鹿の王 ユナと約束の旅 [アニメーション]
まずは公式サイトの「STORY」から引用。
かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、突如発生した謎の病・黒狼熱(ミッツァル)によって帝国軍は撤退を余儀なくされた。
原作は上橋菜穂子の長編小説。文庫版で4冊、総ページ数は1000ページを超える。単純に考えてそのまま映画化したら最低でも5~6時間になるだろうし、TVアニメにしても余裕で2~3クールくらい作れるだろう。
それを2時間弱の尺に収めるために、内容の刈り込みが行われてる。
逆にプラスされた要素もある。全体的にファンタジー描写が多く盛り込まれていることだ。映像で見せられるんだから、これは当然のことだろう。
いろいろ書いてきたけど、小説と映画は別物だから改変自体は悪いことではないと思う。単体の映画としてみれば、それなりにまとまっていて分かりやすい話になっていると思う。原作未読で映画が初見という人の感想はどうなのか知りたいところではある。
ただまあ、原作を読んでいる人からするとモヤモヤが残る映画ではあるかな。長大な物語故にキャラや場面にも愛着が出てくる。個々の読者にもそれぞれ贔屓のところができていてもおかしくないし、その扱いが小さかったり無視されていたらやっぱり哀しいよねぇ・・・
私の場合、いち押しのキャラはサエさん。
原作は長大で、決して明るいとは言えない物語なのだけれども、未来に希望を感じさせる素晴らしいエンディングを迎える。
映画前半のヴァンとユナの牧歌的な生活のシーン。この2人に焦点を当てた構成になったが故に、ここが大事なのは百も承知なのだが、1分でもいいから削ってサエさんの描写に割いてあげて欲しかったなぁ、って思ったり。
声優陣について。
この3人以外はベテラン声優さん。皆さん達者な人ばかりなんだけど、なんと公式サイトにはキャスト一覧がない! 私が見落としているだけなのかも知れないが。もし存在してないなら、声優さんを軽んじてるよなあ・・・
全く関係ない話なのだけど、観終わって近くの書店に行ったら『大怪獣のあとしまつ』のノベライズがあった。分量は文庫で200ページ弱。
小説の原案・原作があって映画化され、かつ傑作と呼ばれてるものは、短編がベースになってることが多いって話を聞いたことがある。
『鹿の王 ユナと約束の旅』を観て,少しでも興味を覚えたら、ぜひ原作にあたってほしいなあ。映画とはまた違う ”旅” が体験できると思うから。
本と鍵の季節 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
高校2年生の春、堀川次郎は図書委員会で松倉詩門(しもん)という男子生徒と知り合う。図書委員は回り持ちで図書室の当番を担当するのだが、この学校の図書室は至ってヒマで、当番の日の二人は専ら本を巡る話に花を咲かせている。
「913」
「ロックオンロッカー」
「金曜に彼は何をしたのか」
「ない本」
「昔話を聞かせておくれよ」
「友よ知るなかれ」
ミステリで主人公が2人組というと、ホームズ役とワトソン役が割り振られるのが定番だが、本書はいささか異なる。
洞察力・推理力については、やや松倉が上かなとも思うが、堀川も能力的にはかなり拮抗しているようにも思う。
本書はミステリではあるけど、青春小説でもある。2人が解明する事件の真相には、かなり苦いもの、後味の悪いものもある。
2人の物語はここで終わりではなく、続編が書かれているらしいので、そちらも期待してしまう。
大怪獣のあとしまつ [映画]
ではまず、公式サイトからあらすじを引用すると・・・
人類を未曽有の恐怖に陥れた大怪獣が、ある日突然、死んだ。
大怪獣の死体が爆発し、漏れ出したガスによって周囲が汚染される事態になれば国民は混乱し、国家崩壊にもつながりかねない。終焉へのカウントダウンは始まった。
絶望的な時間との闘いの中、国民の運命を懸けて死体処理という極秘ミッションを任されたのは、数年前に突然姿を消した過去をもつ首相直轄組織・特務隊の隊員である帯刀(おびなた)アラタ[山田涼介]だった。
果たして、アラタは爆発を阻止し、大怪獣の死体をあとしまつできるのか!?
