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アイアムまきもと [映画]



 原作は、第70回ヴェネチア国際映画祭で4つの賞を受賞したウベルト・パゾリーニ監督のイギリス・イタリア合作映画『おみおくりの作法』(2013)。ちなみにこちらは未見。
 これを日本を舞台にリメイクしたのが本作。
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 始めに断っておくが、私のこの映画に対する評価は高くない。
 映画の中で頑張ってる人は、ラストではやっぱり報われてほしい。
 主人公の牧本は頑張ってる。同僚や上司から迷惑がられても、自分の信念に従って。たしかに、こういう人が身の回りにいたら鬱陶しいし、私だって嫌うかも知れない。でも、こういう人が1人くらいはいてもいい。5人もいたら職場が崩壊するだろうけど(笑)。
 だから牧本には報われてほしかった。映画だから、フィクションだからこそ報われてほしかった。
 製作陣は「彼は十分に報われてる」と思ってるだろうし、この映画を高く評価している人もそう感じてるのだろう。まあ価値観は人それぞれだからね。
 でも私には ”あのラスト” は ”報われている” とは思えないんだ・・・。

 まずは内容紹介。公式サイトの「Story」からの引用。

 小さな市役所に勤める牧本(阿部サダヲ)の仕事は、人知れず亡くなった人を埋葬する「おみおくり係」。故人の思いを大事にするあまり、つい警察のルールより自身のルールを優先して刑事・神代(松下洸平)に日々怒られている。
 ある日牧本は、身寄りなく亡くなった老人・蕪木(宇崎竜童)の部屋を訪れ、彼の娘と思しき少女の写真を発見する。
 一方、県庁からきた新任局長・小野口(坪倉由幸)が「おみおくり係」廃止を決定する。
 蕪木の一件が “最後の仕事” となった牧本は、写真の少女探しと、一人でも多くの参列者を葬儀に呼ぶため、わずかな手がかりを頼りに蕪木のかつての友人や知人を探し出し訪ねていく。
 工場で蕪木と同僚だった平光(松尾スズキ)、漁港で居酒屋を営む元恋人・みはる(宮沢りえ)、炭鉱で蕪木に命を救われたという槍田(國村隼)、一時期ともに生活したホームレス仲間、そして写真の少女で蕪木の娘・塔子(満島ひかり)。
 蕪木の人生を辿るうちに、牧本にも少しずつ変化が生じていく。そして、牧本の “最後のおみおくり” には、思いもしなかった奇跡が待っていた。

 映画のロケ地は主に山形県ということで、風景の美しさは格別。映画の中で、画面いっぱいに広がる水田や遠くの山並みは素晴らしいのひとことに尽きる。

 そんな地方の市役所で、独居老人が死亡した後始末をする「おみおくり係」担当の牧本が主人公なのだけど、この人物造形がかなり特徴的だ。
 彼の仕事に対する ”こだわりのルール” は3つ。

1 葬儀は絶対にやる(たとえ遺族が求めてなくても)
2 参列者をなんとしてでも探し出す(たとえ身寄りがないと警察に言われても)
3 納骨はギリギリまでしない(骨壺が保管場所からあふれても)

 こう書くとさぞかし使命感にあふれた情熱的な人物、と思われるだろう。あながち間違いではないのだが、周囲からの評価は真逆だ。

  全く空気が読めない、全く人の話を聞かない、なかなか心を開かない、でも、決めたことは自分のルールで突き進む、ちょっと頑固で迷惑な存在、と受け止められている。
 ネットの感想でも何人かの人が触れているけど、私には情動に何らかの問題を抱えている人のようにも思えた。

 彼のやっていること自体は「純粋で無垢」な、心からの ”おみおくり” なのだ。それは尊いことなのは間違いない。だから彼のことは嫌いにはなれない。
 じゃあ好きになったかと問われたら、首を傾げてしまうだろう。彼の猪突猛進に振り回され、迷惑を被る周囲の人々の事情も理解はできるから。

 そんな牧本だが、鏑木の遺族を探していく過程で多くの人とめぐり会い、故人の人生を辿っていく過程で少しずつ変化していく。
 映画は牧本の変化を描くと同時に、牧本に出会ったことで、鏑木との関係を再確認あるいは再構築していく関係者を描いていく。

 牧本の奮闘の結果は、終盤の葬儀シーンで描かれるのだけど、同時に牧本自身にも大きな運命の変転が起こる。

 映画のラストが非常に印象的で、このシーンにつなげるための演出だったというのはわかるのだが・・・私はこういう展開は好きではないのだよ。

 公式サイトには「笑って泣けるエンターテインメント」ってあるけど、笑うにはテーマが重すぎ(ところどころ笑わせようとしてるが、スベりまくり)、泣くに泣けない(いや、たぶん泣く人はいっぱいいるのかも知れないけど。少なくとも私は泣けなかったなぁ・・・)。


