SSブログ

闇に香る嘘 [読書・ミステリ]


闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第60回江戸川乱歩賞受賞作。

主人公は村上和久、69歳。
65年前の1945年、入植先の中国・満州で終戦を迎えた和久は
日本への引き揚げる途中、兄と離ればなれになってしまう。

無事に帰国した和久だったが、幼少期の栄養不足が遠因となって
成人してから次第に視力が衰え、41歳にして失明してしまう。

絶望して荒れた生活を送り妻と離婚、その元妻も数年後に事故死。
父の世話に明け暮れた娘・由香里とも確執を抱えるようになる。
そんなとき、生き別れとなった兄・竜彦が
中国残留孤児として帰国してきた。

一方、由香里の一人娘・夏帆は腎臓に障害を抱えていた。
治療のために由香里から腎移植を行ったが、
その腎臓は次第に機能が衰えてきており、透析が欠かせない。
孫のために腎移植の検査を受ける和久だったが、
移植には不適合と診断されてしまう。
最後の望みとして、竜彦に腎臓の提供を頼み込むが、
日本政府に対して補償を求める裁判に明け暮れる兄は
移植のための検査すら拒絶するのだった。
頑なな兄の態度に、和久はふと疑問を抱く。
果たして "兄" と名乗る男は本物の竜彦なのか?

竜彦の真偽を確かめるべく行動を起こす和久の前に現れる謎の影、
その和久のもとへ続々と届く点字の手紙は何を意味するのか。
果たして "兄" の正体は、そしてその背後には何があるのか・・・


巻末の解説によると、作者は乱歩賞に挑戦すること9年目、
最終選考にも4度残ったことがあるという "大ベテラン"。
精進を重ねての受賞だけあって荒削りな感じはなく、文章力も高レベル。
発表された年の各種ミステリランキングでも上位に食い込んだ作品だ。


本作でスゴいと思ったのは、主人公を盲目に設定したこと。
そして物語をその主人公の一人称で描いていること。
そのためには、視力を持たない人間を取り巻く "世界" をも
描かなければならない。
盲目であることによって生じる様々なハンデ、
視力障害者が使用する道具・機器などの描写、
見えないことに対する鬱屈感、疎外感、絶望感。
その部分が実にリアルに描写されているのにも驚かされる。

そしてそんな人物が "探偵役" となって
"謎" の解明に向かって行動していく。
もちろん、視力のハンデは "探偵" としての活動にとっても
大きな障害となって主人公の前に立ちはだかる。

上にも書いたが、(視力のせいもあるが)主人公は偏屈者だ。
妻に愛想を尽かされ、娘からは恨まれる。
万人から好かれるキャラとはお世辞にも言えない。
そういう意味ではなかなか感情移入しにくい主人公なのだが
それでも最後まで読ませてしまうのだから、その筆力はたいしたものだ。
視力障害に残留孤児と、とかく日常生活の中では
目を背けてしまいがちな要素を二つもぶち込んでおいて
謎とサスペンスを併せ持つミステリに仕立て上げてしまうのだから。

読んでて楽しい作品、とは言いにくいのだが
先行きに興味をつないで読ませるし、読後感は悪くない。
この作者、しばらくつきあってみたい。

nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 4

mojo

はじドラさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-01-26 20:39) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-01-26 20:39) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-01-26 20:40) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-01-28 00:03) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント