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本と鍵の季節 [読書・ミステリ]


本と鍵の季節 (集英社文庫)

本と鍵の季節 (集英社文庫)

  • 作者: 米澤穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/07/01

評価:★★★★

 高校2年生の春、堀川次郎は図書委員会で松倉詩門(しもん)という男子生徒と知り合う。図書委員は回り持ちで図書室の当番を担当するのだが、この学校の図書室は至ってヒマで、当番の日の二人は専ら本を巡る話に花を咲かせている。
 そんな2人が巻き込まれる ”日常の謎” を巡る連作ミステリだ。

「913」
 図書委員会を引退した3年生・浦上麻里が図書館に現れる。彼女の祖父が家の金庫の鍵をかけたまま亡くなった。その金庫のダイアル番号を探り当ててほしいというのだ。
 2人は彼女の家を訪れ、金庫と対面する。祖父の残した言葉をヒントに何かを掴んだかのように見える松倉だったが・・・
 ”913” という数字を見て ”813” を連想してしまった私は、やっぱり怪盗ルパンのファンなのでしょうか。もちろんこちらの ”913” には、全く別の意味がありますが。

「ロックオンロッカー」
 堀川に誘われ、散髪屋を訪れた松倉。そこは20人以上の収容能力がありそうな広さの割に閑散としている。店員や店長の言動から、”あること” が進行中なのではないか、と察する2人だが・・・
 読者にもある程度の予測はつくだろうけれど、2人の眼力はそのさらに上をいく。

「金曜に彼は何をしたのか」
 期末テストの最中、職員室近くの廊下でガラスが割られるという事件が起こる。
何者かがテスト問題の盗難を企てたものと思われた。
 その ”容疑者” として名が挙がったのが2年生の植田昇(しょう)。普段から素行の悪いので有名な生徒だった。
 その弟で1年生の登(のぼる)が堀川と松倉に相談してきた。兄の無実を晴らしてほしい、と。
 日常の謎でアリバイものは珍しいかな。終わってみれば冒頭の会話からすでに伏線になっていて、ラストの切れ味も抜群。

「ない本」
 3年生が自殺した。生徒の間で不確定な情報が飛び交う中、図書館に3年生の男子・長谷川が現れる。彼は自殺した生徒・香田の友人だった。
 彼は香田が死ぬ直前、最後に読んでいた本が知りたいのだという。しかし図書の貸借は個人情報なので他者には開示できない。
 そこで堀川と松倉は、長谷川から聞き出した情報を手がかりにその本を探しだそうとするのだが・・・
 本の特定に至る推論もよくできてるが、ラストの展開はそれ以上に意外なもの。こりゃ確かに長谷川くんは困るわなぁ・・・

「昔話を聞かせておくれよ」
 ある日突然、昔話を始めた松倉。6年前に彼の父親が亡くなったのだが、その際に大金を残したのだという。しかしその行方が杳として知れない。
 しかし堀川は、松倉の父が残した遺品や手帖の記述を手がかりに、当時の様子を推測し始める・・・

「友よ知るなかれ」
 「昔話-」の後日談というか完結編。「昔話-」のラストで解明された事実の中には、読者が疑問を憶える箇所がいくつか存在する。しかしそれも実は伏線になっていて、こちらの話の中できっちり説明がつけられる。
 そして松倉の父が残した ”隠し財産” の正体、さらには松倉自身が抱えた秘密も明らかに。

 ミステリで主人公が2人組というと、ホームズ役とワトソン役が割り振られるのが定番だが、本書はいささか異なる。

 洞察力・推理力については、やや松倉が上かなとも思うが、堀川も能力的にはかなり拮抗しているようにも思う。
 時には松倉の気がつかない部分にまで思いが及んだりするし、ラストの二話「昔話-」「友よー」においては謎を解明する主体となる。
 ホームズとワトソンというより、お互いが補完し合うことによって ”探偵役” として成立している、という感じだ。

 本書はミステリではあるけど、青春小説でもある。2人が解明する事件の真相には、かなり苦いもの、後味の悪いものもある。
 かと言って読後感が重くならないのは、この2人組のキャラも大きいかと思う。なれ合うこともおもねることもなく、お互いを対等に認め合っていて、2人の距離感は適度かつ絶妙な気がする。こういう2人組の主人公って、あまり見たことが無いんじゃないかな。

 2人の物語はここで終わりではなく、続編が書かれているらしいので、そちらも期待してしまう。


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