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殺人鬼がもう一人 [読書・ミステリ]


殺人鬼がもう一人 (光文社文庫)

殺人鬼がもう一人 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/04/12
評価:★★★

 都心まで1時間半という東京郊外の街・辛夷ヶ丘(こぶしがおか)。
 このベッドタウンで起こる事件を綴っていく連作短編シリーズなのだが、全体を通して登場する主役キャラはいない。

 登場回数で言えば辛夷ヶ丘警察署生活安全課の捜査員・砂井三琴(すない・みこと)が一番多いかな。それと、彼女の相棒・田中盛(たなか・しげる)。
 この2人、いわゆる ”悪徳警官” で、捜査の最中でも自分の懐を肥やすことに熱心というトンデモナイ連中なんだが、事件もしっかり解決してしまう。

 これだけなら、さほど珍しい設定ではないかと思うが、本書の特徴は、登場人物ほぼすべてが ”悪人” だということ。”悪人”というのが言い過ぎならエゴイストと言い換えてもいいかな。自分のことだけを考えて、他人がどうなろうとお構いなし、という人間ばかりなのだ。

 強いて分類すればいわゆる ”イヤミス” になるだろう。といっても陰鬱で陰険な話というわけでもなく、名手・若竹七海さんの手にかかると(ブラックな)ユーモアにまみれた ”面白い話” に変貌してしまうのだからたいしたもの。
 もっとも、前半は軽めのクライム・ストーリーとして決着するのだけど、後半になるとけっこうダークで、ちょっとホラーな雰囲気も感じる話に。


「ゴブリンシャークの目」
 最近、放火や空き巣が多くなり、物騒な雰囲気になってきた辛夷ヶ丘。町一番の大地主の箕作(みつくり)ハツエがひったくり被害に遭ってしまう。それはあっさり解決するが、続けて骨董品の掛け軸が詐欺に遭って盗まれてしまう・・・
 ”ゴブリンシャーク” は実在のサメ。検索すると、実に不気味な姿を拝めます。ついでに和名を調べると・・・


「丘の上の死神」
 辛夷ヶ丘の住民には不評な現職の市長。反市長派は英遊里子(はなぶさ・ゆりこ)という対立候補を担ぎ出した。しかし彼女の夫・慎一郎が急死する。市長と癒着している三琴の上司は、”事件” として立件しようとするのだが・・・


「黒い袖」
 警察一家に生まれた原竹緒(はら・たけお)。彼女の妹・梅乃の結婚が決まる。相手は、こちらも警察一家に生まれた内村弘毅(ひろき)。
 竹緒は2人の結婚式を仕切ることになったのだが、出席者は揃いも揃ってわがままいっぱいのトラブルメーカーばかり。当日の朝から問題が山のように噴出し、竹緒は右往左往する羽目になるのだが・・・このあたり、とてもよくできたコメディ。本書でいちばん笑える話だ。そして最後のシーンで「そうだったか!」


「きれいごとじゃない」
 母親が立ち上げたホームクリーニング会社を経営する向原(むこうはら)理穂。辛夷ヶ丘で強盗団の犯行計画が進行しているとの情報を掴んだ三琴は、標的になっている家を特定するために、理穂の会社に潜り込んで各家庭の状況を検分していくのだが・・・
 冒頭での予想は大きく外れ、意外な展開に。ラストはちょっとホラー気味。


「葬儀の裏で」
 旧家の老女・水上サクラは、姉・大前六花(りっか)の葬儀に参列する。若い頃に駆け落ちした六花は、2年前に舞い戻ってきたが何者かに頭を殴られ、1年以上の昏睡の果てに無くなった。その葬儀の場で、水上家の ”次期当主の座” を巡って親類一族を挙げてのバトルが始まるが・・・
 六花の事件の真相も判明するが、その後が怖い。


「殺人鬼がもう一人」
 依頼人の求めに応じて殺人を引き受ける ”殺し屋” が主人公。辛夷ヶ丘の住人をターゲットにした新たな仕事が舞い込んだのだが・・・。
 殺し屋の設定がユニーク。この話も意外な展開になり、あっと驚くラストへ。



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暗号通貨クライシス BUG 広域警察極秘捜査班 [読書・冒険/サスペンス]


暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/10
評価:★★☆

 天才的なハッカー技術を身につけていた16歳の水城陸(みずき・りく)は、560人が乗ったサミット航空172便が墜落し、全員死亡の大惨事が起こったことで運命が一変する。
 航空会社のシステムに侵入して事故を引き起こした容疑で逮捕・収監されてしまったのだ。彼は無実を訴え続けたが、最高裁で死刑が確定する。

