名刀月影伝 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
私はよく知らないのだけど、世は ”刀剣ブーム” らしい。それに便乗したわけではないだろうが、本作は世に伝わる ”名刀” の調査、場合によっては真贋の鑑定まで行う2人組の武士の活躍を描く、連作時代ミステリ短編集。
「第一話 陰陽小烏丸」
刀剣商・大和屋喜兵衛が平家に伝わる宝剣・小烏丸(こがらすまる)を入手したという。しかし小烏丸は現在、旗本・伊勢家が保有している。ならばどちらかが贋刀のはずだ。
白河藩主・松平定信から調査を命じられたのは、家臣の山本助十郎(すけじゅうろう)と林幹之助(みきのすけ)という若侍2人組。
助十郎は剣の達人、ついでに頭も回る。本書ではホームズ役といっていいだろう。幹之助は高名な絵師の義弟で、自身も絵が得意な青年で、ワトソン役といった役回り。
調査を続けるうちに2人は意外な陰謀に出くわして、最期は剣戟シーンも。
「第二話 楠龍正宗」
江戸市中で騒ぎを起こした2人は、ほとぼりが冷めるまで上方行きを命じられる。
廻船問屋・灘屋(なだや)善兵衛が所有する刀剣・楠龍(なんりゅう)正宗を見せてもらいにいくが、善兵衛の娘が誘拐され、身代金代わりに楠龍正宗が要求されるが・・・
「第三話 八幡則国」
2人は南河内の誉田(こんだ)八幡宮を訪れるが、そこに所蔵されていた名工・粟田口則国(あわたぐち・のりくに)の刀剣が盗まれる。
しかし助十郎は巧妙な盗みの手口を喝破する。
「第四話 天狐宗近」
三条宗近(むねちか)の刀剣を所蔵する寺を訪ねた2人だったが、既に何者かにすり替えられてしまっていた。
同じく宗近の太刀を所蔵するという別の寺に向かうが、その途中、大和柳生家の家臣・狭川新兵衛の率いる一団と出会う。
さらに2人連れの勧進比丘尼も加わるが、寺に到着した夜に比丘尼の1人が殺されてしまう・・・
本来は武器であるはずの刀剣が、時代を下るにつれて宝飾品として取引されるようになり、位置づけが変わっていく。
刀剣についてはからきし無知な私なのだが、それでも楽しく読めたのは、刀剣の歴史や由来が興味深く描かれていたからだろう。
基本的には刀剣を巡る2人の武士の旅を描き、毎回最期には助十郎の立ち回りがあって、サービス満点。ミステリとしてのつくりも、この時代ならではのトリックであったり動機であったり。
最終話のラストでは、助十郎がまさに獅子奮迅の死闘を演じることになる。
そして最期に意外な展開が待っている。それまで、ミステリとして合理的な物語が綴られてきたものが、ここで大きく転換していく。
正直言って、かなり驚いたし戸惑いもした、でも、”時代劇” というものを一種の ”異世界ファンタジー” として捉えれば、納得もできるかな。
でもまあ、受け入れられない人もいるだろうな、というのは思うけど。
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