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飢え渇く神の地 [読書・ファンタジー]


飢え渇く神の地 (創元推理文庫)

飢え渇く神の地 (創元推理文庫)

  • 作者: 鴇澤 亜妃子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/04/24
評価:★★★★

 10年前に消息を絶った ”家族” を探し続ける主人公。その手がかりを得た彼は西の砂漠の奥深くへ向かう。そこで暮らす謎の教団には、隠し通してきた巨大な秘密があった・・・


 ファンタジーといえば、中世ヨーロッパ風な舞台が多いのだけど、この作品はちょっと異色だ。


 この世界には、ひとつの海を挟んで南北に2つの大陸がある。

 北の大陸にはヨーロッパ的な列強諸国があり、南の大陸には中東地方を思わせる遺跡群とそこに暮らす人々、その西には砂漠が広がる。

 南の大陸に遺された伝説では、西の砂漠は死の神ダリヤが支配する地。飢え渇き、満たされることを知らないダリヤは、妻である豊穣の女神アシュタールの肉体をも食べ尽くしてしまう。遺されたのは、女神の心臓石のみ。
 その心臓石から生み出される ”願い石” は、一つ割れるごとに願いごとを一つ叶えてくれる。その心臓石は、砂漠のどこかに守護者シュトリとともに眠っているという・・・

 北の大陸諸国にはある程度の機械文明が発達しているようだ。飛行機が実用化されていることから、”こちらの世界” でいうところの20世紀初め~中頃くらいの技術水準と思われる。
 それに対する南の大陸の描写も含めて、作品世界は「インディ・ジョーンズ」シリーズを彷彿とさせる。


 主人公カダム・オーウェンは20代後半の青年。大学で考古学の博士号まで取りながら、南の大陸で遺跡の地図をつくることを生業としている。

 亡くなったカダムの父デニスと、その親友のロジェ・ブランシュはともに考古学者だった。カダムはロジェの一家で家族同様に育てられてきたが、10年前にロジェと彼の一家(娘夫婦と孫娘)は遺跡調査のために西の砂漠へ向かい、そのまま消息を絶っていた。カダムはそれ以来、”家族” の行方を捜し続けてきたのだ。

 ある日、カダムの前にレオンという若い宝石商が現れる。警備隊に負われているらしい彼は、砂漠への道案内としてカダムを雇う。

 レオンとともに砂漠の街ガーフェルへやってきたカダムが見たのは、ガラ・シャーフ教団の呪殺士の一団。人を呪い殺すことができると言われている者たちだ。

 カダムはその中に10代半ばの少女がいることに気づく。彼女の顔にロジェの孫娘ソフィーの面影を見いだすカダム。失踪当時5歳だった彼女は、生きていれば15歳のはず。カダムは西の砂漠の奥深く、ガラ・シャーフ教団が暮らすトクサの砦へと向かうが・・・


 インディ・ジョーンズみたいな派手なアクションはないが、教団内部の権力闘争、ロジェの一家が失踪した真相、そして自らの欲望を叶えるべく ”願い石” を求める者たちの暗躍、そしてカダム自身の出生の秘密まで、様々な運命が絡み合う濃密な物語が展開して読み手を飽きさせない。

 第2回創元ファンタジィ新人賞受賞者の長編第2作。文庫で約480ページあるけれど、きれいにまとめ上げてあって新人離れした筆力だと思う。
 新人章受賞作『宝石鳥』は単行本での刊行。文庫化されたら読みます(笑)。



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