SSブログ

殺人鬼がもう一人 [読書・ミステリ]


殺人鬼がもう一人 (光文社文庫)

殺人鬼がもう一人 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/04/12
評価:★★★

 都心まで1時間半という東京郊外の街・辛夷ヶ丘(こぶしがおか)。
 このベッドタウンで起こる事件を綴っていく連作短編シリーズなのだが、全体を通して登場する主役キャラはいない。

 登場回数で言えば辛夷ヶ丘警察署生活安全課の捜査員・砂井三琴(すない・みこと)が一番多いかな。それと、彼女の相棒・田中盛(たなか・しげる)。
 この2人、いわゆる ”悪徳警官” で、捜査の最中でも自分の懐を肥やすことに熱心というトンデモナイ連中なんだが、事件もしっかり解決してしまう。

 これだけなら、さほど珍しい設定ではないかと思うが、本書の特徴は、登場人物ほぼすべてが ”悪人” だということ。”悪人”というのが言い過ぎならエゴイストと言い換えてもいいかな。自分のことだけを考えて、他人がどうなろうとお構いなし、という人間ばかりなのだ。

 強いて分類すればいわゆる ”イヤミス” になるだろう。といっても陰鬱で陰険な話というわけでもなく、名手・若竹七海さんの手にかかると(ブラックな)ユーモアにまみれた ”面白い話” に変貌してしまうのだからたいしたもの。
 もっとも、前半は軽めのクライム・ストーリーとして決着するのだけど、後半になるとけっこうダークで、ちょっとホラーな雰囲気も感じる話に。


「ゴブリンシャークの目」
 最近、放火や空き巣が多くなり、物騒な雰囲気になってきた辛夷ヶ丘。町一番の大地主の箕作(みつくり)ハツエがひったくり被害に遭ってしまう。それはあっさり解決するが、続けて骨董品の掛け軸が詐欺に遭って盗まれてしまう・・・
 ”ゴブリンシャーク” は実在のサメ。検索すると、実に不気味な姿を拝めます。ついでに和名を調べると・・・


「丘の上の死神」
 辛夷ヶ丘の住民には不評な現職の市長。反市長派は英遊里子(はなぶさ・ゆりこ)という対立候補を担ぎ出した。しかし彼女の夫・慎一郎が急死する。市長と癒着している三琴の上司は、”事件” として立件しようとするのだが・・・


「黒い袖」
 警察一家に生まれた原竹緒(はら・たけお)。彼女の妹・梅乃の結婚が決まる。相手は、こちらも警察一家に生まれた内村弘毅(ひろき)。
 竹緒は2人の結婚式を仕切ることになったのだが、出席者は揃いも揃ってわがままいっぱいのトラブルメーカーばかり。当日の朝から問題が山のように噴出し、竹緒は右往左往する羽目になるのだが・・・このあたり、とてもよくできたコメディ。本書でいちばん笑える話だ。そして最後のシーンで「そうだったか!」


「きれいごとじゃない」
 母親が立ち上げたホームクリーニング会社を経営する向原(むこうはら)理穂。辛夷ヶ丘で強盗団の犯行計画が進行しているとの情報を掴んだ三琴は、標的になっている家を特定するために、理穂の会社に潜り込んで各家庭の状況を検分していくのだが・・・
 冒頭での予想は大きく外れ、意外な展開に。ラストはちょっとホラー気味。


「葬儀の裏で」
 旧家の老女・水上サクラは、姉・大前六花(りっか)の葬儀に参列する。若い頃に駆け落ちした六花は、2年前に舞い戻ってきたが何者かに頭を殴られ、1年以上の昏睡の果てに無くなった。その葬儀の場で、水上家の ”次期当主の座” を巡って親類一族を挙げてのバトルが始まるが・・・
 六花の事件の真相も判明するが、その後が怖い。


「殺人鬼がもう一人」
 依頼人の求めに応じて殺人を引き受ける ”殺し屋” が主人公。辛夷ヶ丘の住人をターゲットにした新たな仕事が舞い込んだのだが・・・。
 殺し屋の設定がユニーク。この話も意外な展開になり、あっと驚くラストへ。



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: