恋と禁忌の述語論理 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
大学生・森帖詠彦(もりじょう・えいひこ)が遭遇した事件は、みな ”名探偵たち” によって解決した。
しかし、詠彦の叔母で天才論理学者・硯(すずり)さんの手にかかると、それらはことごとくひっくり返されていってしまう・・・という連作短篇集。
「レッスンI スターアニスと命題論理」
大学の友人に誘われ、ある女子大のOG会に参加した詠彦。アジアンカフェで行われたその食事会の席で、参加者の一人が嘔吐して倒れ、死亡する。
検出された毒物はアニサチン。日本国内で自生している「しきみ」の実に含まれる毒物だが、外見が東南アジア料理のスパイスとして使われるスターアニス(別名「トウシキミ」「八角」)によく似ていて、過去には誤食による中毒事件も起こっていた。
毒物の混入は意図的なものなのか、過失による事故だったのか。花屋の店長にして名探偵、藍前(あいぜん)あやめさんの推理は。
「レッスンII クロスノットと述語論理」
大学の先輩・中尊寺と共に大阪にやってきた詠彦は、雑居ビルの1階トイレで絞殺死体が発見された事件に遭遇する。犯行時間帯は昼間で、多くの人間が出入りしていた。多すぎる容疑者を前に中尊寺の推理が犯人を指摘する。
「レッスンIII トリプレッツと様相論理」
雪に閉ざされた洋館の離れで他殺死体が発見される。離れと本館の間には、往復の足跡が一組だけ残っていた。屋敷に住まう双子の犯行かと思われたが、どちらを犯人と仮定しても矛盾が生じてしまう。
シリーズ探偵・上苙丞(うえおろ・じょう)ほか、レギュラーメンバーが登場して場を盛り上げる(笑)。
この3つの事件に居合わせた詠彦は、3人の名探偵の推理を硯さんに話す。硯さんは「数理論理学」なるツールを繰り出してその解決を検証しはじめる。
数学の一種らしいのだが、正直なところよくわからん(笑)。事実関係を論理記号を使って組み合わせて解いていく様子は、さながら計算問題の過程を記述していくようである。実際、硯さんが紙に書いた ”計算過程” が挿入されているんだけど、これもよく分からない(笑)。
最初の推理が後になって否定される、いわゆる多重解決もの。その否定の根拠として「数理論理学」を持ち出されてくる。
だけど読み終わって考えてみると、べつに論理学云々を持ち出さなくても、証拠の解釈を変えたり、トリックを追加することで別の解決は導き出せる。
でもまあ、本格ミステリに論理学を導入して、それを硯さんに延々と講釈させる。「とにかく論理学でミステリを語りたい」という謎の情熱(?)が作者をここまで突き動かしてるのだろうと思われる。その計り知れない労力には敬意を表すべきだろう。
「進級試験 恋と禁忌の・・・?」
連作ミステリの常として、最後に置かれたこの一篇によってそれまでの3つの短篇がつながり、その裏に隠れていた別の面が明らかになっていく。この流れはなかなか鮮やか。
硯さんの正体が今ひとつ不明なのだが、いつか続編が出てわかるのかな?