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おまえの罪を自白しろ [読書・冒険/サスペンス]


おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 衆議院議員の孫娘が誘拐される。犯人からの要求は「おまえのすべての罪を自白しろ」という異例なもの。
 家族の中の葛藤、巻き添えを恐れる党の上層部、懸命な捜査に臨む警察。タイムリミットを前に、ついに記者会見が開かれるが。
 終盤で明かされる犯人の真の目的は、意外なものだった・・・


 日本の政治は、利益誘導と表裏一体の面がある。選挙区である地元が潤うように行政に働きかけるのが仕事、と公言する議員さんもいる。
 政治家さんからの「〇〇は私が誘致した」「□□の建設を実現したのは私」なんて発言も、しばしば耳にする。

 本書で ”被害者” となるのは、埼玉県15区選出の衆議院議員・宇田清治郎。彼もそんな政治家の1人だ。
 長男・揚一朗は埼玉県議を務め、将来は父の地盤を継ぐものとみられている。誘拐されたのは彼の娘、3歳の柚葉(ゆずは)である。
 長女・麻由美の夫・緒方恒之は市会議員を務め、彼もまた国政進出の野望を抱いている。

 主人公となるのは、次男の晄司(こうじ)。選挙に振り回される生活を嫌い、大学卒業後は家を出てベンチャー企業を立ち上げたが経営に失敗してしまう。借金を肩代わりしてもらうことを条件に家に戻り、父親の秘書を務めることになった。
 可愛い姪の命と父の政治生命。彼は2つの ”命” を守るために奔走することになる。

 与党議員である清治郎は、さまざまな ”仕事” をしてきた。そこには、地元への利益誘導のみならず、時の総理・安川泰平にも関わるものすらあった。
 このあたり、安倍晋三総理が ”関わったとされる某事件” がモデルかと思われるところも。

「記者会見で、何を、どこまで話すか」
 清治郎は難しい決断を迫られる。しかし、そこは海千山千の政治家だ。
 犯罪になるような案件であっても、法務大臣には「指揮権」という伝家の宝刀がある。警察の捜査に介入し、場合によっては中止させる権限だ。
 物語の前半は、この指揮権発動の確約を得ようと、官房長官と必死の交渉を試みる清治郎と、それをサポートする晄司が描かれる。

 しかし与党上層部・総理周辺としては ”巻き添え” になるわけにはいかない。何とか清治郎1人に背負わせようと、「蜥蜴の尻尾切り」を狙う。

 このあたりの描写はまさに政治の暗部というか、凄まじい権力闘争というか、ギリギリの駆け引きが続く。誘拐ものでありながら、ポリティカルフィクションとしても読み応えがある部分だ。

 もちろん、終盤にいたって警察の捜査は真犯人に到達する。その真の目的も意外なものではあるのだが、本書のメインはそこではなく、晄司の変化だろう。

 政治を嫌って家を飛び出したはずが、政治のど真ん中でのドロドロの暗闘に触れ、それが彼自身にも大きな影響を与えていく。
 終盤に向けてなんとなく予想はついてくるのだが、彼がどのように ”成長” し、”変貌” していくのかもまた本書の読みどころだろう。



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