基本的には喜劇。突然死んだ大怪獣の死体処理を巡るドタバタで笑わそうという狙いがあるのだろうけど、そのあたりのギャグが寒くてスベりっぱなし。まあそのへんが酷評の原因のひとつか。
作品世界の中では ”国防軍” というのが存在していて、怪獣の死体処理にはまずそちらが乗り出していく。その方法というのが「凍結させる」というもの。
喜劇とはいえ、国防軍も特務隊も含めて、とにかく現場で命をかけて死体に対峙している人たちの描写はかなりリアル。特務隊長・敷島[真島秀和]なんて、笑顔のシーンは皆無だよ。だからこそ、彼らのバックボーンはしっかり描いて欲しいなあと思った。
環境大臣(ふせえり)をはじめ、政府内では、怪獣の死体処理を自分の利益に結びつけようという輩がうごめき始めるが、その筆頭は首相秘書官を務める天音正彦(濱田岳)。元特務隊員で、ユキノの夫でもある。
この正彦が全編にわたって陰謀を巡らす役回り。ユキノの元カレであるアラタを死体処理の責任者に任命するが、裏では足を引っ張り、失敗させようとする。未だアラタに想いを残すユキノへの嫉妬がそうさせるのだが。
さて、その主役のアラタだが、3年前に謎の失踪を遂げ、2年間消息不明に。その間にユキノは正彦と結婚してしまうのだが、1年前に姿を現し特務隊に復帰している。その間、何処で何をしていたのかは最後まで謎なのだけど・・・
とはいっても、作中の描写からある程度の予測はつく。というか、この日本という国に生まれて、幼少時から浴びるように特撮TVや特撮映画を見てきた人なら分かるよねぇ・・・
でもまあ、「いくらなんでもそれはないだろう」という気持ちもあった。
断っておくがこのラスト、私は嫌いじゃない。だけど、この展開について行けない人も多いだろうというのはわかる。
観る人を選ぶ映画だとは言える。波長が合えば楽しめるし、合わなければ拒絶反応が起こるだろうというのもわかる。
うーん、ラストの展開について、ネタバレしないように書くにはやっぱり限界があるなぁ・・・。
ひとつヒントというかキーワードを挙げると、映画のかなりはじめの方に
wikiには「劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在(神)が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法」とある。
消人屋敷の殺人 [読書・ミステリ]
評価:★★★
日影荘は、東京から車で5時間ほどの距離にあるQ半島、そこでも秘境と呼ばれる軽磐(かるいわ)岬の突端にある断崖上に立てられた武家屋敷だ。
明治9年、反政府運動を企てた者たちがこの屋敷に立て籠もった。しかし周囲を官憲が取り囲く中、20人近くの者が屋敷内から姿を消してしまう。それ以来、ここは ”消人屋敷” と呼ばれるようになった。
そして現代。
淳也は3年前に「作家になる」といって大学を中退して家を出て、以後は音信不通になっていた。ならば「黒崎冬華」の2人のどちらかが兄ではないか?
淳也の行方を捜し始めた真由里は、新城篤史という人物が兄のアパートの保証人になっていたことを突き止める。しかし、その兄でフリーライターの新城誠に会ったところ、篤史もまた失踪しているのだという。
黒崎冬華の正体が淳也と篤史ではないか? しかし覆面作家に対する流星社のガードは堅く、情報がつかめない。
日影荘にやってきた2人は、同じく招待状を受け取った文芸評論社の女性編集者とともに、屋敷の住人たちに会う。
対面してみて分かったが「黒崎冬華」たちは淳也と篤史ではなかった。しかしそれならば、淳也の書いた作品との共通点は何を意味しているのか?
