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殺人犯対殺人鬼 [読書・ミステリ]


殺人犯 対 殺人鬼 (光文社文庫)

殺人犯 対 殺人鬼 (光文社文庫)

  • 作者: 早坂吝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/05/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 舞台は孤島の養護施設。島を嵐が襲った夜、子どもたちだけの中で起こる連続殺人事件。犯人を追う少年もまた殺人者だった。2人の殺人者が対峙するとき、明かされるのは意外すぎる真実だった。


 児童養護施設「よい子の島」は、文字通り本土から離れた孤島にある。両親が死亡したり、虐待を受けたりした子どもたちを収容している。

 主人公兼語り手は網走一人(あばしり・ひとり)[13歳]。
 彼を含む13歳以上の「年長組」が10人、9歳以下の「年少組」が30人。併せて40人の児童を収容している。

 年長組の一人である五味朝美(いつみ・あさみ)[13歳]が崖から身を投げて自殺を図った。命は助かったが意識不明で、本土の病院に入院している。
 彼女を自殺未遂に追い込んだのは、施設の ”ボス” となっている剛竜寺翔(ごうりゅうじ・しょう)[15歳]と、その取り巻きの2人だった。
 網走は、この3人を殺害することを決意する。

 そしてある日の夜、宿直の職員たちが本土へ渡ったときに嵐がやってきて船が欠航、島に戻れなくなってしまう。

 大人がいない状態を好機と捉えた網走は、まず剛竜寺の殺害を実行することにする。彼の部屋に侵入するが、そこにあったのは死体となった剛竜寺だった。しかも遺体の片目はえぐり出され、そこには金柑(キンカン)の実がはめ込まれていた・・・

 探偵気取りの探沢(たんざわ)ジャーロ[13歳]とともに犯人を突き止めようと活動を始める網走。しかし、犯人はさらなる殺人を続けていく・・・


 この物語がユニークな点は、殺人者が2人いることだろう。網走自身も、探偵活動の合間に(おいおい)、自らの標的と定めた相手を殺害していく。
 まさにタイトル通り「殺人犯対殺人鬼」の物語が展開していく。

 本編の章の合間には「殺人鬼Xの過去」と題したパートがあり、”殺人鬼X” がこの養護施設にやって来るまでのエピソードが綴られていく。

 終盤ではもちろん、意外な犯人の正体が明かされるが、もう一つ明らかになるものがある。これについてはネタバレになるので書かないけど、「そんなことが!」って驚く(または呆れる)こと請け合いである。



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カーテンコール! [読書・青春小説]


カーテンコール!(新潮文庫)

カーテンコール!(新潮文庫)

  • 作者: 加納朋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/09/01
評価:★★★☆

 閉校が決まった萌木(もえぎ)女学園。私立の女子大学だ。しかし問題なのは単位不足で卒業できなかった学生たち。学長は、対象者たちを半強制的に(もちろん親の了解を得て)合宿所に軟禁し(笑)、半年間の特別補講を行うことに。
 学生たちが留年した理由もそれぞれだが、総じてみなダメ人間ばかり(笑)。そんな彼女らが寝食を共にするうちにお互いの様々な事情を知り、新たな人間関係を築きながら再起のきっかけをつかんでいく。


「砂糖壺は空っぽ」
 初っぱなから恐縮だが、この話はネタバレなしに紹介するのが難しい。読んでみてくださいとしか言いようがないのだが・・・まあ、現代的な問題の話ではあるかな。


「萌木の山の眠り姫」
 過酷な受験生活を送ったにもかかわらず希望の大学に落ち、萌木女学園に不本意入学した梨木朝子。そのためか心がポッキリ折れ、遅刻を繰り返す日々を送ることになって留年が決定する。
 特別合宿に参加しても相変わらず朝は起きられず、同室になった有村夕美の世話のおかげでなんとか講義に参加できていた。しかしその夕美にも、ある秘密があった・・・


