フェイス・ゼロ [読書・SF]
評価:★★☆
本書は雑誌発表された後、短篇集に収録されなかった作品を集めたもの。総数90篇あまり(こんなに未収録のものがあるのもスゴいが)の中から13篇を収録している。ちなみに長編も5作くらい本になっていないとか。
さて、本書は二部構成になっている。
○SIDE A 恐怖と幻想
「溺れた金魚」
「夢はやぶれて(あるリストラの記録より)」
「トワイライト・ジャズ・バンド」
「逃げようとして」
「エスケープ フロム ア クラスルーム」
「TEN SECONDS」
どれも文庫で20ページ弱の分量。内容は「恐怖と幻想」のとおり、幻想的なホラー小説というところ。
ただ私はこの手の話はあんまり好きじゃないので、どうしても評価は辛め。
○SIDE B 科学と冒険
「わが病、癒えることなく」
「一匹の奇妙な獣」
「冒険狂時代」
「メタロジカル・バーガー」
「フェイス・ゼロ」
「火星のコッペリア」
「魔神ガロン 神に見捨てられた夜」
こちらはSF寄りの作品集になっている。
「わが病-」「一匹のー」はどちらも長編になりそうな素材をあえて短篇に凝視したような印象。
「冒険狂-」だけ1978年の作品。この頃はいろんな作家さんがこんな感じのSF短篇をたくさん書いていたような記憶が。
「メタロジカルー」何でもマニュアル化されている時代だが、それが究極まで進んだら・・・という話。
「フェイスー」表題作だけあって、本書の中ではいちばんいい。ロボット工学者が、文楽遣いの人間国宝から依頼されて作った ”無表情の表情” の頭。それを巡って殺人事件が起こるSFミステリ。最新工学と伝統芸能を組み合わせる、こういう発想ができるのがスゴい。
「火星ー」火星から地球へ帰還途中の宇宙船内でのサスペンス劇。
「魔神ガロンー」手塚治虫が書いた作品を小説化するという企画の一篇。とはいっても原作のマンガを読んでないので何とも評価ができないのだが、小説の方はしっかり山田正紀印のSFになってる。
山田正紀は1974年に24歳でデビューしてるから、今年で作家生活48年、72歳ということになる。いまでも作品発表があるから、まだまだ現役で頑張ってるわけだ。
この人は「長編型」というイメージがあったのだけど、巻末の解説を読んでやっぱり、となった。デビュー以来、刊行された著作が約180冊、そのうち130冊が長編なのだという。
今回、短篇集を読んでみて思ったけど、やっぱりこの人は長編がいいなぁ。SFでもミステリでもスケールの大きな、そして面白さ抜群の作品を読ませてくれる。
絶版になったりして読み逃してるのがけっこうあるので、ぜひ再刊してほしいなぁ。