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毒の矢 [読書・ミステリ]


毒の矢 (角川文庫)

毒の矢 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/04/21
  • メディア: 文庫
評価:★★

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 表題作は文庫で190ページほどの短めの長編。
 併せて、80ページほどの短編を1作収録。

 本書の評価が低めなのは、作中の表現によるものが大きい。いわゆる ”差別用語” と呼ばれるものがけっこう出てくる。
 本書収録の作品が書かれたのは昭和30年ころなので、当時としては問題になる表現ではなかったのだろう。同様の表現は他の作品にも現れるが、その場限りのことで終わることが多く、あまり気にならなかった。

 でも本書ではいささか異なる。とくに表題作では、メインテーマに同性愛が取り上げられているせいなのだが、同性愛者に対する表現がかなり差別的で、かつあちこちで繰り返されているのが、読んでいてどうしても気になった。

 作品が書かれてから60年以上が経過し、”LGBTQ” が周知されるようになった現在は、受け止める側の意識はかなり変わってきていると思う。作品は変わっていなくても、読者の意識が変わってきたのだ。
 実際、私も上記の描写が気になって、”ミステリ” を楽しむという感覚に入りにくかった。それがこの低評価につながってる。

 長くなってしまった。作品紹介を。


「毒の矢」

 金田一耕助が事務所を構える世田谷区緑ヶ丘で、”黄金の矢” と名乗る差出人による怪文書が出回っていた。それは住人たちの秘密を暴くものだった。

 ピアニストの三芳欽造のもとへ舞い込んだ怪文書には、「あなたの妻が、隣人でアメリカ帰りの的場奈津子と同性愛の関係にある」との内容が。
 しかし宛名をよく見ると ”三芳新造” とある。どうやら間違って配達されていたらしい。
 そして欽造本人のもとへも、「あなたの妻は、前夫・佐伯達人と不倫関係にある」との怪文書が届いていた。

 その一週間後、当の的場奈津子がパーティーを開く。親しい人たちに加えて三芳新造夫妻、三芳欽造夫妻まで招いて。
 しかしそこで、奈津子が矢で刺し殺されるという事件が起こる。上半身裸の彼女の背には13枚のトランプのカードの入れ墨があり、矢はハートのクイーンの上に突き立っていたのだ・・・

 死体を発見した少女の証言ひとつから、するすると全体の謎が解けていく筋道は流石の一言。


「黒い翼」

  表題の「黒い翼」とは、いわゆる ”幸福の手紙” または ”不幸の手紙” と呼ばれるもの。「この手紙と同じ文章で、あなたの友人○人(人数は不定)に出さないと不幸になります」というやつで、昭和生まれの人ならよく知ってるだろう。
 一時期、”チェーンメール” という似たものが流行ったので、ネット世代の人でもニュアンスは分かるだろう。

 巷で「黒い翼」という怪文書が流行っていた。人気女優・原緋紗子(はら・ひさこ)のもとへも大量の「黒い翼」が届いていた。

 緋紗子は緑ヶ丘へ引っ越してきたのだが、その家は1年前に緋紗子の友人だった女優・藤田蓉子がヒ素による服毒自殺を遂げた、いわくつきの家だった。

 引っ越し祝いのパーティーが開かれることになり、映画監督、俳優、マネージャーなどの芸能関係者、さらには亡くなった藤田蓉子の妹と、蓉子を看取った医師まで招かれていた。
 ついでにパーティーの余興として、緋紗子のもとへ届いた大量の「黒い翼」もそのときにまとめて燃やしてしまおうということに。

 しかしそのパーティーの中で再びヒ素による毒殺が起こる・・・

 もちろん藤田蓉子の死が今回の事件の遠因なのだが、最後に明かされる彼女の抱えていた秘密が、哀しすぎる。



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