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死神さん 嫌われる刑事 [読書・ミステリ]


死神さん 嫌われる刑事 (幻冬舎文庫)

死神さん 嫌われる刑事 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 大倉崇裕
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/07/07
評価:★★★☆

 主人公・儀藤堅忍(ぎどう・けんにん)警部補は、無罪判決が確定した事件を再捜査するという、一風変わった、しかも特殊な任務を負って行動している。

 彼の決め台詞は「逃げ得は許さない」。罪を負うことなく逃げおおせようとする真犯人を追い詰めていくのが儀藤警部補の仕事だ。

 しかしそれは、捜査にあたった者から見れば「真犯人を見つけられなかった」、あるいは「有罪に持ち込めるだけの証拠を挙げられなかった」わけで、”捜査における失態” をほじくり返されることでもある。だから儀藤はどこに行っても邪魔者扱い、冷遇されることになる。

 警察官仲間からは ”死神” と呼ばれて忌み嫌われる儀藤警部補の活躍を描く、シリーズ第2巻。短編4作を収録している。


「死神 対 天使」
 警視庁鑑識課検視係の川代翔子警部は職務に厳しく、同僚や部下に対してパワハラまがいの言動を繰り返していた。そのため上司から大学講師としての出向を命じられてしまう。
 憤慨する翔子の前に現れたのが儀藤警部補。彼女が過去に検視した殺人事件の再捜査をするという。
 2年前、城南病院に入院していた資産家・三谷仁之助が筋弛緩剤を投与されて殺害された。犯人として看護師・船津文子が逮捕されるが、敏腕弁護士・福光万太郎の尽力で無罪を勝ち取っていた。
 翔子をパートナーに再捜査に当たる儀藤の前に、安楽死を請け負う『死の天使』なる者の存在が浮上する・・・
 


「死神 対 亡霊」
 警視庁捜査三課の宇佐見一成は、捜査方針を巡って上司に楯突いたために現場から外され、同僚からも相手にされなくなってしまう。
 生きる気力を失った宇佐見の前に現れたのが儀藤警部補。宇佐見が3年前に担当した、元質屋経営の安達文平が撲殺された事件を再捜査するという。この事件では窃盗常習犯・座間伸介が逮捕されたが裁判では無罪となっていた。
 宇佐見をパートナーに再捜査を始める儀藤。座間の居所を知るために、宇佐見はまず、通称 ”山一(やまいち)” という空き巣狙いを捕まえる。3年前の事件のことを聞かれた山一は、犯人は ”亡霊” だと言い出すのだが・・・


「死神 対 英雄」
 数多くのトラブルを引き起こし、”不祥事のデパート” と呼ばれた交通課警察官・富藤歩(とみふじ・あゆみ)。
 警察を退職し、縁あってスーパー『ジャンボキング』三軒茶屋店で働いている彼女の前に現れたのが儀藤警部補。3年前、『ジャンボキング』祖師ヶ谷大蔵店で起こった強盗殺人事件を再捜査するという。
 覆面の2人組が押し入り、ナイフを振り回した。たまたま来店していた三軒茶屋店長(当時)だった田坂典文が、客をかばおうとしてナイフに刺され死亡した事件だ。犯人として逮捕された兄弟2人組は、その後アリバイが成立して無罪となっていた。
 歩をパートナーに再捜査を始める儀藤だが、当時の関係者の話を聞いていくうちに、”英雄”・田坂の意外な一面が明らかになっていく・・・


「死神 対 死神」
 警視庁副総監・亀島秀康は、彼が15年前に捜査にあたった殺人事件の犯人・大殿(おおどの)浩介の死刑執行を明日に控えていた。
 そこに儀藤警部補が現れる。彼に導かれるまま、元最高裁判事・磯谷達樹に引き合わされる亀島。末期がんで死の床にあった磯谷は告げる。「大殿の命を救ってほしい」「彼への判決は間違いであった」と。
 亀島をパートナーに再捜査を始める儀藤。しかし刑の執行は明日正午。タイムリミットまでわずか24時間・・・

 副総監でさえ、儀藤に指名されたらその指揮下に入らなければならないのだから、たぶん彼は警視総監(あるいはそれより上)からの命令で動いてるんだろうなぁ・・・とか思ったり。


 前巻の記事でも書いたが、どれもミステリとしてよくできているのはもちろんだが、毎回儀藤から指名されるパートナーのキャラクターがとても面白い。

 初めは儀藤のことを文字通り ”疫病神” のように忌み嫌う。同僚や上司の捜査上のミスを見つけ出す仕事の片棒を担いだら、「もう自分の出世は絶望的だ」と思い込む。
 しかし儀藤とともに捜査を進めていくうちに、彼の不思議な魅力に感化されていき、事件が解決した後には、”パートナー” たちはみな笑顔になっている。

 事件が解決しても、彼ら彼女らは決して不幸にはならない。それどころか、未来に希望を抱くようにさえなっている。儀藤の存在を通して、パートナーたちが自分の人生を取り戻してゆく姿が感動的だ。 

 「死神 対 英雄」の最後の一行で示される歩の着地点には思わず頬が緩んでしまうし、「死神 対 死神」のラストで亀島が浮かべる不敵な笑みには、映画のワンシーンみたいでシビれてしまう。



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