そこへ折からの豪雨が襲い、日影荘の離れが崖下へ崩壊、そこにいた流星社の編集者2人は行方不明に。
日影荘の中に残された5人だったが、彼らをさらなる惨劇が襲う・・・
読んでいくと、ところどころ「?」って引っかかるとこが出てくる。それは中盤以降になるとより頻度が上がるのだが、それが何処につながるのかは見えない。まあそこが本書のキモなので、そう簡単には見破れないよねぇ。
もちろん終盤近くにはそれが明らかになるのだが・・・うーん、”この手” で来たかぁ・・・という感じですかね。
クローズド・サークルというのは、事件が進行する(殺人が起こる)たびに容疑者が減っていく、という難点があるのだけど、なるほど、こういう方法もアリなんですね。
「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章 -STASHA-」を観てきました [アニメーション]
記事のタイトルにあるとおり、昨日(2/5)、「2205 後章」を観てきました。
私はこの作品にとっても満足しております。
場所は新宿ピカデリー。舞台挨拶付きの回です。前章の時も舞台挨拶を観ましたから、後章でも・・・と申し込んでみたら、運良く当選させて頂いて。
とはいっても、埼玉の片田舎からは新宿は決して近くはない。
あれももう9年位前の話だねぇ。時の流れが速すぎる。
閑話休題。
「撮るんでしょ?」とかみさんに言われたら撮らないわけにはいかない。
席は完売のはずなんですが、私たちの席の隣には3人分くらい空席が。ひょっとして感染者になったり、あるいは濃厚接触者になったりとかしてしまったのかなぁと思ったり。
予告編に続いていよいよ本編の上映開始。
・古代進という男の ”操縦法” を完璧にマスターしている森雪さん。
上映終了後、舞台挨拶開始。その模様はネットにもたくさん上がってるので割愛。
舞台挨拶も終了してまたロビーに戻ってきましたが、相変わらずの物販の大行列。
今回はなんと、12時からの舞台挨拶の回も応募して当選してたので、続けて鑑賞することに。
舞台挨拶についての、ネットでのパワーワードは「宇宙のお姉さん」らしいですね。その言葉が出た瞬間を生で見られたのも、とても楽しかったです。
そして本編上映。1回目よりも2回目の方が涙がたくさん流れてきました。感染予防でマスク着用での鑑賞なのですが、マスクの内側は鼻水でぐじゃぐじゃになってしまいました(汚い話でスミマセン)。
さて、2回目上映の後にまたロビーに戻ってきましたが、相変わらずの物販の大行列が続いてます。さすがにあの ”密” の中に割って入る勇気は出なかったので、買い物は諦めて帰ることに。
でも、どうしてもパンフレットだけは欲しかったので、帰る途中でさいたま新都心に寄り道し、MOVIXさいたまで買ってきました。こっちも物販に行列はありましたけど、新ピカと比べれば可愛いもんでした。
来週の金曜にはBDが届くんですけど、それまでは何回か観に行くことになりそうです。
鎮憎師 [読書・ミステリ]
冒頭で語られるのは、ある中学生のいじめ事件。
本書のタイトルにある ”鎮憎師” とは、そういう憎しみの連鎖を断ち切り、事件を ”上手に終わらせる” 者のことを指す。
そして本編。
赤垣真穂は大学時代のサークル仲間の結婚式に出席する。その二次会に現れたのは、かつて同じサークルにいた熊木夏蓮(かれん)。
しかしサークル仲間の一人、桶川ひろみが彼女の消息を掴むことに成功していた。夏蓮は彼女の招きで、この二次会に現れたのだ。
新郎新婦、真穂、ひろみを含めた8人の仲間は驚きながらも夏蓮を迎え入れ、旧交を温める。その日は三連休の初日だったこともあり、翌日も集まることを約束して解散する。
しかし翌朝、夏蓮は宿泊していたホテル近くで絞殺死体となって発見される。警察の事情聴取から解放された8人は、集まって情報交換と事件の検討を始める。
この8人の出身校は理系の大学であり、大学院で研究を続けている者や高校で理科の教師になった者もいる。
”ある事件” が原因ととすると、夏蓮に殺意を抱く可能性は、多かれ少なかれメンバー全員が持っている、あるいは持っていてもおかしくない。
この中で真穂は、夏蓮との関わりがいちばん薄い人物として設定されている。言い換えれば、事件を最も客観的に観ることができる人物だ。
真穂は、弁護士をしている叔父・新妻順司に相談する。
沖田は、過去に新妻と協力して事件関係者の憎しみを ”鎮めた” ことがある。新妻は彼のことを「鎮憎師」と呼んでいた・・・
というわけで、今回登場する沖田だが、通常の探偵とはひと味違う。
だから彼は真穂とひろみ以外のメンバーとは顔を合わせない。2人に対してもアドバイスをするだけで、”解決” を真穂たち当事者に委ねるのだ。
もちろん沖田は、真穂たちよりも先に事件の真相や犯人に辿り着いているのだが、それを真穂たちに明かすことなく、終盤まで傍観者であり続けるわけだが・・・
