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暗号通貨クライシス BUG 広域警察極秘捜査班 [読書・冒険/サスペンス]


暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/10
評価:★★☆

 天才的なハッカー技術を身につけていた16歳の水城陸(みずき・りく)は、560人が乗ったサミット航空172便が墜落し、全員死亡の大惨事が起こったことで運命が一変する。
 航空会社のシステムに侵入して事故を引き起こした容疑で逮捕・収監されてしまったのだ。彼は無実を訴え続けたが、最高裁で死刑が確定する。

 そして10年。官僚だった父は自殺し、刑の執行が迫った26歳の彼に再び運命の変転が起こる。高度なハッキング能力を買われ、ある条件と引き換えに助命されることになったのだ。

 水城は死刑執行と発表され、公的に ”死” が確定した。新たに ”沖田シュウ” という名を与えられ、彼は国家を超えて捜査する権限を持つ広域警察の捜査官となった。タイトルの ”BUG” とは、広域警察の通称だ。

 前巻では父親の死の真相が明かされた。自殺ではなく、殺人であったこと、その実行犯の特定など。
 そして172便事故が、ある陰謀によるものであったことも。その鍵を握るのが事故の唯一の生存者である数学者・ブティア博士だった。

 続巻にして完結編(たぶん)にあたる本書では、タイトルにあるように仮想通貨を巡る陰謀が語られる。

 アメリカのIT企業・ビットセーフ社のCEOアンドリュー・ワッツは太平洋の小国・マーシャル諸島と組んで仮想通貨 Lux を立ち上げた。
 アメリカ政府ですら解読できない暗号化技術をもつビットセーフ社を後ろ盾に、Lux を世界で最も安全で使いやすい仮想通貨にすることを目的としている。

 Lux の基本設計を担当したのがブティア博士で、沖田(水城)の父もまた博士の仲間だった。そして、博士は Lux 作動の最後の ”鍵” をつくった。それを適用すると、Lux はその機能を飛躍的に高め、『世界通貨』となるような強い影響力が与えられるのだという。

 しかし Lux の台頭によって自国通貨の地位低下を嫌う大国(主にアメリカ)による妨害工作が始まる。

 Lux の機能向上の ”鍵” は、妨害工作から守るために沖田の父、そして沖田本人の肉体に隠されていた。しかし場所がどこなのか、どんな形なのかは一切不明だが。

 そしてそれは ”敵” も知るところとなった。すでに沖田の父は故人となり、唯一の ”鍵” の持ち主となった沖田本人が狙われることになった・・・


 評価の星の数が少ないのは、前巻でも触れたけど主人公のフィジカルな脆さ。10年間の拘置所暮らしで、ハッキング技術だけ天才という ”頭脳労働系” だから仕方がないと言えるのだろうが、チンピラに毛が生えた程度の悪党にも簡単に捕まってしまう。それも一度じゃないんだから・・・。

 ”頭脳労働系” だけに、脱出不可能に見える場所からも見事に逃げ出してみせる。まあ、主役だからね、それくらいの見せ場がなくては。

 もちろん ”BUG” には沖田以外にもメンバーがいる。主人公が今ひとつ頼りないぶん、彼ら彼女らの活躍する場面も出てくる。各自それぞれが秀でた能力を持つが、人に言えない出自を持つ。
 しかし広域警察の中にも ”敵” が入り込んでいるという状況が、また緊張感をもたらす。

 26歳の男の子なんだから、恋愛模様もあっていいかなとも思うが、そのあたりもねぇ。それっぽい女の子も登場するのだが、仲が深まりそうで深まらない。
 まあ、大量殺人犯の汚名を着せられた身ではねぇ・・・濡れ衣を晴らさないことには何事も始まらない。

 沖田君自身の問題については、本書でほとんど片がつくので、もし彼に ”人間的な生活” が始まるのならば、これからとも言える。
 現在のところ、2巻で終わっているが、もし3巻目以降が書かれて、沖田君が捜査官としてもう少したくましく成長しているのなら、読んでもいいかな。



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