46歳・無職の小木曽光三だった。
公判では無罪を主張するも無期懲役の判決を受けるが
再審請求によって71歳にして無罪を勝ち取る。
当時、捜査に当たっていた米村は既に退職していたが
儀藤の指名によって特別捜査官として臨時採用となり、
25年前の事件に再び向き合うことになるが・・・

どれもミステリとしてよくできているのはもちろんだが、面白いのは
どの作品も、儀藤から指名された ”助手” の視点から語られていること。

初めは儀藤のことを文字通り ”疫病神” のように忌み嫌うのだが
ともに捜査を進めていくうちに、彼の不思議な魅力に感化されていく。

そして、事件が解決した後には、”助手” たちはみな笑顔になっている。
抱えていた悩みが解決したり、元気が出てきたり。
原因は様々だがそこには儀藤の存在がある。
読後感が良いのもそれが理由だろう。

同じ作者の「福家警部補シリーズ」で、福家が出会う事件関係者たちが
みな笑顔を取り戻していくのが印象的なのだけど
それと似た構造で、このあたりもこの作者が人気な理由だろう。

巻末の解説によると、本シリーズは Hulu でドラマ化予定とのこと。
監督は堤幸彦。「トリック」シリーズの人だね。
主演は田中圭。うーん、原作とはイメージが違うかなぁ。
もっと ”もっさり” した感じなんだけど、
それじゃ観てもらえないんだろうなぁ・・・


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