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ソロモンの偽証 第1部 事件 [読書・ミステリ]

ときどき、ものすごく長い小説を読みたくなるときがある。
普段読んでいるのは文庫で300~400ページくらいのものばかり。
たまに500ページ超なんてのもあるけども。

今年の初めに、長大なタイムトラベルSFを二分冊にした
「ブラックアウト」と「オール・クリア」を読んだのも、
そういう思いが頭にあった。
原稿用紙にして3500枚。普通の小説6冊分のボリュームを前に、
なんだかわくわくしたものだ。

長い小説を読んでいると、時間もかかる。でもその代わり、
必然的に登場人物や作品世界の理解も進み、愛着も湧いてくる。

だから、「おもしろくて長い小説」に出会えたら、
それはとても幸せなことだ。
「オール・クリア」を読み終えるとき、
主人公3人と別れるのがとても寂しかったよ。


さて、「ソロモンの偽証」である。


ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫




ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫



本書は文庫で6冊、総ページ数で3000を超える。
原稿用紙で4700枚。最終刊の巻末には
書き下ろしの中編(20年後の後日談らしい)を
収録してるとのことなので、たぶん合計4800枚くらい。
普通の作品なら8~10冊分くらいに相当するだろう。

でも、最初は食指が動かなかったんだよなあ。
書店で平積みにされてるのを見ても。

宮部みゆきって、デビューの頃からしばらくは読んでた。
一時期は大好きで、初期の作品はだいたい読んでる。
ちなみに私の一番のお気に入りは「レベル7」だった。

でも、なんだかだんだん私の好みからは外れていったんだよねえ。
時代小説の割合が高くなってきたこともあったのかも知れない。
それでも99年の「理由」くらいまでは読んでたかなあ・・・

決定的だったのは「模倣犯」だった。文庫で5巻まであったけど
1巻目の終わりでどうにもついて行けずに放り投げてしまった。
それ以来、もう「私には縁のない作家」と思って
新刊が出てもスルーするようになった。

 あ、「ブレイブ・ストーリー」だけは読んだかなあ・・・


本好きな人なら経験があると思うんだけど、
書店で本の表紙を見ていると、ときどき "本が呼ぶ" ことがある。

8月末に、第1部(1巻と2巻)が本屋に並んだときも、
9月末に、第2部(3巻と4巻)が本屋に並んだときも、
全くといっていいほど読む気にならなかったんだけど
10月末に第3部(5巻と6巻)が出たとき、なんだかすごく
「これ、読まなくっちゃいけない」って衝動に駆られて
気がついたら1巻と2巻を持ってレジに並んでいたよ。

なぜこの本を手に取ってしまったのか。
それは今思い出してもよくわからない。
上に書いたように、この時期がちょうど私の
「長い話が読みたい」周期に当たってたのかもしれない。

こういうふうに呼ばれた本でも、
読んでみたらがっかりってことはよくあるし、
逆に、「この本を見逃さなくてよかった!」って
うれしくなる本もある。

この「ソロモンの偽証」は、後者だった。


閑話休題。


全6巻すべて読んでからでもよかったんだけど、
幸い3部構成になっているので、
各部ごとに書いていくことにしようと思う。

第1部「事件」は、題名の通り事件が起こって、
それに振り回される大人たち、生徒たちが
文庫上下巻1000ページにわたって延々と綴られていく。


1990年、クリスマスの未明。男子中学生・柏木卓也が
通っていた城東第三中学校の校舎から転落死した。

一旦は「自殺」として処理され、収まるかと思われたが、
一通の告発状が事態を一変させる。
「卓也は、同級生に殺された」
その書状の中で犯人として名指しされたのは、
大出俊次ら不良生徒3人組。
さらに、告発状の一通が、差出人の思惑を超えて
マスコミの手に渡ってしまう。

野心的なHBSテレビ記者・茂木は、
入手した告発状を元に報道特別番組を作成、放送する。
その日から、城東第三中学校は激しい嵐にさらされることになる。

そして、事態に翻弄される生徒たちの中から、
また一人命を落とすものが現れる・・・

この長大な物語の主役は、藤野涼子という中学生。
死んだ卓也の同級生で、クラス委員。
成績優秀で剣道に打ち込む文武両道の優等生。
(しかもなかなか美人らしい。)
父親は警視庁捜査一課の刑事、母親は司法書士と
これまた非の打ち所のない家庭環境。

しかし、そうはいっても14歳の中学生である。
第1部での彼女は、事態に翻弄される中学生たちの一人に過ぎない。
思春期の女の子らしく、感情豊かで揺れ動く。
生徒からも教師からも、一目も二目も置かれているが、
自分が聖人君子ではないことも十分承知している。
しかし、その聡明さでものごとを一段高いところから見ることができる。
そんな彼女は、周囲の大人たちの振る舞いに次第に憤りを強めていき、
第1部のラストである "決断" をする。

 実はこの文章を書いている段階で、
 第2部の1/4くらいもう読んでいるんだが、この物語の主役が
 なぜ彼女のようなキャラクターでなければならないか。
 第2部では、それがよくわかる。


とにかく、登場人物が多い。
台詞と名前のあるキャラだけでも30人くらい
いるんじゃないかと思うが、皆しっかり書き分けられていて、
誰をとっても短編が一本書けてしまうんじゃないか
(キャラによっては長編が書けそう)
っていうくらい、書き込みが半端ではない。

城東三中の教職員、城東警察署の刑事たち、
そして生徒の保護者たちもまあ多彩な人がそろってる。

特に転落死した柏木卓也の家と、
第一発見者の野田健一の家はたいへんだ。
子供は親を選んで生まれてくることはできないというが、
卓也の兄・宏之と野田健一の二人が、それぞれ事情は異なるが
親たちから受けるプレッシャーは半端ではない。
彼らは卓也の転落死以前から長年にわたって高負荷状態にあり、
事件がきっかけで一気にそれが吹き出てきてしまう。
このあたり、読んでいるこっちまで息苦しくなってくるようだ。

 今から考えれば、このあたりの "読み続ける苦しみ" を
 極端に強く感じたのが「模倣犯」だったんだね・・・

茂木記者のあからさまな取材態度にも読んでいて本当に腹が立つし。

そんな中に、涼子や涼子の両親(この二人は良識の人)の
シーンが入るとほっと一息つける。
まるで読者の感情をコントロールしているみたいで、
宮部みゆきは本当にうまいとつくづく思い知らされた。

 私が第1部を投げ出さずに読み切ることができたのは、
 この "まっとうな人々" である藤野家のおかげだ。

上の方にも書いたが、第2部では、大人たちの思惑や好奇の視線に
翻弄されてきた生徒たちが、反攻に転ずる。
自らの手で真実を突き止めようと、前代未聞な行動を始めるのだ。
その中心人物はもちろん涼子。
もう第1部を読み終わった段階で続きが気になって仕方がない。

うーん、本を読んでいてこんなにわくわくするのは
久しぶりというか滅多にないことだ。

第2部読了時点で、また続きを書くことにする。


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mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2014-11-22 20:41) 

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