 そして10年。官僚だった父は自殺し、刑の執行が迫った26歳の彼に再び運命の変転が起こる。高度なハッキング能力を買われ、ある条件と引き換えに助命されることになったのだ。

 水城は死刑執行と発表され、公的に ”死” が確定した。新たに ”沖田シュウ” という名を与えられ、彼は国家を超えて捜査する権限を持つ広域警察の捜査官となった。タイトルの ”BUG” とは、広域警察の通称だ。

 前巻では父親の死の真相が明かされた。自殺ではなく、殺人であったこと、その実行犯の特定など。
 そして172便事故が、ある陰謀によるものであったことも。その鍵を握るのが事故の唯一の生存者である数学者・ブティア博士だった。

 続巻にして完結編(たぶん)にあたる本書では、タイトルにあるように仮想通貨を巡る陰謀が語られる。

 アメリカのIT企業・ビットセーフ社のCEOアンドリュー・ワッツは太平洋の小国・マーシャル諸島と組んで仮想通貨 Lux を立ち上げた。
 アメリカ政府ですら解読できない暗号化技術をもつビットセーフ社を後ろ盾に、Lux を世界で最も安全で使いやすい仮想通貨にすることを目的としている。

 Lux の基本設計を担当したのがブティア博士で、沖田(水城)の父もまた博士の仲間だった。そして、博士は Lux 作動の最後の ”鍵” をつくった。それを適用すると、Lux はその機能を飛躍的に高め、『世界通貨』となるような強い影響力が与えられるのだという。

 しかし Lux の台頭によって自国通貨の地位低下を嫌う大国(主にアメリカ)による妨害工作が始まる。

 Lux の機能向上の ”鍵” は、妨害工作から守るために沖田の父、そして沖田本人の肉体に隠されていた。しかし場所がどこなのか、どんな形なのかは一切不明だが。

 そしてそれは ”敵” も知るところとなった。すでに沖田の父は故人となり、唯一の ”鍵” の持ち主となった沖田本人が狙われることになった・・・


 評価の星の数が少ないのは、前巻でも触れたけど主人公のフィジカルな脆さ。10年間の拘置所暮らしで、ハッキング技術だけ天才という ”頭脳労働系” だから仕方がないと言えるのだろうが、チンピラに毛が生えた程度の悪党にも簡単に捕まってしまう。それも一度じゃないんだから・・・。

 ”頭脳労働系” だけに、脱出不可能に見える場所からも見事に逃げ出してみせる。まあ、主役だからね、それくらいの見せ場がなくては。

 もちろん ”BUG” には沖田以外にもメンバーがいる。主人公が今ひとつ頼りないぶん、彼ら彼女らの活躍する場面も出てくる。各自それぞれが秀でた能力を持つが、人に言えない出自を持つ。
 しかし広域警察の中にも ”敵” が入り込んでいるという状況が、また緊張感をもたらす。

 26歳の男の子なんだから、恋愛模様もあっていいかなとも思うが、そのあたりもねぇ。それっぽい女の子も登場するのだが、仲が深まりそうで深まらない。
 まあ、大量殺人犯の汚名を着せられた身ではねぇ・・・濡れ衣を晴らさないことには何事も始まらない。

 沖田君自身の問題については、本書でほとんど片がつくので、もし彼に ”人間的な生活” が始まるのならば、これからとも言える。
 現在のところ、2巻で終わっているが、もし3巻目以降が書かれて、沖田君が捜査官としてもう少したくましく成長しているのなら、読んでもいいかな。



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アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 [読書・ミステリ]


アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 (講談社文庫)

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 (講談社文庫)

  • 作者: 大倉崇裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/04/15
評価:★★★☆

 犯罪を起こし、あるいは巻き込まれて、飼い主や世話主を失った動植物を管理する警視庁の部署、通称 ”いきもの係”。そこに所属する生き物オタク・薄(うすき)圭子巡査を探偵役とするミステリシリーズ、第5巻。

 相棒の須藤友三警部補は、かつて敏腕の刑事だったが事件で負傷し、リハビリを兼ねて ”いきもの係” に異動してきた。当初は閑職に回されたと不満を持っていたが、薄巡査の能力を知るにつれ考えを改め、現在は良き理解者だ。

 ”いきもの” を前にすると我を忘れて、膨大な量の蘊蓄を語り出す薄。その一方で、社会人としては浮世離れしたような言動も。そんな強烈天然ボケともいえる薄と、常識人の須藤との間のトンチンカンな噛み合わない会話も、いよいよ磨きがかかってきた感じ。

