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アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 [読書・ミステリ]


アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 (講談社文庫)

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 (講談社文庫)

  • 作者: 大倉崇裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/04/15
評価:★★★☆

 犯罪を起こし、あるいは巻き込まれて、飼い主や世話主を失った動植物を管理する警視庁の部署、通称 ”いきもの係”。そこに所属する生き物オタク・薄(うすき)圭子巡査を探偵役とするミステリシリーズ、第5巻。

 相棒の須藤友三警部補は、かつて敏腕の刑事だったが事件で負傷し、リハビリを兼ねて ”いきもの係” に異動してきた。当初は閑職に回されたと不満を持っていたが、薄巡査の能力を知るにつれ考えを改め、現在は良き理解者だ。

 ”いきもの” を前にすると我を忘れて、膨大な量の蘊蓄を語り出す薄。その一方で、社会人としては浮世離れしたような言動も。そんな強烈天然ボケともいえる薄と、常識人の須藤との間のトンチンカンな噛み合わない会話も、いよいよ磨きがかかってきた感じ。

 ミステリとしてのできももちろんだけど、この漫才みたいな2人の掛け合いを読みたくてこのシリーズにつきあってるといって過言じゃない。


「タカを愛した容疑者」
 山梨との県境に近い山間の田舎町で、独居老人・出渕(いずぶち)榮太郎が殺される。全身を滅多打ちにされていたが、なぜか顔だけには傷がないという奇妙な状態で。彼が死の直前にトラブルを起こしていた相手が薄圭子だった。
 彼女は休暇を取って知人の鷹匠・拝(おがみ)あざみの家に滞在していた。留守中のあざみに代わり、薄が世話をしていたタカ・一刀(いっとう)が榮太郎の飼い犬を餌にしてしまったと思い込んだからなのだが、それによって薄は殺人の容疑者となってしまう・・・
 ”顔のない死体” ならぬ ”顔だけ残った死体”。定番のトリックをひとひねり。これはうまい。
 ”拝あざみ”、”一刀” とくると、昭和生まれの人にはピンとくるネタだろう。作中には ”大五郎” という名のタカも登場する。


「アロワナを愛した容疑者」
 京都府警の福家警部補から ”いきもの係” に連絡が入り、大がかりな動物密輸ルートについての情報がもたらされる。
 折しも千代田区の高級マンションで死体が発見される。政権与党の有力議員・馬力階次郎(ばりき・かいじろう)の三男坊・光吉だ。そして現場にあった水槽の中には一匹のアジアアロワナが。これは東アジアでは人気の淡水魚で高価で取引されている。そして、現場にいたアジアアロワナは、シンガポールの富豪から強奪されたものだった。
 薄たちは、かつて動物の密輸に関わった者たちなどへの聞き込みを始めるが、馬力議員から妨害が入ったり、謎の2人組の男の暗躍があったりとなかなか真相は見えてこない・・・
 福家警部補は作者の別シリーズで主役を張っているキャラ。今回、犯人は判明するが決着はつかずに終わる。作中でも須藤が言及しているけど、その ”落とし前” を福家がつける、って続編があったら面白いのだが。


「ランを愛した容疑者」
 ベンチャー企業を経営する高秀殿和(たかひで・とのかず)が階段から落ちて死亡する。高秀は愛妻・結月(ゆづき)と10年前に死別したが、彼女の育てていたランを受け継ぎ、世話をするうちに、高度な栽培技術を身につけるまでになっていたという。
 しかし残されたランを見た薄巡査は、これは殺人だと断言する・・・
 巻末の解説を読んで初めて気づいたけど、初の「植物もの」だったんだね。いままで哺乳類、鳥類、は虫類、昆虫は扱ってたけど。
 wikiで見てみたら、両生類もまだ扱ってなさそう(笑)。そのうち「オオサンショウウオを愛した容疑者」とか出たりして(おいおい)。


 このシリーズには「ギヤマンの鐘」(このネーミングにも笑ってしまう昭和生まれは多かろう)というカルト宗教団体が登場する。
 彼らが企んだテロを ”いきもの係” に阻止された(第2巻『蜂に魅(ひ)かれた容疑者』)ことから、薄と須藤に対して報復を狙っていて、本書にもちょっとその影が現れている。

 作者は多くのシリーズを抱えているけど、ほとんどは同一世界の中らしいので、いつの日か「ギヤマンの鐘」相手に、オールスターで立ち向かう話とか書かれるかも知れない。というか、書いてほしいなぁ。



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