「永遠のピエタ」
 合宿参加者の金剛真美(こんごう・まみ)。不眠症に悩まされる彼女の、現在の興味は隣室の2人の様子を観察すること。仲のよい梨木朝子と有村夕美を見ながら、ある ”妄想” にふけるのだが・・・


「鏡のジェミニ」
 出席日数不足で留年になり、合宿に参加することになった小山千帆。同室となった細井茉莉子(まりこ)は拒食症でガリガリに痩せ細っていた。なんとか彼女に食事を摂ってほしいと願う千帆なのだが・・・


「プリマドンナの休日」
 矢島夏鈴(かりん)は、風の吹くまま気の向くままに暮らしていたい ”フーテン気質” の持ち主。そのせいか留年が決まって特別合宿に参加となる。同室となった喜多川菜々子は夏鈴とは対照的な、絵に描いたような模範的優等生だった。参加者が皆、何故こんな子が留年したんだろうと不思議に思うのだが・・・
 菜々子が留年となった理由も意外だが、彼女がそういう ”選択” をした理由にはさらに驚かされる。


「ワンダフル・フラワーズ」
 自殺願望からリストカットを繰り返していた清水玲奈は、特例として合宿中は学長夫妻と一緒に寝起きすることになった。
 玲奈から問われるままに、学園創立の頃の昔話を語り始める学長。そこには哀しい思い出があった・・・

 最終話のラストは合宿終了の9月。参加者たちの ”卒業式” が描かれる。

 合宿参加者たちの抱える事情の多くは、”家族” 由来のもの。22年かけて積もり積もった ”心の病” は、たかだか半年程度で何とかなるものではない(なかには一生つき合う必要のあるものも)。
 でも参加した学生たちは自分の心の中の闇に向き合い、乗り越えるまでは至らなくても、なんとか折り合いをつけて共存するすべを模索し始める。それは人間としての確実な成長だろう。
 オール・ハッピーエンドとまではいかないが、学生たちの新しい旅立ちと希望を描く、タイトル通りの「カーテンコール」となる。


 登場するキャラたちがとてもユニークなのに加え、ミステリ作家でもある作者は随所に小さな ”謎” を仕込んでいる。そのためか単調な合宿生活を描いているのに、読者の興味を巧みにつないで最後まで読ませる。
 中でも「砂糖壺-」「プリマドンナの-」は ”日常の謎” ミステリとしてもよくできてると思う。



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或るエジプト十字架の謎 [読書・ミステリ]


或るエジプト十字架の謎 (光文社文庫)

或るエジプト十字架の謎 (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/05/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★★


 ミステリファンにとって、『エジプト十字架の謎』という書名は十分すぎるくらい有名だろう。ミステリの巨匠エラリー・クイーンによる ”国名シリーズ” の一冊だ。
 私もミステリにハマりだした初期の頃に、このシリーズを読んだ。ただ、もう50年近い昔なので(おいおい)、内容もほとんど忘れてる(笑)。いつか、もう一度読み直したいなぁって思いながら今まで来てしまった。
 さて、本書はこの ”国名シリーズ” にインスパイアされたミステリ短編集だ。探偵役は作者のシリーズキャラクターであるカメラマン・南美希風(みなみ・みきかぜ)がつとめる。


「或るローマ帽子の謎」
 東京の新木場。レンタル契約されたトランクルームの中で死体が見つかる。遺体は頭部を激しく殴られた状態で、身元は不明。
 部屋の持ち主は帽子のコレクターらしく、内部には多くの帽子が飾られていたが、警察には、この場所が麻薬の密輸に関係がありそうだという情報が入っていた。しかも警察内部には、捜査情報を外部にリークしているものがいるらしい。
 現場への人の出入りが防犯カメラに全て録画されていた、というのが今風だけど、それでもしっかりミステリとしてのサプライズを描き出すのが流石。


