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コヨーテの翼 [読書・冒険/サスペンス]


コヨーテの翼 (双葉文庫)

コヨーテの翼 (双葉文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/05/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 中東の砂漠地帯に本拠を持つ、ゾアンベ教の狂信的過激派組織SIC。「聖戦遂行」を悲願とする彼らは、東京オリンピック開会式でのテロを画策する。ターゲットは日本国総理大臣。

 刺客として選ばれたのは、”コヨーテ” と呼ばれる凄腕のスナイパー。超長距離からの狙撃を可能にする驚異的な腕前を持ち、過去に多くの暗殺を成し遂げてきたが、その正体は誰も知らない。経歴も断片的にしか明らかではない。
 分かっているのはアジア系の外見を持つこと(日本人と言っても通る)、複数の言語を操ること(日本語もネイティブ並みに話せる)だけ。

 対するは警視庁を中心とした日本警察。全国から警察官を招集し、鉄壁の布陣でテロリストを封じ込めるのが至上命令だ。

 すべての準備を整えた上で日本への入国を果たしたコヨーテは、開会式当日に向けて様々な布石を打ち、警備陣の切り崩しを図る。
 テロ予告メール、偽の襲撃作戦のリークなど、彼の仕掛ける様々な陽動作戦によって、警察官たちは広範囲での分散捜査を余儀なくされ、肝心の国立競技場警備にあたる警官数はどんどん削り取られていく。

 しかし、そんなコヨーテの狙いを的確に見抜く人物がいた。警備対策本部所属の水川俊介巡査部長だ。
 総務部出身で長らくデスクワークをしてきた。それ故に、現場の警官たちからは一段下に見られている。しかし水川は、独自の見識と、一歩引いた立場からの俯瞰的な状況把握によって、コヨーテに翻弄される現場の混乱がよく見える。

 本書の読みどころは、コヨーテと水川の ”頭脳戦” だろう。水川には、コヨーテの繰り出す ”一手” の意味も目的も理解できる。しかし、警備本部内での立場故に、現場の態勢に影響力を示せない。
 そんな彼が終盤に向けて、コヨーテのテロを阻止するためにどう活躍していくのか。そこが本書のクライマックスになる。


 ラストシーンでは、コヨーテと水川が一対一で相まみえることになる。ここでコヨーテの ”正体” も明らかになる。これは確かに意外だけど、ちょっと捻りすぎかなとも思う。

 ちなみに本書では、東京オリンピックは2020年開催になってる。本書の初刊は2018年で、まだコロナ禍による延期が決まる前だったからね。
 文庫化は2022年だけど、開催時期の変更は反映されてない。でもその辺りは本書の内容からすれば枝葉の部分なので、加筆や訂正の必要はないとも思う。

 本書を読む時は「2020」を「2021」って脳内変換してもいいし、2020年にオリンピックが行われたパラレルワールドの話と考えてもいい。
 ちなみに私は後者のつもりで読みました。



タグ:サスペンス
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