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鹿の王 ユナと約束の旅 [アニメーション]


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まずは公式サイトの「STORY」から引用。

 かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、突如発生した謎の病・黒狼熱(ミッツァル)によって帝国軍は撤退を余儀なくされた。
 以降、二国は緩やかな併合関係を保っていたが、アカファ王国はウィルスを身体に宿す山犬を使ってミッツァルを再び大量発生させることで反乱を企てていた。
 ミッツァルが国中で猛威を振るう中、山犬の襲撃を生き延びたヴァンは身寄りのない少女ユナと旅に出るが、その身に病への抗体を持つ者として、治療薬開発を阻止したいアカファ王国が放った暗殺者サエから命を狙われることになる。
 一方、治療薬を作るためヴァンの血を求める医師のホッサルも懸命にヴァンを探していた―― 。
 様々な思惑と陰謀が交錯した時、運命が動き始める。

 原作は上橋菜穂子の長編小説。文庫版で4冊、総ページ数は1000ページを超える。単純に考えてそのまま映画化したら最低でも5~6時間になるだろうし、TVアニメにしても余裕で2~3クールくらい作れるだろう。

 それを2時間弱の尺に収めるために、内容の刈り込みが行われてる。
 キャラ同士の関係性では、ヴァンとユナの ”親子の絆” にクローズアップして、他の要素はかなり省かれてしまった。
 ”黒狼熱” の治療法についてもかなりの改変がある。これは観客にわかりやすくするという目的もあるだろう。
 それ以外でも、とにかく ”尺がないから入らなかった” であろう要素は盛り沢山だ。

 逆にプラスされた要素もある。全体的にファンタジー描写が多く盛り込まれていることだ。映像で見せられるんだから、これは当然のことだろう。
 「ファンタジー小説なんだから当たり前じゃない?」そう思う人もいるだろう。でも、この作者の書く作品は、『精霊の守り人』もそうだったけど、舞台こそ架空の異世界だが魔法的・幻想的な要素は非常に少ない。
 この映画の原作もファンタジー要素はあるけれど、大部分は ”こちらの世界” とほぼ同じ条件・環境での生活が描かれる。それがこの人の特徴でもある。

 いろいろ書いてきたけど、小説と映画は別物だから改変自体は悪いことではないと思う。単体の映画としてみれば、それなりにまとまっていて分かりやすい話になっていると思う。原作未読で映画が初見という人の感想はどうなのか知りたいところではある。

 ただまあ、原作を読んでいる人からするとモヤモヤが残る映画ではあるかな。長大な物語故にキャラや場面にも愛着が出てくる。個々の読者にもそれぞれ贔屓のところができていてもおかしくないし、その扱いが小さかったり無視されていたらやっぱり哀しいよねぇ・・・

 私の場合、いち押しのキャラはサエさん。
 ヴァンを付け狙う刺客の女性なのだが、次第に彼に惹かれていってしまう役回り。彼女には哀しい過去があるのだが、そのあたりの描写はバッサリ。
 本作のメインヒロインはもちろんユナなんだけど、”大人枠” では間違いなくサエさんだからねぇ。

 原作は長大で、決して明るいとは言えない物語なのだけれども、未来に希望を感じさせる素晴らしいエンディングを迎える。
 物語終盤でのサエの ”決断” も、その重要な要素になってるのは間違いない。それぞれの家族を喪った3人が、血のつながりではなく心がつながることによって ”家族としての再生” を果たす。
 だけどそこのところもバッサリ。エンドロールの後に若干補足されてはいるのだけどね・・・。

 映画前半のヴァンとユナの牧歌的な生活のシーン。この2人に焦点を当てた構成になったが故に、ここが大事なのは百も承知なのだが、1分でもいいから削ってサエさんの描写に割いてあげて欲しかったなぁ、って思ったり。

 声優陣について。
 ヴァンは堤真一。野太い声が意外とあってるので私としてはOK。
 ホッサルの竹内涼真はちょっと線が細いかなぁ。
 サエの杏さんは、そもそも台詞が少なすぎ(笑)。刺客としての鋭さがちょっと足りない気もしたり。
 こちらの2人は、やっぱり声優さんを使ってほしかったな。

 この3人以外はベテラン声優さん。皆さん達者な人ばかりなんだけど、なんと公式サイトにはキャスト一覧がない! 私が見落としているだけなのかも知れないが。もし存在してないなら、声優さんを軽んじてるよなあ・・・

 全く関係ない話なのだけど、観終わって近くの書店に行ったら『大怪獣のあとしまつ』のノベライズがあった。分量は文庫で200ページ弱。
 まあジャンルも異なるし、ノベライズとオリジナル小説では単純比較はできないけど、『大怪獣-』と『鹿の王-』は上映時間がほぼ同じ。かたや200ページ、かたや1000ページ超え。うーん。

 小説の原案・原作があって映画化され、かつ傑作と呼ばれてるものは、短編がベースになってることが多いって話を聞いたことがある。
 『2001年宇宙の旅』は2時間半あるけど、アーサー・C・クラークの短編小説が原案だったはず。
 長編原作がダメというわけじゃないけど、映画化のハードルは短編よりは高いのだろうなぁ・・・って思ったりする。

 『鹿の王 ユナと約束の旅』を観て,少しでも興味を覚えたら、ぜひ原作にあたってほしいなあ。映画とはまた違う ”旅” が体験できると思うから。


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