 ミステリとしてのできももちろんだけど、この漫才みたいな2人の掛け合いを読みたくてこのシリーズにつきあってるといって過言じゃない。


「タカを愛した容疑者」
 山梨との県境に近い山間の田舎町で、独居老人・出渕(いずぶち)榮太郎が殺される。全身を滅多打ちにされていたが、なぜか顔だけには傷がないという奇妙な状態で。彼が死の直前にトラブルを起こしていた相手が薄圭子だった。
 彼女は休暇を取って知人の鷹匠・拝(おがみ)あざみの家に滞在していた。留守中のあざみに代わり、薄が世話をしていたタカ・一刀(いっとう)が榮太郎の飼い犬を餌にしてしまったと思い込んだからなのだが、それによって薄は殺人の容疑者となってしまう・・・
 ”顔のない死体” ならぬ ”顔だけ残った死体”。定番のトリックをひとひねり。これはうまい。
 ”拝あざみ”、”一刀” とくると、昭和生まれの人にはピンとくるネタだろう。作中には ”大五郎” という名のタカも登場する。


「アロワナを愛した容疑者」
 京都府警の福家警部補から ”いきもの係” に連絡が入り、大がかりな動物密輸ルートについての情報がもたらされる。
 折しも千代田区の高級マンションで死体が発見される。政権与党の有力議員・馬力階次郎(ばりき・かいじろう)の三男坊・光吉だ。そして現場にあった水槽の中には一匹のアジアアロワナが。これは東アジアでは人気の淡水魚で高価で取引されている。そして、現場にいたアジアアロワナは、シンガポールの富豪から強奪されたものだった。
 薄たちは、かつて動物の密輸に関わった者たちなどへの聞き込みを始めるが、馬力議員から妨害が入ったり、謎の2人組の男の暗躍があったりとなかなか真相は見えてこない・・・
 福家警部補は作者の別シリーズで主役を張っているキャラ。今回、犯人は判明するが決着はつかずに終わる。作中でも須藤が言及しているけど、その ”落とし前” を福家がつける、って続編があったら面白いのだが。


「ランを愛した容疑者」
 ベンチャー企業を経営する高秀殿和(たかひで・とのかず)が階段から落ちて死亡する。高秀は愛妻・結月(ゆづき)と10年前に死別したが、彼女の育てていたランを受け継ぎ、世話をするうちに、高度な栽培技術を身につけるまでになっていたという。
 しかし残されたランを見た薄巡査は、これは殺人だと断言する・・・
 巻末の解説を読んで初めて気づいたけど、初の「植物もの」だったんだね。いままで哺乳類、鳥類、は虫類、昆虫は扱ってたけど。
 wikiで見てみたら、両生類もまだ扱ってなさそう(笑)。そのうち「オオサンショウウオを愛した容疑者」とか出たりして(おいおい)。


 このシリーズには「ギヤマンの鐘」(このネーミングにも笑ってしまう昭和生まれは多かろう)というカルト宗教団体が登場する。
 彼らが企んだテロを ”いきもの係” に阻止された(第2巻『蜂に魅(ひ)かれた容疑者』)ことから、薄と須藤に対して報復を狙っていて、本書にもちょっとその影が現れている。

 作者は多くのシリーズを抱えているけど、ほとんどは同一世界の中らしいので、いつの日か「ギヤマンの鐘」相手に、オールスターで立ち向かう話とか書かれるかも知れない。というか、書いてほしいなぁ。



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四畳半タイムマシンブルース [アニメーション]


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 森見登美彦による小説『四畳半神話大系』のキャラと、上田誠の戯曲『サマータイムマシン・ブルース』のコラボレーション作品であるとのこと。

 『四畳半神話大系』は未読なんだけど、『夜は短し歩けよ乙女』『【新釈】走れメロス』『有頂天家族』は読んでるので、なんとなく雰囲気の見当はついてた。

  ちなみに『四畳半神話大系』は2010年にTVアニメになっていて(これも未見)、今作でも声優さんは同じ方が出演されてるらしい。だけど本作は『-大系』の続編ではなくて、パラレルワールドという位置づけみたいだ。

 キャラデザインや背景の絵柄が、強烈というか超個性的(笑)なので、好き嫌いはあると思う。私も最初はかなり抵抗があったけど、観ているうちに少しは慣れてきたかな。
 好きな絵柄か? って聞かれたら、素直に「はい」とは言いづらいけど、映画自体は楽しく観られましたよ。


