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華やかな野獣 [読書・ミステリ]


華やかな野獣 (角川文庫)

華やかな野獣 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

横溝正史・復刊シリーズの一冊。
表題作の中編と、短編2作を収録。


「華やかな野獣」

 貿易会社・高杉商会の社長が亡くなり、二人の子が継いだ。会社は2人の共同経営となった。
 兄の啓一は東京の本宅をとり、妹の奈々子は本牧にある臨海荘という建物を相続した。そこは横浜の海に臨む二階建て洋館で、外観内装ともに、ホテルかと見まごうような豪華さだ。

 奈々子は25歳という若さながら豪胆な性格で、かつ淫蕩で扇情的。周囲からは ”華やかな野獣” と呼ばれていた。
 月に一度、臨海荘では彼女が主催の会員制のパーティが開かれていた。作中では ”破廉恥パーティ” と形容されているが、中身は ”乱交パーティ” だ。奈々子を含め、集まった男女が一夜限りの快楽に身を任せる。

 その夜、パーティも終わりに近づいた午前5時、奈々子の死体が発見される。上半身だけが裸で、左の乳房の下をえぐられて。しかし首の周りには紐で首を絞められた跡が残っていた。

 金田一耕助は、かなり早い段階で登場する。なぜなら彼は、このパーティーでボーイに化けて潜り込んでいたからだ。巻末の解説では、このとき金田一は40代のはずなので、いささか無理があるだろうと書かれてる(笑)。

 ちなみに、その解説では金田一の生まれた年は大正2年(1913年)と分かっているらしい(横溝正史が「金田一は私の11歳下」と書いた文章があるそうだ)。
 どうでもいいことだが、大正14年生まれの私の父親の、さらにひと回り上ということになる。

 やがて、意外な ”事態” がパーティーの背後で動いていたことが明らかになる。それが金田一がパーティーに入り込んでいた理由にもなるのだけど、彼はさらに死体が「もう一つ存在するはず」とも告げる。

 もちろん終盤には、遺体の奇妙な状況も含めて、すべてが合理的に説明される。その推理自体はよくできているのだけど、この ”事態” がちょっと予想外すぎることと、金田一が読者の知らない情報を握っていて行動しているあたりは、評価が分かれるかも知れない。私も、こういう展開はあまり好きではないなぁ。


「暗闇の中の猫」

 昭和21年、東銀座の銀行に銃を持った2人組の強盗が入り、現金70万円が強奪される。

 ちなみにネットで検索してみたら、昭和21年の頃の初任給が400~500円だったらしいので、今の貨幣価値にしたら3億円を超えるくらいかと思われる。

 2人は近所にある改装中のキャバレーに逃げ込んだ。中に踏み込んだ警官隊が発見したのは、何者かに銃で撃たれた2人組の姿。1人は死亡、もう1人は頭に銃弾を受けて瀕死の状態だったことから、3人目の犯人の存在が明らかに。そして盗まれた現金も姿を消していた。

 しかし事件から5ヶ月が経過しても、盗まれた紙幣が使われていない(番号が記録されていたのだ)ことから、現金は犯人の手の届かないところにあるのでは・・・という疑いも浮上する。

 重傷を負った男・佐伯は生き延びたものの、当時の記憶を失っていた。しかし時おり、こんなことを口走る。「暗闇の中に何かいる・・・猫だ!猫だ!」

 警察は2人組が逃げ込んだキャバレーに現金が隠されているのでは、と推測していた。そこで、改装が済んで営業中のキャバレーに佐伯を連れてきた。
 しかしそこで突然の停電が起こり、佐伯が銃で殺されてしまう。暗闇の中にもかかわらず、心臓を打ち抜かれて・・・

 本作でも金田一は意外なところから姿を見せる。闇の中で狙撃するからくりは予想の範囲内だが、さらに毒殺事件が続くなど、単純さを感じさせないつくり。
 さらに本作は、金田一と等々力警部の ”出会いの事件” でもある。


「睡れる花嫁」

 画家の樋口邦彦は、病弱だった妻・瞳が亡くなった後も、彼女の死体とともに暮らしていた。それは周囲の知るところとなり、彼は逮捕・収監された。

 樋口夫妻が暮らしていたアトリエは空き家となったが、数年後、巡回中の警官がそこで1人の男を発見した。彼は樋口邦彦と名乗った。ひと月前に出所したのだという。しかしその直後、男は警官を刃物で刺して逃げ去ってしまう。

 警察がアトリエに踏み込むと、そこには花嫁衣装に身を包んだ女の死体があった。女はバーの女給で、病院で亡くなった後、遺体が盗み出されていたものだった。

 警察は異常な死体愛好癖をもつ男として樋口を追うが発見に至らず、やがて殺人事件が起こる。”愛でる” ための死体を、自ら作り出しているのか・・・

 どうみても犯人は樋口で決まりのように思えるのだが、金田一の推理は意外な真相を導き出してみせる。とはいってもこの真犯人像は・・・横溝正史って、こういうキャラ、好きだよねぇ。



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