ディアスと月の誓約 [読書・ファンタジー]
評価:★★★☆
170年の昔、一人の魔法使いが
空から2つの月を地に墜とし、極寒の世界に光と熱をもたらした。
彼が3つめの月を引き下ろそうとした時、
ファンズの王・サルヴィが現れ、
自らの命を差し出して最後の月を守った。
(ファンズとは、この世界の北方に棲息する鹿に似た生き物。)
そして魔法使いは凍土を統べる王となった。
以来、その王国はサルヴィの角を国の守護の象徴として
王城に隣接する岩棚に供えてきた。
月日を経て角が風化してゆくと守護の力も衰え、
王国に死病が蔓延するようになってくる。
そのとき、北の大地へ遠征して新たなサルヴィの角を
持ち帰ってくることが、次代の王となる証しとなっていた。
主人公・ディアスは、ガンナー王の第三王子。
王位継承争いには全く関心がなかったが、
病弱な第一王子を押しのけて王位を狙う
異母兄にして野心家の第二王子・オブンの奸計によって
サルヴィの角を損ねてしまい、王国からの追放処分となる。
遙か南の地へと放逐されたディアスは
夢に出てきたサルヴィの導くまま、
東の果てにあるという<赤き海>を目指していく・・・
作者は東京創元社で「夜の写本師」に始まる
<オーリエラントの魔道師>シリーズを書き継いでいるが、
本書はそれとは別の世界の物語である。
<オーリエラント>シリーズと比べると短めで、
ストーリーもシンプル。
メインとなるキャラクターもディアスが16歳、
ヒロインとなるアンローサが14歳と、こちらも低め。
ライトノベル的な読み方もできるが
北の雪原を走るファンズの群れ、
<赤き海>の前に立ちはだかる "魔女"、
そして人間とサルヴィの間で行われてきた "死の連環" など
豊かなイメージの数々はやはりこの作者ならでは。
ファンタジーが好きな人なら、
楽しい読書のひとときを得られるのは間違いないだろう。
乾石智子という作家に興味はあるけど未読、という人は
この作品から始めてもいいかも知れない。
本書は物語としては完結しているのだけど
もう少しこの先を読みたいという気にさせる。
本書の冒頭にこの世界の地図があるのだけど
<月の海>とか "星の花島" とか "迷子石諸島" とか
"三日月岬" とか、魅力的な地名がたくさんあって
しかもみんな本編未登場。何だかもったいない。
ディアスとアンローサのその後も気になるし、
いつの日かまたこの世界の物語を読みたいなあ。
mat-chanさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-02-28 22:52)