 まずは内容紹介。


 主人公の「私」は、京都のとある大学の三回生。
 おんぼろアパート「下鴨幽水荘」で、1年後輩の明石さんに密かに思いを寄せつつも、無為な青春を送っている。
 「私」が住む209号室には、なぜかそこにだけクーラーが設置されており、猛暑の夏には住人たちのオアシスともなっていた。
 しかし8月のある日、その唯一のエアコンが動かなくなった。住人たちが騒いでいる時にコーラがかかって故障してしまったのだ。
 そこに見知らぬ青年が現れた。”田村” と名乗った彼は、25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたのだという。
 「私」は、彼のタイムマシンで昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持ってくることを思いつく。ところが、タイムマシンに乗り込んだ住人たちが、リモコンを持ってくるだけにとどまらず勝手気ままに過去を改変しようとする。
 さらに、「私」と明石さんは過去の改変によって自分たちの存在する世界が消滅する可能性に思い至る。
 かくして、タイムパラドックス回避のためのドタバタ騒ぎが始まる・・・


 冒頭から「私」によるマシンガンのようなナレーションが始まり、その長さと速さに驚かされる。キャラたちの台詞もそれぞれユニーク極まりないが、このへんはアニメ版『-大系』を見ている人には先刻ご承知なのでしょう。

 1日前に戻って、エアコンのリモコンを持ってくるだけ、というシンプルな出だしから、予想外の事態が連続するスラップスティック・コメディへと変貌していく。
 その原因の大半は、エキセントリックな住人たちの奇行によるもの。よくここまで奇人変人が集まってるものだと感心する。

 基本はドタバタ喜劇で、楽しく見ていられる。途中で何か所か辻褄が合わないところが出てくるが、これこそタイムトラベルものの醍醐味(笑)。ラストまでには、きっちり帳尻が合うようになっていて、このあたりはとてもよくできていると思う。まあ、ひとつだけ疑問を覚えたところもあったのだけど、それを言うと野暮かな・・・。
 謎の青年・”田村” の正体も、なんとなく見当がつくのだが、これは観てのお楽しみだろう。


 見ていると、自分自身の大学時代をちょっぴり思い出してしまった。
 私は実家通いだったのでアパート暮らしの経験はない。それ自体に不満があったわけではないけれど、こんな学生生活も楽しかったんじゃないかと思う。

 演じているのは、みんな本業の声優さんで、ベテランで達者な方ばかり。そのあたりも安心して観ていられる。

 中でも、声優の坂本真綾さん演じる「明石さん」はなかなか魅力的。映画製作に情熱を傾け、古本市を愛する。融通が利かなそうな雰囲気をまといつつ、天然ボケな一面もあったり。学生時代、彼女みたいな人がひとりでも周囲にいてくれれば、恋愛云々は別として、もう少し華やかな学生時代が送れたんじゃないかなぁ、って思ったり(遠い目)。
 終わってみれば、明石さんばっかり見ていたような気もする(おいおい)。


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BUG 広域警察極秘捜査班 [読書・冒険/サスペンス]


BUG 広域警察極秘捜査班(新潮文庫nex)

BUG 広域警察極秘捜査班(新潮文庫nex)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/07
評価:★★★

 水城陸(みずき・りく)は10歳で不登校となり、ひきこもり生活に。以来、コンピュータとネットに耽溺し、16歳のときには天才的なハッカー技術を身につけていた。

 しかし、560人が乗ったサミット航空172便が墜落し、全員死亡の大惨事が起こって彼の運命は変わる。航空会社のシステムに侵入し、ウイルスを仕込んだ容疑で逮捕されてしまったのだ。

 水城は無実を訴えたが、最高裁で死刑が確定する。官僚だった父は自殺し、収監されたまま26歳を迎えた彼にも刑の執行が迫る。
 そんなとき、水城の前に「環太平洋連合広域捜査官」を名乗る男が現れ、助命と引き換えに広域警察への参加を迫ってきた。高度なハッキング能力を買われたのだ。

 水城は死刑が執行されたと発表され、公的に ”死” が確定した。
 彼は新たに ”沖田シュウ” という名を与えられ、国家を超えて捜査する権限を持つ広域警察の捜査官となった。タイトルの ”BUG” とは、広域警察の通称だ。

 死刑は免れたものの、徹底的に自由が制限された生活が待っていた。足にはGPS装置がつけられ、単独での外出は許されない。施設から脱走しようにも、強固なセキュリティがそれを阻む。
 しかし沖田(水城)はそれに甘んじる。いつの日か、墜落事件の真相を暴き、自らの身の潔白を証明することを誓いつつ・・・

 インド系米国人の老数学者チャンドラ・ブティア博士の身辺調査およびハッキングを命じられた沖田は、彼が10年前の172便事故の搭乗者名簿に名があったことを知る。博士は172便には実際には乗っていなかったのだが、事故によって死亡したものと思われ、なぜかこの10年間、姿を隠していたのだ。
 博士は、事故について何か知っているのではないか・・・