真相解明よりも復讐の連鎖を食い止めることを第一義にするという、なかなか思い切った設定で、そこのところが通常のミステリとひと味違うところだろう。
跡形なく沈む [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
舞台はスコットランドの小都市シルブリッジ。
ケン・ローレンスは大学を放校処分となってシルブリッジ自治区へ帰郷し、区役所で閑職に就いていた。私生活も荒み、人妻であるリズと同棲している始末。
リズは奔放な女で、いろんな男をしょっちゅうベッドに引っ張り込んでいた。ケンはそんな彼女との生活に疲れ果てている。
リズの別居中の夫ヴィクター・ロスは区議会議員。彼は区役所の職員ジュディ・ハッチングスと交際中で、彼女との結婚を考えていた。
ジュディはかつてケンと婚約していたが、彼の放校によって解消となった。現在はヴィクターとつきあっているが、彼女の中には未だケンへの想いが忘れがたく残っていた。
という、なかなか複雑な人間関係の渦中へ、ルース・ケラウェイという女性が現れるところから物語は始まる。
ルースは、イギリスとフランスの間に浮かぶジャージー島で育った。父親はおらず、ルーズは私生児として産まれた。
母親が病死し、その遺品から父親の手がかりを得たルースはイギリス本土へ渡り、シルブリッジにやってきた。さらに、かつての母の職場であった区役所でタイピストとして採用され、働き始める。
美しい容姿を持つが極めて狷介で、他人と打ち解けることは全くない。心の中に何らかの策謀を秘めているようでもある。
ルースは父親を探すとともに、なぜか数年前の協議会議員選挙の不正行為についても調べ始めた。
そんな彼女の行動は区役所の職員や議員たちの知るところとなり、次第に不穏な空気が醸し出されていく。
そんな中、リズが殺されるという事件が起こる。そして数日後、ルースが下宿先から姿を消してしまう。
ルースが失踪する直前、最後に会う予定だった相手はロバート・ハッチングス議員。彼はジュディの父親だった・・・
物語は主にジュディとケンの視点から語られる。この2人がほぼ主人公といっていいだろう。
ジュディは、ヴィクターとケンという二人の男性の間で揺れ動いたり、父親のロバートと兄のトムが揃って殺人事件の容疑者になったり、ルースがロバートの隠し子ではないかとの疑惑が持ち上がったりと、なかなか波瀾万丈なイベントが待ち受ける人生(笑)。
一方、ケンはリズを喪った後、改めて自分がまだジュディを愛していることを自覚し、彼女との仲を修復しようと奔走し始める。
しかしジュディの態度は極めて冷たい。でもこれは、いわゆる ”ツンデレ” って奴ですな(笑)。
以前アップした『三本の緑の小壜』でも書いたが、本書でもラブコメ要素は健在。
ジュディに何回拒絶されようとも挫けないケンはたいしたものだし、ジュディも内心では悪い気はしていないみたいだし(笑)。
殺人事件の推移と並行して、この2人の恋愛模様もまた本書の読みどころだ。
終盤では一転してサスペンス調になる。犯人を追ってのカーチェイスとか、なかなか意外な展開が待っている。
そして明らかになる真相。まあ分かってみれば極めてシンプルで明快なのだけど、いつもながらそれが分からないんだよねぇ。
ケンやジュディ以外にも、一癖も二癖もある登場人物ばかりで、そんな人々のドロドロの愛憎劇や、腹に抱えた陰謀が絶妙な目眩ましになってるのはいつもの通り。
ミステリとしてもよくできてるし、ラブコメとしても楽しい。小説としての面白さを充分に味わえる作品だ。
流れ星と遊んだころ [読書・ミステリ]
主人公は北上梁一(りょういち)。銀幕の大スター・花村陣四郎(通称 ”花ジン”)のマネージャーをしている。
ある夜、梁一は新宿のバーで鈴子という若い女に出会う。彼女に誘われるままに横浜へやってきたが、そこで秋葉という男に襲われる。二人はグルだったのだ。
しかし、秋葉に不思議な魅力を感じた梁一は、逆に秋葉へ交渉を持ちかける。花ジンをスターの座から引きずり落とし、秋葉を新たなスターとして世に送り出そうという計画だ。
花ジンのスキャンダルを暴露し、主演予定の映画から降板させる。さらに監督を通じてその映画に秋葉を押し込む。
梁一、鈴子、秋葉の3人がスポットライトを浴びる場所を目指し、芸能界の底から一歩ずつ這い上がっていくさまが語られていく。
連城三紀彦のことであるから、単純な芸能サクセス・ストーリーになるはずもない。
まず、過去に起こった行きずりの殺人事件を巡る秘密が、3人の行く手に暗雲となってたちこめていく。
物語は大小いくつかのどんでん返しを含んで、二転三転どころか五転六転し、登場人物同士が欺し欺されていく。
しかし芸能界の大スター(綺羅星)を目指す物語のタイトルに ”流れ星” なんて言葉が入ってる時点で、主役3人組の愛憎のドラマが行き着く先が暗示されているように感じる。
でもまあ、真相を見破ろうとかの無駄な抵抗をしないで、それに身を委ねて素直に驚くのが本作の正しい読み方なんだろう。