「或るフランス白粉(おしろい)の謎」
 麻薬密売組織の幹部とみられる老婦人の扼殺死体が発見される。現場にはフランスの有名化粧品メーカーのパウダーファンデーションが一面にまき散らされていた。犯行時に被害者が抵抗した際に飛び散ったものと思われたが。
 現場のブレーカーが落ちていた理由が意外性たっぷり。「或るローマ帽子-」直後の事件で、麻薬組織に関する内容としては続編とも言える。


「或るオランダ靴の謎」
 長野県南部の山中に居を構える大槻夫妻。夫の忠資(ただすけ)は大病院の院長を務め、妻の未華子はオランダ製の木靴のコレクションをしている。
 臓器移植のNPOが開催した会議のために、大槻邸に多くの客や親族が泊まった翌朝、忠資の撲殺死体が発見される。
 タイトル通り、凶器も犯人の移動にもオランダ靴が絡んでいる。文庫本で80ページほどだけど、トリックの密度は濃く、美希風も翻弄されてしまう。


「或るエジプト十字架の謎」
 芸術大学のゼミの夏期合宿に、外部講師として参加した美希風。溶岩による奇岩に囲まれた軽井沢山中のキャンプ場に、5人の学生とともにやってきた。
 しかし翌朝、広場に設置されていたT字型の掲示板に、人体が縛り付けられていた。しかも、T字に合わせるように首が切断されて。
 遺体は5人と同じ大学の男子学生。合宿に参加している女子学生にサプライズでプロポーズしようと、昨夜のうちに密かにやってくるはずだったのだが・・・
 ”首のない死体” というのは、ミステリでは定番のシチュエーションだが、首を切断するには納得できる合理的な理由が必要。本作でもかなりユニークかつ意外な理由が設定してある。
 原典の『エジプト十字架の謎』に出てくる ”T字型” は、本作でも踏襲されてるけど、ネットで検索して出てくる ”エジプト十字架” ってT字型じゃないんだよね。それがこの文庫の表紙にもなってる。



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東京帝大叡古教授 [読書・ミステリ]


東京帝大叡古教授 (小学館文庫)

東京帝大叡古教授 (小学館文庫)

  • 作者: 門井慶喜
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/04/22
評価:★★★

 東京帝国大学の宇野辺叡古(うのべ・えーこ)教授は、”知の巨人” として知られる人物。しかし彼の周囲で連続殺人事件が起こる。熊本から上京してきた青年をワトソン役に、事件を解決していく教授の活躍を綴っていく。
 時代は明治38年。日露戦争を背景に、桂太郎・西園寺公望・夏目漱石・徳富蘇峰など実在の政治家、作家、ジャーナリストなどが登場して事件を彩る。
 ちなみに第153回直木賞候補作とのこと。


「第一話 図書館の死体」

 明治38年8月。熊本から上京してきた青年が、叡古教授に会うために大学の図書館にやってきたところ、死体に出くわしてしまう。遺体の主は帝大の教授だった。
 叡古教授によって殺人トリックが明かされるのだけど、これはどうだろう。明治時代ということを差し引いても、これってアリなのかなぁ。

 青年は叡古教授によって ”阿蘇藤太(あそ・とうた)” という仮名を与えられ、以後その名で通すことになる。
 「遺体発見の場に居合わせたとして、これからいろいろ言われるのは差し障りがあるだろう」という配慮からだったが、本人は不満げな様子。青年の本名は最終話で明らかになる。


「第二話 洋装の古代神話」は、13年前の明治25年に大分県の臼杵(うすき)町へ出張した叡古教授が、そこの寺に所蔵されている「聖徳太子像」という絵の真贋を鑑定する話。


「第三話 電報十四文字」では、京都駅で元帝大教授が殺害され、彼の元に届いていた一通の電報から、殺人容疑が帝大講師・夏目金之助(漱石)に降りかかる話が描かれる。


「第四話 字が書けるということ」以降は、物語の連続性が高まって、本書全体でひとつの長編になっていることが明らかになっていく。
 日露戦争が終結するも、その講和条件に反対する者たちの激しいデモが起こり、騒然とする東京の様子を背景に、今までに起こった一連の事件の実行犯と、その裏で糸を引く黒幕の存在が判明する。