 沖田は博士の調査任務と並行して、博士と接触することを画策し始めるのだが、もちろん上司や同僚に知られてはならない。そこでハッキング技術を駆使していくのだが・・・


 警察小説あるいはサスペンス小説に属する話なのだけど、沖田は主人公の典型からはかなり逸脱している。
 たいていは肉体的にタフで、荒事もこなすキャラが主役になるものだが、本書の沖田くんは10年間も拘置所暮らしだったからね。”出所” 後、訓練はしたのだろうが、敵であれ味方であれ、肉弾戦の場面では ”その道のプロ” には全くかなわない。このジャンルでは珍しい ”頭脳労働” 系の主人公だ。

 物語の進行とともに、沖田の父が自殺ではなく何者かによって殺害された疑いが浮上する。さらにブティア博士が関わっていた仮想通貨Lex(レークス)を巡る暗闘と、この2つのストーリーラインの中で、”頭脳労働” 系の沖田君の奮闘が描かれていくわけだが・・・

 沖田の父の死の真相は本書で明らかになるが、172便墜落事故の真相と仮想通貨Lexを巡る国家間の陰謀については次巻『暗号通貨クライシス BUG 広域警察極秘捜査班』に引き継がれる。こちらも読了しているので近々記事をアップする予定。



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華やかな野獣 [読書・ミステリ]


華やかな野獣 (角川文庫)

華やかな野獣 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

横溝正史・復刊シリーズの一冊。
表題作の中編と、短編2作を収録。


「華やかな野獣」

 貿易会社・高杉商会の社長が亡くなり、二人の子が継いだ。会社は2人の共同経営となった。
 兄の啓一は東京の本宅をとり、妹の奈々子は本牧にある臨海荘という建物を相続した。そこは横浜の海に臨む二階建て洋館で、外観内装ともに、ホテルかと見まごうような豪華さだ。

 奈々子は25歳という若さながら豪胆な性格で、かつ淫蕩で扇情的。周囲からは ”華やかな野獣” と呼ばれていた。
 月に一度、臨海荘では彼女が主催の会員制のパーティが開かれていた。作中では ”破廉恥パーティ” と形容されているが、中身は ”乱交パーティ” だ。奈々子を含め、集まった男女が一夜限りの快楽に身を任せる。

 その夜、パーティも終わりに近づいた午前5時、奈々子の死体が発見される。上半身だけが裸で、左の乳房の下をえぐられて。しかし首の周りには紐で首を絞められた跡が残っていた。

 金田一耕助は、かなり早い段階で登場する。なぜなら彼は、このパーティーでボーイに化けて潜り込んでいたからだ。巻末の解説では、このとき金田一は40代のはずなので、いささか無理があるだろうと書かれてる(笑)。

 ちなみに、その解説では金田一の生まれた年は大正2年(1913年)と分かっているらしい(横溝正史が「金田一は私の11歳下」と書いた文章があるそうだ)。
 どうでもいいことだが、大正14年生まれの私の父親の、さらにひと回り上ということになる。

 やがて、意外な ”事態” がパーティーの背後で動いていたことが明らかになる。それが金田一がパーティーに入り込んでいた理由にもなるのだけど、彼はさらに死体が「もう一つ存在するはず」とも告げる。

 もちろん終盤には、遺体の奇妙な状況も含めて、すべてが合理的に説明される。その推理自体はよくできているのだけど、この ”事態” がちょっと予想外すぎることと、金田一が読者の知らない情報を握っていて行動しているあたりは、評価が分かれるかも知れない。私も、こういう展開はあまり好きではないなぁ。


「暗闇の中の猫」

 昭和21年、東銀座の銀行に銃を持った2人組の強盗が入り、現金70万円が強奪される。

 ちなみにネットで検索してみたら、昭和21年の頃の初任給が400~500円だったらしいので、今の貨幣価値にしたら3億円を超えるくらいかと思われる。

 2人は近所にある改装中のキャバレーに逃げ込んだ。中に踏み込んだ警官隊が発見したのは、何者かに銃で撃たれた2人組の姿。1人は死亡、もう1人は頭に銃弾を受けて瀕死の状態だったことから、3人目の犯人の存在が明らかに。そして盗まれた現金も姿を消していた。

 しかし事件から5ヶ月が経過しても、盗まれた紙幣が使われていない(番号が記録されていたのだ)ことから、現金は犯人の手の届かないところにあるのでは・・・という疑いも浮上する。

 重傷を負った男・佐伯は生き延びたものの、当時の記憶を失っていた。しかし時おり、こんなことを口走る。「暗闇の中に何かいる・・・猫だ!猫だ!」

 警察は2人組が逃げ込んだキャバレーに現金が隠されているのでは、と推測していた。そこで、改装が済んで営業中のキャバレーに佐伯を連れてきた。
 しかしそこで突然の停電が起こり、佐伯が銃で殺されてしまう。暗闇の中にもかかわらず、心臓を打ち抜かれて・・・

