風神館の殺人 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
悪徳企業によって不幸のどん底に落とされ、復讐を決意した男女10人。元凶となった会社幹部3人を殺害すべく、高原の保養施設に集まって行動を開始する。しかし1人目を葬った直後、仲間の1人が死体で見つかる。残った9人の中に裏切り者がいるのか?
家電ベンチャー企業フウジンブレード。ここが売り出した ”フウジンWP1” は家庭用の風力発電機。小型かつ高効率なことからヒット商品となった。
しかしユーザーの一部に偏頭痛を患う者が出始めた。被害者の中には、重篤な症状から仕事を失ったり、自ら命を絶つ者などが現れ、悲惨な状況に。
製品から発生する低周波が原因と思われたが、もちろん会社は非を認めない。裁判に訴えた者もいたが、勝訴できる可能性は限りなく低い。
そのような状況下、フウジンブレードに恨みを抱く10人の男女が高原の保養施設「風神館」に集まり、復讐を開始する。幹部の1人をおびき寄せて首尾良く殺害に成功、残る2人の殺害計画の準備も完了した。
しかしその直後、10人のうちの1人である一橋創太(いちはし・そうた)の死体が発見される。彼はフウジンブレードの元社員で、WP1の欠陥を理由に販売延期を進言するも、逆に解雇された男だった。
”裏切り者” を抱えたまま復讐計画の完遂はできない。残った者たちは疑心暗鬼に囚われながらも、犯人を見つけ出そうとする。しかし殺人はさらに続き、1人また1人と ”仲間たち” は減っていく・・・
物語は、10人のうちの1人である高原絵麻(たかはら・えま)の視点から語られる。20代の女性で、WP1によって夢も仕事も失ってこの復讐に参加している。
同じく参加者の雨森勇太(あめもり・ゆうた)は、深い洞察力を示す男性で、物語の進行とともに絵麻と2人で行動することが増えていき、探偵とその助手みたいな関係になっていく。だがもちろんそれを以て雨森の容疑が晴れるわけでもない。むしろ頭が回るだけに犯人の可能性も排除できない。
参加者の背景もそれぞれだ。復讐に参加する理由は物語の序盤でそれぞれ開示されているのだけど、これも中盤以降になると裏の事情や隠されていた関係が明らかになったりと、一筋縄でいかない者たちばかりである。
クローズト・サークルで殺人が続けば、必然的に容疑者は絞られていくのだが、それでもなかなか真犯人に到達できない。そのあたりは流石に上手いなあと思う。
参加者たちは殺人によって人数を減らしていく。当然ながら、残る2人の幹部の殺害計画にも支障が生じていく。しかし残った者たちは計画の完遂をなかなか諦めようとはしない。
終盤ではもちろん犯人が明かされるのだけど、それ以上に驚かされるのが復讐計画の行方だ。”生き残った者” たちの下す ”決断”。ここが最大の読みどころなのかも知れない。