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壺中美人 [読書・ミステリ]


壺中美人 (角川文庫)

壺中美人 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 表題作の長編に、短編を1作収録している。


「壺中(こちゅう)美人」

 目黒区緑ヶ丘町にあるアパートに暮らす金田一耕助。その日、たまたま訪れた等々力警部とともにテレビを観ていたところ、曲芸の中継が始まった。

 それは ”壺中美人” という演目で、揚華嬢という若い曲芸師の娘が、体をくねくねさせながら、壺の中へ自分の体を入れていくというもの。
 その壺も、とても人間が入りきるとは思えない小さなものなのだが、異常なまでの柔軟性を持つのか、その娘は起用に手足を折りたたんでいき、すっぽり中へ収まってしまう。

 それから1ヶ月半ほど後、世田谷区成城で事件が発生する。深夜のパトロール中の警官が、突然現れた女に刃物で刺されたのだ。
 さらに現場近くの家に住んでいた画家・井川謙造が刺殺体で発見され、犯人は同一人物と思われた。しかも井川家の応接間には大きな陶器の壺があり、それは以前テレビで観た ”壺中美人” の曲芸に使われたものだった。
 しかも使用人の婆やは、ナイフを持った女が体をねじ曲げて、その壺の中へ入ろうとしていたと証言する。

 その後の捜査から、揚華嬢の父・揚祭典と井川が顔見知りであったこと、井川にはある ”秘密
” があったことが明らかになっていくのだが・・・

 終盤になって意外な事実が明らかになって、事件の様相が大きく変わるのだけど、その伏線は冒頭から既に張ってある。毎度のことながら巨匠は抜かりない。

 でも、○○○が実は○だった、ってのに○○が気づかない、なんてことあるのかなぁ・・・。最近読んだミステリにも同じようなシチュエーションがあったんだけど。
 まあ実際に体験しないと分からないのかな(というより、体験しても分からないから小説のネタになるのか?)。


「廃園の鬼」

 『犬神家の一族』の舞台ともなった長野県那須市。東京で厄介な事件を片付けた金田一耕助は、静養のために湖畔のホテルへとやってきた。

 そこには元レコード歌手の浅倉加寿子が、夫の元大学教授・高柳とともに滞在していた。加寿子は2度の離婚歴があり高柳は3人目の夫だった。
 さらにそこに映画会社のロケ隊がやってくるが、その中には加寿子の最初の夫であった映画監督・伊吹の姿が。
 そして2番目の夫であった新聞記者の都築まで現れる。それも、金田一耕助を名乗る偽手紙に導かれてきたのだという。

 奇しくも加寿子の3人の夫が揃った翌日、殺人事件が発生する。

 ホテルの近くには、狂人の幻想が結晶化したような奇妙な構造の建造物があった。深い堀を巡らせ、馬鹿でかい塀で囲い、展望台があり、寝室から外への抜け穴があり・・・と、およそ建築学上の常識を無視したつくり。
 資産家の道楽息子が私財をつぎ込んで建てたものだが、完成前に亡くなってしまい、今では廃墟と化している。
 その建物の展望台で2人の男女がもみ合い、やがて男が女を展望台の下へ投げ落としてしまったのだ。

 ホテルのベランダからその光景を見ていた金田一たちは直ちに現場へと向かうが、直線距離なら300mだが間には深い谷があり、迂回して2キロほど歩かないと行き着けない。そして現場で見つかったのは、加寿子夫人の死体だった。

 最も容疑が濃いと思われた高柳・伊吹・都築にはそれぞれアリバイがあり、事件は未解決となってしまう。そして1年後・・・

 ラストシーンは金田一から真犯人へ宛てた手紙文で始まる。実は金田一は事件直後に真相に到達していたのだ。彼が1年間 ”待った” 理由もまたここで明かされる。
 ただ、その理由が納得できるものかどうかは人によって評価は分かれるかと思うが・・・。でも、なかなか叙情的な余韻を感じさせるエンディングになっていて、私はこの決着のつけ方は嫌いではない。

 あと、せっかく ”狂気の建造物” が出てきたんだから、見取り図がほしかったなぁ。詳しい構造が分からないと推理に困る、という作品ではないけど、図版があるともっと楽しかっただろうな・・・と思ったので。



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