 本作でも金田一は意外なところから姿を見せる。闇の中で狙撃するからくりは予想の範囲内だが、さらに毒殺事件が続くなど、単純さを感じさせないつくり。
 さらに本作は、金田一と等々力警部の ”出会いの事件” でもある。


「睡れる花嫁」

 画家の樋口邦彦は、病弱だった妻・瞳が亡くなった後も、彼女の死体とともに暮らしていた。それは周囲の知るところとなり、彼は逮捕・収監された。

 樋口夫妻が暮らしていたアトリエは空き家となったが、数年後、巡回中の警官がそこで1人の男を発見した。彼は樋口邦彦と名乗った。ひと月前に出所したのだという。しかしその直後、男は警官を刃物で刺して逃げ去ってしまう。

 警察がアトリエに踏み込むと、そこには花嫁衣装に身を包んだ女の死体があった。女はバーの女給で、病院で亡くなった後、遺体が盗み出されていたものだった。

 警察は異常な死体愛好癖をもつ男として樋口を追うが発見に至らず、やがて殺人事件が起こる。”愛でる” ための死体を、自ら作り出しているのか・・・

 どうみても犯人は樋口で決まりのように思えるのだが、金田一の推理は意外な真相を導き出してみせる。とはいってもこの真犯人像は・・・横溝正史って、こういうキャラ、好きだよねぇ。



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壺中美人 [読書・ミステリ]


壺中美人 (角川文庫)

壺中美人 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 表題作の長編に、短編を1作収録している。


「壺中(こちゅう)美人」

 目黒区緑ヶ丘町にあるアパートに暮らす金田一耕助。その日、たまたま訪れた等々力警部とともにテレビを観ていたところ、曲芸の中継が始まった。

 それは ”壺中美人” という演目で、揚華嬢という若い曲芸師の娘が、体をくねくねさせながら、壺の中へ自分の体を入れていくというもの。
 その壺も、とても人間が入りきるとは思えない小さなものなのだが、異常なまでの柔軟性を持つのか、その娘は起用に手足を折りたたんでいき、すっぽり中へ収まってしまう。

 それから1ヶ月半ほど後、世田谷区成城で事件が発生する。深夜のパトロール中の警官が、突然現れた女に刃物で刺されたのだ。
 さらに現場近くの家に住んでいた画家・井川謙造が刺殺体で発見され、犯人は同一人物と思われた。しかも井川家の応接間には大きな陶器の壺があり、それは以前テレビで観た ”壺中美人” の曲芸に使われたものだった。
 しかも使用人の婆やは、ナイフを持った女が体をねじ曲げて、その壺の中へ入ろうとしていたと証言する。

 その後の捜査から、揚華嬢の父・揚祭典と井川が顔見知りであったこと、井川にはある ”秘密
” があったことが明らかになっていくのだが・・・

 終盤になって意外な事実が明らかになって、事件の様相が大きく変わるのだけど、その伏線は冒頭から既に張ってある。毎度のことながら巨匠は抜かりない。

 でも、○○○が実は○だった、ってのに○○が気づかない、なんてことあるのかなぁ・・・。最近読んだミステリにも同じようなシチュエーションがあったんだけど。
 まあ実際に体験しないと分からないのかな(というより、体験しても分からないから小説のネタになるのか?)。


「廃園の鬼」

 『犬神家の一族』の舞台ともなった長野県那須市。東京で厄介な事件を片付けた金田一耕助は、静養のために湖畔のホテルへとやってきた。

 そこには元レコード歌手の浅倉加寿子が、夫の元大学教授・高柳とともに滞在していた。加寿子は2度の離婚歴があり高柳は3人目の夫だった。
 さらにそこに映画会社のロケ隊がやってくるが、その中には加寿子の最初の夫であった映画監督・伊吹の姿が。
 そして2番目の夫であった新聞記者の都築まで現れる。それも、金田一耕助を名乗る偽手紙に導かれてきたのだという。

 奇しくも加寿子の3人の夫が揃った翌日、殺人事件が発生する。

 ホテルの近くには、狂人の幻想が結晶化したような奇妙な構造の建造物があった。深い堀を巡らせ、馬鹿でかい塀で囲い、展望台があり、寝室から外への抜け穴があり・・・と、およそ建築学上の常識を無視したつくり。
 資産家の道楽息子が私財をつぎ込んで建てたものだが、完成前に亡くなってしまい、今では廃墟と化している。
 その建物の展望台で2人の男女がもみ合い、やがて男が女を展望台の下へ投げ落としてしまったのだ。