「最終話 われは藤太にあらず」で黒幕の正体も明らかになるが、歴史ミステリだけに、この時代、この社会情勢ならではの解決が示される。

 本作でワトソン役を務めた ”阿蘇藤太” の本名も明らかになる。読んでいると、おそらく彼も実在の人物で、歴史上の有名人なのだろうと想像がつくが、よっぽど近現代史に詳しい人でければ正体までたどり着かないんじゃないかな。
 もちろん私も判りませんでした(笑)。たしかに歴史に名が残る人ではあったけど。



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おまえの罪を自白しろ [読書・冒険/サスペンス]


おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 衆議院議員の孫娘が誘拐される。犯人からの要求は「おまえのすべての罪を自白しろ」という異例なもの。
 家族の中の葛藤、巻き添えを恐れる党の上層部、懸命な捜査に臨む警察。タイムリミットを前に、ついに記者会見が開かれるが。
 終盤で明かされる犯人の真の目的は、意外なものだった・・・


 日本の政治は、利益誘導と表裏一体の面がある。選挙区である地元が潤うように行政に働きかけるのが仕事、と公言する議員さんもいる。
 政治家さんからの「〇〇は私が誘致した」「□□の建設を実現したのは私」なんて発言も、しばしば耳にする。

 本書で ”被害者” となるのは、埼玉県15区選出の衆議院議員・宇田清治郎。彼もそんな政治家の1人だ。
 長男・揚一朗は埼玉県議を務め、将来は父の地盤を継ぐものとみられている。誘拐されたのは彼の娘、3歳の柚葉(ゆずは)である。
 長女・麻由美の夫・緒方恒之は市会議員を務め、彼もまた国政進出の野望を抱いている。

 主人公となるのは、次男の晄司(こうじ)。選挙に振り回される生活を嫌い、大学卒業後は家を出てベンチャー企業を立ち上げたが経営に失敗してしまう。借金を肩代わりしてもらうことを条件に家に戻り、父親の秘書を務めることになった。
 可愛い姪の命と父の政治生命。彼は2つの ”命” を守るために奔走することになる。

 与党議員である清治郎は、さまざまな ”仕事” をしてきた。そこには、地元への利益誘導のみならず、時の総理・安川泰平にも関わるものすらあった。
 このあたり、安倍晋三総理が ”関わったとされる某事件” がモデルかと思われるところも。

「記者会見で、何を、どこまで話すか」
 清治郎は難しい決断を迫られる。しかし、そこは海千山千の政治家だ。
 犯罪になるような案件であっても、法務大臣には「指揮権」という伝家の宝刀がある。警察の捜査に介入し、場合によっては中止させる権限だ。
 物語の前半は、この指揮権発動の確約を得ようと、官房長官と必死の交渉を試みる清治郎と、それをサポートする晄司が描かれる。

 しかし与党上層部・総理周辺としては ”巻き添え” になるわけにはいかない。何とか清治郎1人に背負わせようと、「蜥蜴の尻尾切り」を狙う。

 このあたりの描写はまさに政治の暗部というか、凄まじい権力闘争というか、ギリギリの駆け引きが続く。誘拐ものでありながら、ポリティカルフィクションとしても読み応えがある部分だ。

 もちろん、終盤にいたって警察の捜査は真犯人に到達する。その真の目的も意外なものではあるのだが、本書のメインはそこではなく、晄司の変化だろう。

 政治を嫌って家を飛び出したはずが、政治のど真ん中でのドロドロの暗闘に触れ、それが彼自身にも大きな影響を与えていく。
 終盤に向けてなんとなく予想はついてくるのだが、彼がどのように ”成長” し、”変貌” していくのかもまた本書の読みどころだろう。



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