 ホテルのベランダからその光景を見ていた金田一たちは直ちに現場へと向かうが、直線距離なら300mだが間には深い谷があり、迂回して2キロほど歩かないと行き着けない。そして現場で見つかったのは、加寿子夫人の死体だった。

 最も容疑が濃いと思われた高柳・伊吹・都築にはそれぞれアリバイがあり、事件は未解決となってしまう。そして1年後・・・

 ラストシーンは金田一から真犯人へ宛てた手紙文で始まる。実は金田一は事件直後に真相に到達していたのだ。彼が1年間 ”待った” 理由もまたここで明かされる。
 ただ、その理由が納得できるものかどうかは人によって評価は分かれるかと思うが・・・。でも、なかなか叙情的な余韻を感じさせるエンディングになっていて、私はこの決着のつけ方は嫌いではない。

 あと、せっかく ”狂気の建造物” が出てきたんだから、見取り図がほしかったなぁ。詳しい構造が分からないと推理に困る、という作品ではないけど、図版があるともっと楽しかっただろうな・・・と思ったので。



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半鐘の怪 半七捕物帳 ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]



半鐘の怪: 半七捕物帳ミステリ傑作選 (創元推理文庫 M お 15-1)

半鐘の怪: 半七捕物帳ミステリ傑作選 (創元推理文庫 M お 15-1)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

 主人公の半七は、幕末に活躍した岡っ引きだ。
 維新を迎え、明治も中期となり、70代を迎えた半七が、新聞記者相手に若き日の事件を語り出す・・・というパターン。

 第1作の発表が1917年(大正6年)のこと。当時からしたら ”明治の中頃” というのも、そう遠い昔ではなかったのだろう。
 1937年まで全68編が書かれ、その中から選んだ18編が収録されている。


「お文(おふみ)の魂」
 旗本の屋敷に幽霊が出る。主の妻は離縁させてくれと騒ぐのだが。
「勘平の死」
 素人芝居の最中、小道具の刃物がすり替えられて死人が出る。
「お化(おばけ)師匠」
 姪をいじめ殺し、”お化師匠” と呼ばれた踊りの師匠が殺される。
「半鐘の怪」
 火事もないのに半鐘が鳴り、幽霊の仕業のような怪異が続発する。
「奥女中」
 茶屋の娘が武家屋敷に拉致されるが、なぜか美しく着飾ることに。
「朝顔屋敷」
 学問の試験 ”素読吟味” を受けるため会場へ向かう旗本の嫡男が姿を消す。
「猫騒動」
 猫を数多く飼っていて、近所迷惑になっていた女が殺される。
「鷹のゆくえ」
 品川の女郎屋に上がった鷹匠が、将軍家飼育の鷹を逃がしてしまう。
「津の国(つのくに)屋」
 実の娘が生まれたので養女を追い出した商家に、怪異と殺人が起こる。
「向島の寮」
 破格の条件で商家の寮へ奉公にきた娘。しかしそこにある土蔵には。
「蝶合戦」
 評判の女祈祷師が姿を消し、首のない死体が発見されるが。
「筆屋の娘」
 美人姉妹が看板娘となって繁盛していた筆屋だが、姉が毒殺される。
「あま酒売」
 夕刻に現れて甘酒を売る謎の老婆。近くによると病を被るという噂が。
「冬の金魚」
 俳諧の師匠のもとへ金魚売りの仲介依頼が。その半月後、師匠が殺される。
「三つの声」
 鋳掛(いかけ)屋の庄五郎が川崎大師へ出かけると言ってそのまま失踪する。
「かむろ蛇」
 早桶屋の伊太郎の死から続発する奇怪な事件は ”かむろ蛇” の祟りなのか。
「幽霊の観世物(みせもの)」
 見世物小屋の幽霊屋敷で女の変死体が。幽霊に驚いて心臓が止まったのか。
「二人(ににん)女房」
 呉服屋の息子が女郎と心中。翌年、同じ宿場で酒屋の女房が失踪する。


 読んでみて思ったのは、まずはバラエティの豊かさ。長屋の住人間の諍いや商家の財産争いといった ”定番” もあるけれど、それ以外のいろんなシチュエーションでの事件が多く語られている。
 次に、ミステリとしての構成の妙。現代から見れば穴もあるけど、当時としては斬新な読み物だったんじゃないかと思う。作者はシャーロック・ホームズの探偵譚の影響を受けてこのシリーズを書き出したと巻末の解説にあるのだけど、こちらもいろいろな犯罪のパターンが用いられている。書かれた時期がかなり古いにも関わらず、あまり古びた感じがしないのも、そのせいかも知れない。


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